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『不都合にもほどがある!(後編)未来の話ばかりしちゃダメですか?~ふぞろいな僕らの未来~』不適切にもほどがある!スピンオフ(二次小説)秋津睦実編

前編の続き

 「ここ、俺んち。ちょっと待ってろ。」

「ムッチ先輩の家ってだんご屋さんだったんですね。」

睦実はだんご屋からパックに詰めただんごを持ってきた。

「強、後ろに乗れよ。」

睦実は久しぶりにバイクを出すと強を乗せた。

「これからどこかへ連れて行ってくれるんですか?」

「まぁな。キョーコちゃんと行きたかったところへ連れてくよ。」

睦実は『渚のシンドバッド』、『勝手にシンドバッド』、『勝手にしやがれ』なんかを口ずさみながら、強を乗せたバイクを走らせた。

 着いた場所は冬の海だった。

「もうすぐ十二月だから、ちょっとさみーけど。冬の海も悪くないだろ?」

「はい、僕は夏もあまり海には来ないから、来れてうれしいです。」

「そうなのか?これからは夏も春も秋も俺がおまえを海に連れてきてやるよ。」

「ありがとうございます。」

「敬語じゃなくていーからさ。これ食ってちょっと待ってろ。」

強にだんごを渡すと、睦実は自販機へ向かった。

「わりぃ。あったかい飲み物は売り切れてて、これしかなかった。」

睦実は缶コーラを強に手渡した。

「ありがとう、ムッチ先輩。僕、コーラ好きだからうれしい。」

「でもだんごにコーラって合わねーよな。」

「そもそも海を見ながら砂浜でだんごも不思議な感じ。お花見じゃないのに。」

「だよな。」

「でもムッチ先輩の家のだんご、すごくおいしい。そうだ、音楽…かけていい?」

「ポケットラジオでも持って来たのか?」

「うん。」

《渚のバルコニーで待ってて ラベンダーの 夜明けの海が見たいの そして秘密…右手に缶コーラ 左手には白いサンダル》 松田聖子 『渚のバルコニー』

《まどろみの中で 生温いコーラに ここでないどこかを 夢見たよ 教室の窓の外に 電車に揺られ 運ばれる朝に…運命だとか未来とかって 言葉がどれだけ手を 伸ばそうと届かない 場所で 僕ら遊ぼうか》 RADWIMPS 『スパークル』

《遠くに聞こえた 遠吠えとブレーキ 一本のコーラを挟んで座った 好きなだけ喋って 好きなだけ黙って 曖昧なメロディー 一緒になぞった…想像じゃない未来に立って 僕だけの昨日が積み重なっても その昨日の下の 変わらない景色の中から ここまで繋がっている 迷子のままでも大丈夫 僕らはどこへでもいけると思う 君は笑っていた 僕だってそうだった 終わる魔法の外へ向けて 今僕がいる未来に向けて》 BUMP OF CHICKEN 『記念撮影』

「聖子ちゃんの曲は知ってるけど、後の二曲は初めて聴いたかも。俺、実はそんなに音楽詳しくねーからさ。大江千里もにわかファンだったりするし。」

「知らなくて仕方ない曲だから。僕も最近知った曲だし。コーラおいしいから、コーラの曲聴きたくて…。」

「ふーん?聴きたい曲がすぐに聴けるなんて便利なラジオだな。ところでさ、強。今からすごくおかしな話するけど、聞いてくれるか?」

コーラを飲み干した睦実は真顔になって言った。

「うん、ムッチ先輩の話、聞きたい。」

「俺さ、中学しか出てねーし、馬鹿だから、こんな話は作り話って笑われても仕方ないと分かってるけど…。」

「僕、ムッチ先輩の話ならどんな話でも信じるよ。」

「ほんとか?じゃあ強には腹を割って全部話すけど…俺…本当に未来に行ったことがあるんだ。」

「未来に行ったことがあるなんてすごい!『バック・トゥ・ザ・フューチャー』みたいなタイムマシンでもあるの?」

睦実の話を疑おうともしない強は目を輝かせながら尋ねた。

「あっさり信じてくれるんだな…。いや、あんなカッコいいデロリアンみたいな空飛ぶ車型のタイムマシンなんかじゃなくて、ただの路面バス。」

「えっ?路面バスのタイムマシン?」

「あぁ、何のへんてつもない古いバスだったぜ。」

「へぇーバスがタイムマシンになるんだ…。」

「そのバスに乗って、38年後の2024年に行った。つい最近。昭和じゃなくて、令和って年号に変わっててさ。東京タワーよりでかい、スカイツリーってタワーもあってさ。つるっとした板でみんな電話とか音楽聴いたり、支払いしてて…。それからいきなり!ステーキ、高輪ゲートウェイなんかもあって。キョンキョンは50代になってて…。ホストになれば億稼げる時代で、スタバではいろんなフラペチーノが飲めて、それから…音楽はヒゲダン、ミセス、Ado、YOASOBIとかが流行ってて、転調しまくりですごいんだよ。歌うには難しい曲が多くてさ。♪沈むように溶けてゆくように 二人だけの空が広がる夜に~」

