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岩澤侑生子の行き当たりばったり台湾旅

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昨年まで現地の大学院に留学されていた俳優の岩澤侑生子さんが、台湾をぐるりと一周した旅の記録を綴っていきます。心の赴くまま、行き当たりばったりの旅をぜひ一緒にお楽しみください!
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狭き門をくぐって占い師とお茶する(台南・窄門珈琲)|岩澤侑生子の行き当たりばったり台湾旅(8)

台湾で「ちょっとどこかへ旅行しようかな」と口にすると、必ずといっていいほど名前があがる、台南。台湾人の友人たちは週末に時間ができるとよく台南に旅行する。台南には台湾の歴史が詰まっている。オランダ、鄭成功、清国、日本、そして現在に至るまで、幾層もの歴史が色濃く残る都市。行き当たりばったり旅6日目、台湾人が愛する台南に降り立った。 ホテルを出て太陽がギラギラ照り付ける台南の街を歩く。最初に目に留まったのは「全美劇院」の大きな手書きの看板。ペンキのこってりとした質感が台南の空によ

姉妹鉄道は続くよどこまでも(阿里山森林鉄道十字路駅)|岩澤侑生子の行き当たりばったり台湾旅(7)

奮起湖の朝。清々しい山の息吹とまばゆい光を放つ太陽を身体いっぱいに浴びる。絶好の散策日和だ。前方に広がる山並みを見渡しながら「阿里山はどの山?」と聞くと、阿里山は特定の山ではなく、台湾中南部にある玉山の西側エリアのことで、この辺一帯が全て阿里山なのだという。いつの間に、阿里山にいたなんて! 宿に隣接している奮起湖老街を女の子と歩く。「南台湾の九份」とも呼ばれる奮起湖老街は、台湾でもっとも標高が高い老街と言われている。コンパクトな老街だが、風情があって、他ではあまり見かけない

台北で髪を洗ってくれた台湾人女子と雲海を抜けて再会する(嘉義・奮起湖)|岩澤侑生子の行き当たりばったり台湾旅(6)

その女の子と初めて会ったのは、台湾生活のなかでも特に憂鬱な一日、修士論文の口頭試験の前日だった。順風満帆とは言えなかった大学院での研究の大きな区切りを目前に控え、少しでも楽な気持ちになりたくて美容院に入った。 席に座ると、髪を明るく染めた小柄な女の子が担当になった。髪を洗ってもらいながら、無事に卒業できたら台湾一周旅行にでるつもりだと話すと、「私の恋人の家族が奮起湖で民宿を経営していて、私もその時期にそこいるから、ぜひ泊まりにきて!」と提案された。聞き慣れない地名で、どのあ

宮原武熊の元邸宅で不老の夢をみる(台中)|岩澤侑生子の行き当たりばったり台湾旅(5)

台湾鉄道の台中駅近くに「宮原眼科」という煉瓦造りの建物がある。ここは元々、日本統治時代に日本人医師が開業した眼科医院だった。2011年末にパイナップルケーキで有名な日出グループが、しばらく使われていなかったこの建物を店舗に改装した。開放感のある吹き抜けの店内は、まるで絵本の世界に迷い込んだかのようだ。 3日間宿泊した台中から次の目的地に移動する日、たまたま通りかかった「不老夢想125号」という建物の名前に惹かれて、夏の青空に映える白亜の洋館へ吸い込まれた。 偶然にもこの建

夢見る汽車を横目にタイムスリップ(彰化・鹿港)|岩澤侑生子の行き当たりばったり台湾旅(4)

>>>バックナンバーから読む 彰化名物のバーワンのお店から、徒歩で彰化扇形車庫へ向かう。ここ彰化には、日本統治時代に建造された扇形の車庫がある。ちょうどこの年は、彰化扇形車庫が運用され始めてから100年を迎えた記念の年だった。 扇形車庫は、車体の角度を変える転車台(ターンテーブル)を真ん中に置いた車庫、長旅を終えた機関車のおうちだ。1922年に6両の蒸気機関車が入る格納庫として建造され、その後増築を重ねて1933年に12両の車庫になった。99度の扇状に広がっていることから

バーワンを齧りながら台湾新文学の父に思いを馳せる(彰化)|岩澤侑生子の行き当たりばったり台湾旅(3)

>>>第1回から読む 台中駅から台湾鉄道に乗っておよそ20分、台中に隣接する彰化に到着した。彰化駅は台湾鉄道の山線と海線の終着点。この旅で初めて降りた竹南駅から分岐した山線と海線が、ここで交差する。 駅の構内で「洪瑞珍」のお店を見つけたので、サンドイッチを購入。日本にもファンが多い「洪瑞珍」は、元は彰化で創業されたお店。ほんのり甘みを感じるサンドイッチは、シンプルなのに一度食べたらやみつきになる味だ。 彰化駅の観光スポットといえば、たくさんの列車が並ぶ扇形車庫が有名だが

黄金に輝く巨大仏とともに、日本と台湾を繋ぐ鐘の響きを想像する(台中)|岩澤侑生子の行き当たりばったり台湾旅(2)

>>>第1回から読む 移動しながらスマホで宿を検索すると、台中に清潔で値段も手ごろな宿を見つけた。台中を拠点にして行ってみたい場所がいくつかあったので、思い切って3日間連泊することにした。9日間のスケジュールの三分の一をひとつのエリアで過ごそうとするあたり計画性の無さが出ているけれど、この選択は正解だった。 宿に到着してテレビをつけると、米国連邦議会のナンシー・ペロシ下院議長が台湾を訪問するというニュースが流れた。それを受けて中国は8月4日に台湾周辺で「重要軍事演習」を行

適当に降りた見知らぬ街で、日本統治時代の建物と出会う(苗栗・竹南)|岩澤侑生子の行き当たりばったり台湾旅(1)

2022年夏、台湾がゼロコロナからウィズコロナ政策に向けて動き始めたころ、修士論文の口頭試問を終えた私は、ひとり台湾鉄道に乗り込んだ。 論文のテーマは日本統治時代の台湾。審査員の先生から「資料だけを読むのではなく、自分の足を使って論文を書いてください」とアドバイスを受けて、論文の最終提出前に、過去の記憶が色濃く残る台湾を一周することにした。 日本の九州ほどの大きさの台湾は交通手段が豊富だ。電車、バス、バイク、自転車、徒歩で台湾一周する人もいる。どうやって旅しようかと、台湾