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彼は内緒の旅行プランナー

旅の始まりは、いつも彼の言葉だ。

「今度の休み、釣りに行こうと思って」

一人で、という意味ではない。二人で行こう、という意味だ。彼の誘い方は少し曖昧で、少し自信なさげ。

前日の夜に海を訪ね、早朝から釣竿を持って繰り出した。

しかし結果はまずまずの惨敗。聞くところでは釣り糸を垂らせばたちまち魚がかかるということだったのだが、私は小魚を一匹、彼は四匹釣ったきりだった。

彼は少しばかり肩を落とした。私も少し肩を落とした。寝不足もあってちょっとだけ、しょんぼりした雰囲気。時刻はまだ午前10時。

彼は必死で考える。テーマパーク、ショッピング、美味しいもの。あれこれ頭をひねって考える。一番いいものはどれなのか。

行き着いた先は「海遊び」。釣竿をバケツに持ち替えて、二人でカニを捕まえて遊んだ。いい歳した大人が、とも思うが。

捕まえたカニの量は、他の観光客を驚かせた。小さい子はバケツを覗いて喜んでいた。私も一緒になって笑った。

夕方になって帰路に着く頃。しょんぼりした雰囲気はない。ただ二人で笑った。

彼の「私を喜ばせる計画」に、私はまんまとハマった。馬鹿らしくって少し幼くて。でも、なんでもない旅の一幕を彼は、見事に「礼遇」して見せたのだ。

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