睦実は令和で覚えたYOASOBIの曲を口ずさんだ。

「へぇー令和って時代はそんな感じなんだ。さっき、バイクに乗せてもらってる時も思ったけど、ムッチ先輩って、歌い方が絶妙だよね。下手過ぎす、上手くもなく、微妙というか…。」

「仕方ないだろ、令和に滞在できたのはほんの少しで、覚えきれなかったんだから。そもそもYOASOBIは難しいんだぜ。『アイドル』って曲も。」

《沈むように溶けてゆくように 二人だけの空が広がる夜に 「さよなら」だけだった その一言で全てが分かった 日が沈み出した空と君の姿 フェンス越しに重なっていた 初めて会った日から 僕の心の全てを奪った どこか儚い空気を纏う君は 寂しい目をしてたんだ》 YOASOBI 『夜に駆ける』

《誰かに愛されたことも 誰かのことを愛したこともない そんな私の嘘がいつか本当になること 信じてる いつかきっと全部手に入れる 私はそう欲張りなアイドル 等身大でみんなのこと ちゃんと愛したいから》 YOASOBI 『アイドル』

 強は持っていたポケットラジオのようなものからYOASOBIの曲を流した。

「へっ…?強…そのラジオって未来の曲が聴けるのか?一体どうなってるんだ?」

「これ、実はラジオじゃないんだ。弟からもらったハイレゾポータブルプレイヤー。つまり携帯オーディオプレイヤーなんだよ。」

「ハイレゾ…?ハイレグじゃなくて…?」

「ハイレゾは簡単に言えば高音質音源。水着じゃなくて。」

「へぇーそんなのがあるんだ。でも何で未来の曲が聴けるんだ…?」

「ムッチ先輩が未来に行ったことをすぐに信じたのには理由があって…。僕は未来に行ったことも、タイムスリップしたこともないんだけど、僕の弟が未来にいるから、その弟から時々、未来の話を聞いているんだ。弟は2054年の時代から来てくれて。」

強は真面目な表情で言い切った。

「えぇっと…つまり強の弟も俺みたいにタイムマシンで未来から過去へ来てるってことか?おまえ、弟がいるんだな。知らなかったよ。」

「正確に言えば、現代では生まれられなかった弟が、未来で生まれ変わって生きてるってことなんだけどね。」

「ごめん、俺バカだから、強の話を理解できてねーかもしれない。どういうことだ?」

睦実は頭を抱えながら強に尋ねた。

「弟は1978年に生まれるはずだったんだ。でも…当時宮城に住んでいて、宮城県沖地震に遭遇して。妊娠中だった母さんは地震に驚いて転んでしまって、流産してしまったんだ。弟はまだ生まれてないし、戸籍もないから、もちろん地震の死者にはカウントされなかった。たぶん大地震が起きる度に密かに消えてしまう命はたくさんあるんだと思う。」

「たしかに78年に宮城でおっきい地震があったな。そっか…あの時、強は宮城にいたのか。弟、気の毒だな…。強のおふくろさんも。」

「うん。それ以来、母さんは塞ぎ込むことが多くなってしまって。僕が十歳になった頃から夢の中に未来で生まれ変わった弟が現れるようになって、未来のことを話してくれるようになったんだ。クリスマスの朝には枕元にプレゼントも残してくれるんだよ。このプレイヤーもクリスマスにもらったんだ。2024年製だから、2054年から見れば古くて珍しいものみたい。」

「なるほどな…。だんだん分かってきたぜ。それで何で弟は強の夢に現れるんだ?おふくろさんのところへは行かないのか?」

「母さんの元へは行かないみたい。僕には重要な任務があるってことを伝えたくて、僕のところへだけ来てくれるんだ。」

「重要な任務?何だ?それ?」

「ムッチ先輩は…『ターミネータ―』って映画見た?」

「あぁ、見たよ。I’ll be backだろ?」

「うん。じゃあ説明しやすくて助かるけど、僕はジョン・コナーみたいなものなんだって。スカイネットに対抗する人類対抗軍の指揮者になる存在の。」

「えっ?じゃあ映画みたいに現実の未来で、自我の芽生えたコンピュータが引き起こす核戦争が起きるってことか?」

「弟から教えてもらった未来ではまだ核戦争は起きていないんだけど…。令和に行ったムッチ先輩なら、AIも知ってるよね?」

「何となくしか知らねーけど、男女を出会わせるマッチングアプリってのにAIが使われてたな。俺の息子の真彦がさ、そのアプリの開発してて。」

「そうなんだ。ムッチ先輩の息子さんもAIを使いこなしてるんだね。AIって人工知能のことなんだけど、そのAIが2030年代になると台頭して、人間を支配する脅威になるんだ。AIが暴走すれば、本当に核戦争も起き得る状況で。」

「AIってそんな怖い存在だったのか。じゃあ最初からAIを存在させないように、AIの誕生を阻止すればいいんじゃねーの?せっかくタイムマシンがあるんだからさ。」

「それは無理なんだ…。人間がAIを必要として、開発してしまうんだから。最初は幼児程度の知能しかなかったから、人間の力で制御できると信じられていたんだよ。子どもの学習能力をなめちゃいけないのにね。でも…どんどんAIの精度が向上して、最終的に人間以上の知能を獲得してしまうんだ。AIに対抗するため、自らの脳にAIチップを埋め込む人間も現れるんだけど、結局、AIに操られる人間になるだけで…。2030年代に残っているAIに脳をのっとられていない純粋な人間たちの生き残りが、AIの暴走を食い止めようと奔走してるんだ。タイムマシンやタイムトンネルの開発もその一環で…。」

「なんかほんとに映画もみたいな話だけど、それが未来なのか?俺は少しの令和しか知らないから、2030年の話をされてもピンと来ねーや。タイムトンネルもできるのか?」

「信じ難い話をしてしまってごめんね。でも本当なんだ。2020年頃から大流行するSARS-CoV-2というウイルスがもたらす病気のCOVID-19、つまりコロナだって、AIにとって不都合で邪魔な人間を減らすため、未来のAIが送り込んだものだし。僕の弟たちは、純粋な人間を一人でも多く取り戻すため、AIが台頭していなかった過去、今の時代に来て、AIに支配されていない純粋な人間の脳を研究してるんだ。AIが生まれていない時代に極秘研究所の基地を作ってね。AIが存在しない時代で研究すれば、AIにあまり邪魔されなくて済むから。それを遂行するためにはまずタイムマシンやタイムトンネルの開発が必要で、2024年にタイムマシンの開発が途中で終了する危機が訪れるから、それを阻止するのが僕の役目なんだって。」

「SARS-CoV-2とかCOVID-19って何だかターミネータ―のコードネームみたいで強そうだな。強の弟は人間の脳を研究している人なのか…。頭いいんだな。そして強は2024年にタイムマシンの研究員になるってことか?兄弟してすげーな。」

「ううん。僕はタイムマシンの研究員にはなれないよ。ゲーム…今はファミコンだけど、スーファミやプレステを経て、そのうちオンラインゲームの時代がやって来るから、その時、ゲームの開発者になって、お金持ちになって、タイムマシンの研究に出資するのが僕の任務。」

「へぇー強の未来はもう決まっているのか…。誰かに決められた未来に向かって生きるなんてつまらなくないか?」

「定められた運命を生きていることに気づくか気づかないかの違いだけで、みんな宿命を背負って生まれてると思うから、仕方ないよ。それに僕の場合は、好きなゲームをたくさんして、売れるゲームを作って、お金持ちになればいいだけだから、悪くない未来だと思う。何か命懸けの過酷なことをしなきゃいけないわけじゃないから。自分がどんな最期を迎えるかは教えられていないし。気楽だよ。」

「そっかーたしかにゲームで稼げばいいなら恵まれた人生かもな。俺なんてたぶん、最終的にはだんご屋継いで、食べ過ぎるのか肥える運命だぜ。でも息子が生まれるって分かったから、それだけで幸せな人生だと思える。俺なんかより、ずっと出来のいい息子だったし。」

「うん。幸せで太ったムッチ先輩に将来会えることを楽しみにしてるよ。お金持ちになったら僕が買う予定の、ランボルギーニのスーパーカーに先輩のことも乗せてあげるね。たぶんランボルギーニ・アヴェンタドールって車を買うはずだから。シザーズドアがすごくかっこいい車なんだ。」

「ランボルギーニの高級車なら知ってるぜ。俺、車の整備工場で働いてるんだ。だからもし将来、強が車のことで困ったら、修理してやるよ。それまで腕磨いておくからさ。ほんとにそのスーパーカーを買ったら、乗せてくれよ?」

「車に詳しいムッチ先輩がそばにいてくれたら心強いよ。」

「任せとけ。」

「ちょっと音楽聴こうか。これから2024年までの音楽を。」

「あぁ、令和ではちょっとしか音楽は知れなかったから、いろいろ教えてくれ。」

《幾千分もの奇跡をこえて 巡りあった夢 君にしか 話したくない これから そこまで 泳いで 瞳をさらいにゆくのさ その髪に その指に 太陽がいっぱい》 光GENJI 『太陽がいっぱい』

「この曲は、バブルが崩壊する少し前に、大ブレイクする光GENJIってアイドルグループの曲。大江千里が作った曲なんだよ。」

「へぇー千里の曲なんだ。いい曲だな。バブルって何だ?泡?」

「今年、1986年から1989年まで続く好景気のこと。1990年にバブルは崩壊するんだ。つまり経済低迷期に入る。」

「へぇー景気がいいのは今だけか。不景気になったら、うちの工場もつぶれてしまうかもな。だから俺はだんご屋を継ぐ運命なのかもな。」

「バブル崩壊と時期が重なるんだけど、昭和の後が令和じゃなくて、昭和天皇が崩御し、昭和の後、平成って元号に変わるんだ。1989年から。」

「えっ?もうすぐじゃねーか。そっか、昭和はあと数年しかないのか…。」

《振り返ると いつも君が笑ってくれた 風のようにそっと まぶしすぎて 目を閉じても浮かんでくるよ 涙に変わってく 君だけを信じて 君だけを傷つけて 僕らは いつも はるか はるか 遠い未来を 夢見てたはずさ》 藤井フミヤ 『TRUE LOVE』

「何?平成のチェッカーズの新曲なのか?すげーいいバラードだな。」

「これは1993年にリリースされるフミヤのソロ曲。いずれサザンの桑田さんもソロでも大ヒットさせるよ。『波乗りジョニー』とかね。」

「へぇーバンドからソロで歌うミュージシャンも増えるのか…」

《夏休みは絶対短い 100年前も 100年先もおんなじ 宿題だね ほんとの空の 透きとおる青 きみのとなりで見る事 誰も知らない場所 誰も知らない夢 近くにある そう教えてくれた》 大江千里 『夏の決心』

「これは1994年に発売される大江千里の夏歌だよ。子供向け番組内で愛される名曲になるんだ。」

「いい曲じゃん。気に入ったぜ。新しい夏歌だな。」

《とどまる事を知らない時間の中で いくつもの移りゆく街並みを 眺めていた 幼な過ぎて消えた帰らぬ夢の面影を すれ違う少年に重ねたりして…人は悲しいぐらい忘れてゆく生きもの 愛される喜びも 寂しい過去も…心のまま僕はゆくのさ 誰も知ることのない明日へ》 Mr.Children 『Tomorrow never knows』

《いつも 君と 待ち続けた 季節は 何も言わず 通り過ぎた 雨はこの街に 降り注ぐ 少しの リグレットと罪を 包み込んで》 My Little Lover 『Hello,Again~昔からある場所~』

「ミスチルはモンスターバンドになるんだ。マイラバのこの曲がリリースされた1995年には阪神淡路大震災という地震が起きる。」

「ミスチルにマイラバか…どっちもいい曲じゃん。その地震ならちょっと知ってるよ。その地震のせいで純子が死ぬとかキヨシのおふくろたちが話してるのを聞いちまったからさ…。ほんとかどうかわかんねーし、もしそうなりそうなら、俺が純子を救ってみせる。純子を地震で死なせはしない。」

「そうなんだ…。純子さんのことが本当に忘れられないんだね。キヨシって…?」

「純子と結ばれなくたって、純子を好きな気持ちは止められねーし、好きな女には生きていてほしいし、幸せでいてほしいからさ。一緒には生きられないとしても、俺より長生きしてほしい。キヨシは俺のマブダチだよ。」

「ムッチ先輩、純子さんのこと愛してるんだね。カッコいいな。キヨシくんとは友だちなんだ。奇遇だな。僕の友だちもキヨシっていうんだ。」

「へっ?そうなのか?もしかして…」

「向坂キヨシ。」

二人そろって口にした名前が一致した。

「なんだ、強のダチってキヨシだったのか。」

「まさかムッチ先輩も謎の転校生のキヨシとつながりあったなんて。世間は狭いね。」

「あーあいつは謎めいてるからな。ってか未来人なワケだし。」

「やっぱり未来人なんだ。僕、2024年になったらキヨシくんをみつけて再会して、キヨシくんのお父さんが開発しているタイムマシンのスポンサーしなきゃいけないんだ。」

「なんだ、キヨシのおやじがタイムマシンの開発者なのか。」

「うん、そうだよ。タイムマシンとタイムトンネルを完成させるためには、僕が稼ぐ予定の膨大なお金が必要なんだ。AIにとっては不都合な人間だけど、僕はがんばるよ。AIに支配される未来の世界が適切とは思えないから。」

「AIが人間を邪魔にするなんて不都合にもほどがあるし、そんな世界、不適切にもほどがあるよな。強、がんばってゲーム作って、億万長者になって、俺たちの未来と過去を守ってくれよ。」

「わかってる。それが、僕が生まれた使命だから。」

「もし、おまえの命が未来のAIから狙われているなら、俺が守るからさ。映画みたいに。」

「ケンカ強そうなムッチ先輩が守ってくれるなら、AIも怖くないや。」

「おまえも俺もちゃんと生き延びて、2024年になったら、キヨシも含めて三人で再会しようぜ。」

「うん、そうだね。キヨシくん、きっともうすぐ未来に帰ってしまうから。」

「やっぱりそうなのか。未来人なんだから、ずっと過去に留まることはできねーよな。寂しくなるぜ。」

《時は奏でて 想いはあふれる途切れそうなほど透明な声に 歩き出したその瞳へ 果てしない未来が続いてる…記憶の天秤にかけた 一つの傷が釣り合うには 百の愛を要する けれど心は海岸の石のように 波にもまれ 沢山の傷を得る事により 愛は形成されていく。》 L’Arc-en-Ciel 『虹』

「1997年頃からビジュアル系バンドブームが起きて、同時に小室哲哉も音楽界を席巻する。小室さんはTM NETWORKの人だよ。大江千里の『十人十色』もアレンジした人。」

「ビジュアル系?バンドブームに、小室時代か…。ラルクなんとかは今の音楽とは雰囲気が全然違うから驚くぜ。」

「奇抜なメイクや衣装で見た目も重視するロックバンドのことで、正確にはラルクはビジュアル系じゃないらしいんだけどね。もうじきデビューするX( JAPAN)みたいなバンドのことなんだ。」

《見えないモノを見ようとして 望遠鏡を覗き込んだ 静寂を切り裂いて いくつも声が生まれたよ 明日が僕らを呼んだって 返事もろくにしなかった 「イマ」という ほうき星 君と二人追いかけていた》 BUMP OF CHICKEN 『天体観測』

「平成は30年以上続くから、すべての音楽を伝えることは難しいんだけど、レコードじゃなくてコンパクトディスク、CDがたくさん売れる時代になるんだ。小室ブームが終わると宇多田ヒカルが現れて…。2000年代に突入すると、さらに音楽の幅は広がって。天体観測のバンプは最初にかけたコーラの歌、『記念撮影』って曲も作ったバンドなんだ。」

「まぁ、全部教えてもらえない方が楽しみも増えるからいいかな。生きてさえいれば、これから出会える音楽たちなわけだし。」

「そうだよね。全部知ってしまったら、つまらないよね。僕もまだ知らない曲はたくさんあるもの。すべては知れなくていいと思ってるし。でも2011年に阪神淡路大震災以上の地震が起きるんだ。その地震では巨大津波も起きるから、一時期、2000年にリリースされるサザンの『TSUNAMI』って曲はラジオやテレビで自粛されたんだ。」

《風に戸惑う弱気な僕 通りすがるあの日の幻影 本当は見た目以上 涙もろい過去がある…見つめ合うと素直にお喋り出来ない 津波のような侘しさに I know 怯えてる》 サザンオールスターズ 『TSUNAMI』

「へぇーサザンは『TSUNAMI』って歌を作るのか。いいバラードだけど、地震や津波が起きたら、そりゃかけられないよな。日本は定期的に地震が起きる地震大国だし。」

「2011年以降も、2016年や2024年にも大きな地震が起きて、死者も出るんだ。僕の弟と同じように、きっとカウントされない死者もいる。生まれられなかった子たちは、優先的に生まれ変われる順番が巡ってくるんだって。生まれ変わる時、神さまから使命を与えられて。生まれて亡くなった人もよっぽどの極悪人じゃない限り、生まれたいと望めば、いずれまたこの世に生を授かれるらしい。つまり僕らも誰かの生まれ変わりかもしれないよね。忘れているだけで。」

「命ってそういう仕組みなのか…。それなら宜保愛子が言うみたいに霊もほんとに存在するのかもな。生まれ変わる順番待ちの霊とかさ。令和に行った時、『推しの子』ってマンガをチラ見したんだけどさ、あれも転生の話だった。生まれ変わりブームみたいな時代だよな、令和って。」

「そうだね。昭和は宜保愛子とか超能力とか、ノストラダムスの大予言とかオカルト流行ってるけど、令和は転生ブームかもね。僕は元々、恐山のイタコに興味あったんだ。でもイタコに口寄せしてもらわなくても、弟とは会話できるから。」

「強はいーよな。人類を救う任務を伝えるためとはいえ、亡くなった弟と定期的に話せるんだから。俺だって死んだばあちゃんやじいちゃんと話せるものなら、会話してみたいぜ。」

「僕ばっかり弟に会えて、申し訳ない気もするけどね。ほんとは母さんの方が、弟に会いたいはずだから…。」

「命ってせつない存在だよな。一瞬で生き死にが決まってしまうからさ。生きていてもいつでも死と隣り合わせで。健康だとつい忘れてしまうけど、バイクで事故った時はひやっとしたぜ。」

「ほんとだよね。事故や災害は突然起きるから。じわじわ死が忍び寄る病気もつらいけど。生きてるって奇跡なんだって思うよ。」

「そうだぜ。生きてるだけでもうけもんだと思う。だからさ、強、たまには学校行けよ?毎日行けとは言わないから。時間なんて無限にあるように思えて、案外あっという間に過ぎてしまうものだからさ。決まっている未来があって、ゲーム作るためにゲームに夢中になるのもいいけど、学校でダチと出会えるのも悪くないぜ。気の合う奴なんてほんの数人しかみつけられないのが普通だけど、たったひとりでもマブダチみつけられたら最高だから。ダチのおかげで人生豊かになると俺は思ってる。ひとりも悪くはないし、ラクだけど、俺は強やキヨシと出会えて楽しくなれたから。キョーコちゃんのおかげで職場にも復帰できたしさ。」

「うん、そうだね。たまには学校行くよ。僕もムッチ先輩やキヨシくんと出会えて、生活が楽しくなったし。」

「昭和の今はまだ、登校拒否してるとか侮辱されて、学校へ来いと強制的に言われる時代だけど、そのうち多様性つーの?どんな境遇の人のことも受け止めて、受け入れる寛容な時代が訪れるはずだし。令和で覚えたんだ。多様性のこと。」

「うん、多様性を認める時代は必ず来るものね。学校に行けない子のためにフリースクールもできるらしいし。男が男を好きになっても、女装してもとやかく言われない寛容な時代が訪れると分かっているから、未来が楽しみだよ。でも、差別はいけないとか、コンプラがどうとか取り締まりが厳しくなって、逆に生きづらさを感じる人も出るだろうけど。」

「それはまぁ仕方ないさ。昭和には昭和の、令和には令和の良さがあって、その反面、それぞれの時代のほころびも避けられないから。」

「そうだよね。それぞれの時代の良いところ、悪いところを素直に認めて、寛容になることが肝要だよね。」

「そうだ、寛容が肝要だぜ。多様性って言葉を知れたおかげで、俺は、マッチ、フミヤや尾崎、道化師や中也、千里に憧れても、何に憧れてもいいじゃないかと思えた。逆に、マッチ、フミヤ、尾崎、千里、道化師や中也になれなくても、純子の男になれなくても仕方ないかって今は思える。何者になれなくたって、たまに学校や仕事さぼって、家にひきこもりたくなったって、ラジオしか聴けない状態になったっていいじゃねーかって。カッコつけたって、カッコ悪くたって、正しくたって、不適切だって、生きてるだけでそれでいいって。」

《○×△どれかなんて 皆と比べてどうかなんて 確かめる間も無い程 生きるのは最高だ》 BUMP OF CHICKEN 『ray』

「ムッチ先輩、いいこと言うね。どんな自分だとしてもまずは自分が受け入れて、おおらかな気持ちで生きることが肝心だよね。僕は定められた未来に向かって生きてるけど、たまには寄り道して、別の生き方もしてみようかな。十人十色が受け入れられる時代はいずれやって来るんだから。たとえば僕もマッチになりきってみるとか。」

「マッチになりたいなら、俺に任せろ。革ジャンもバイクも強に譲ってやるから。何しろ俺は今、千里になりきるので忙しいからさ。」

「頼りにしてるよ、ムッチ先輩。」

「任せろよ。それとさ、強のこと、やっぱキョンキョンって呼んでもいーか?なんか俺より未来に詳しいし、不思議ちゃんだから。」

「強でもキョーコでも、キョンキョンでも何でも好きに呼んで。未来に降り立ったムッチ先輩しか僕の話を受け止めてくれる人はいないから。ずっと孤独だったんだ。誰にも打ち明けられなくて。こんな話、言ったところで信じてもらえるわけないじゃない?頭おかしい、病院に行きなさいって言われるのが分かってるから、誰にも言えなかったんだ。」

「キョンキョンはもう孤独じゃないぜ。俺と未来の秘密を分かち合ったんだから。令和に行ったことのある俺は、おまえの話を信じるしかないだろ。」

「ムッチ先輩…ありがとう。僕、今日、先輩と一緒に見たこの景色、一生忘れないよ。」

「俺も…未来に思いを馳せながら、おまえと話せたこと、この景色は生涯忘れないぜ。」

全然違うようで似た者同士の二人は、海に沈みゆく夕日をみつめながら呟いた。波音のリフレインが砂浜で静かに佇む二人を包み込んでいた。

《2021年しるしをつけよう 君と僕がおんなじ世界で息をした その証として 戦うのさ 僕らは強く生きるため 君の涙が教えてくれた 迷わないで信じた一筋の光 残したいものはたったひとつだけ 似た者同士だねって笑う、そんな景色だ》 菅田将暉 『ラストシーン』

「お兄ちゃん…彼と出会えて良かったね。」

《僕が生まれた日の空は 高く遠く晴れ渡っていた 行っておいでと背中を撫でる 声を聞いたあの日…風を受け走り出す 瓦礫を越えていく この道の行く先に 誰かが待っている 光さす夢を見る いつの日も 扉を今開け放つ 秘密を暴くように 飽き足らず思い馳せる 地球儀を回すように》 米津玄師 『地球儀』

 「♪どこにいたの 探してたよ 連れてって 連れてって 何もかも捨ててくよ どこまでも どこまでも…新しい日々も 拙い過去も 全てがきらりー」

強をバイクに乗せて帰る時、俺は藤井風の曲を口ずさんでいた。

「やっぱり、音痴過ぎず、上手くもなく、絶妙な歌い方。ムッチ先輩、藤井風も知ってるんだ。」

「あぁ、藤井風の『きらり』も先輩ホストがカラオケで歌ってたのを聞いて覚えたんだ。」

「そうなんだ。じゃあ藤井風の曲で僕が知ってる最新曲を教えるね。たぶん、ムッチ先輩は知らないと思うから。」

《走り出した午後も 重ね合う日々も 避けがたく全て終わりが来る あの日のきらめきも 淡いときめきも あれもこれもどこか置いてくる…明けてゆく空も暮れてゆく空も 僕らは超えてゆく 変わりゆくものは仕方がないねと 手を放す、軽くなる、満ちてゆく》 藤井風 『満ちてゆく』

 強を家に送り届けた後、帰宅すると家の前で不機嫌そうな明美がしゃがみ込んでいた。

「もう、ムッチ先輩!こんな時間までどこに行ってたんですか?」

「明美…?ちょっと海まで行ってた。」

いつもと違う雰囲気の服装の明美に俺は、妙にドキドキしてしまった。

「あの子と?ムッチ先輩、あの男の子とどういう関係なんですか?」

「どういうって…ただのダチだよ。」

「それならいいんですけど。私、ずっとムッチ先輩のこと好きでした。中学生になって初めて先輩を見た時からずっと。純子には敵わないけど、私も純子みたいにスケバンはやめて、ぶりっ子になるから、ムッチ先輩好みの女になれるように努力するから、私と付き合ってください。私が睦実先輩のことを幸せにしますから。」

明美はヒラヒラのフリルやリボンのついたワンピース姿で必死に告白してくれた。

「かわいい…。」

違う雰囲気の明美に見とれた俺は、思わず心の声を漏らしてしまった。

「えっ?私のことをかわいいって先輩が言ってくれた。どうしよう。うれしい。思い切ってピンクハウスのワンピース買って良かった。お付き合い、OKってことですよね?」

「あぁ、俺と付き合ってくれ。明美!」

 あぁ、何だかとてつもなくいろんなことがありすぎた濃い一日だったぜ。本物のキョンキョンと遭遇したすぐ後、キョーコと出会い、正体を知り、撃沈し、海でキョンキョンとまったり長話して、ひょんなことに明美という彼女ができた。キョンキョンと砂浜にいた時は、まるで未来にいる気分だった。未来の曲ばかり聴いていたせいか。本当に不思議な奴。

《時が過ぎて 今 心から言える あなたに会えて よかったね きっと 私 世界で一番 素敵な恋をしたね》 小泉今日子 『あなたに会えてよかった』

 ムッチでーす。今は千里だけど、土台はマッチ。マッチは俺の青春そのもの。純子にフラれ、紆余曲折、フミヤや尾崎を経て千里に至り、現在は明美とラブラブな俺。そんな俺は大江千里に想いを伝えることにした。

 「大江千里さま

俺は格好悪いふられ方をしました。勝手に両想いだと思い込んで、プロポーズしたのにあっけなく断られて。フラれたショックで部屋に閉じこもっていた時、ラジオを通じて知り合った友だちがあなたの曲を俺に教えてくれました。『きみと生きたい』という曲です。それ以来、あなたのファンになった俺は千里風のファッションで身をかためて暮らしています。最近、彼女ができました。フラれた女のことが忘れられなかったはずなのに、俺はあっさり次の恋をみつけて生きています。なんだか道化師みたいです。最初はマッチに憧れました。次はフミヤと尾崎豊。そして今、大江千里というあなたを目指しています。あなたが歌うように、十人十色が受け入れられる時代が必ずやって来ると思います。格好悪い生き方だっていいですよね。誰に憧れても、どんな生き方しても、たまにしくじったり、怠けたり、未来に思いを馳せしたり、とりとめのないことばかり考えてもいいですよね?みんなそれなりに悩んで、もがいて、あがきながら生きてる。そんなみんなのことを受け止めて、受け入れて、手と手を取り合いながら未来を信じていけたらいいとあなたの曲を聴いて思いました。これからも新曲を楽しみにしています。 ラジオネーム・未来に降り立った男」

《きみが欲しい いまでも欲しい きみの全てに泣きたくなる もしもきみに逢わなければ 違う生き方 ぼくは選んでいた 格好悪いふられ方 二度ときみに逢わない 大事なことはいつだって別れて初めて気がついた》 大江千里 『格好悪いふられ方』

 大江千里がパーソナリティを務めるラジオ番組宛てにこんなハガキを出した。俺のハガキが数年後に発売される新曲のきっかけになるのではないかと密かに期待している。明美が真彦の母親なのかはまだ分からない。けれど俺は明美のことを信じて、いとしの明美との恋に生きると太陽に向かって決心した。明美は純子と同じくらい、いや、純子以上にいい女だから。俺のために愛を燃やし続けてくれ、明美。俺に夢中になってくれる明美が愛しくて仕方ないぜ。今や、俺の方が明美にメロメロで首ったけだ。末永くよろしくな、俺のかわいい明美。

《泣かした事もある 冷たくしてもなお よりそう気持ちがあればいいのさ 俺にしてみりゃ これで最後のLady エリー My love so sweet》 サザンオールスターズ 『いとしのエリー』 

《笑顔の似合う娘より ちょっと気取った まなざし 燃えろ いい女 燃えろ ナツコ はずむ夕陽 オマエとの出会い》 ツイスト 『燃えろいい女』

 眠りにつく直前まで明美のことばかり考えていたせいか、俺の息子がギンギラギンになっちまったみたいだぜ。股間の辺りに違和感を覚えて、起き上がって見ると、案の定、布団がもっこりしていた。まいったな。どんどん大きくなって止まらないぜ。どんどん…どんどん…大きくなって…。って、大きくなりすぎだろ。気づけば股間の膨らみは俺が知る限りの我が息子の最大サイズをはるかに超えていた。

 恐る恐る布団の中を覗いてみると、見知らぬ子どもが顔をひょっこり覗かせた。

「やぁ、ひいおじいちゃん。会いたかったよ。」

「うぁっ、誰だ?おまえ?ひいおじいちゃん?」

「ぼくはゆきとっていうんだ。おじいちゃんが真彦で、おばあちゃんが渚って言えば分かってくれるかな?」

「真彦…?俺の未来の息子の?」

「そうそう。真彦おじいちゃんには2026年に娘が生まれるんだ。ぼくはその娘の子。2054年からタイムトンネルを使って会いに来たよ。」

「真彦の娘の子…?2054年、タイムトンネルだって?どっかで聞いたような…。」

ベッドの下を見てみると、子どもがひとり通れそうな穴がぽっかり開いていた。

「もう少し説明すると、ぼくは1978年に生まれ損ねた人間で、その子の生まれ変わりなんだ。強って名前のお兄ちゃんがいてさ。」

「あー強の…キョンキョンが言ってた弟か、おまえは!」

「そうそう。ぼくは強兄ちゃんの弟で、真彦おじいちゃんの孫。そして睦実ひいじいちゃんのひ孫だよ!分かってくれた?」

股間のもっこりは息子ではなく、どうやら俺のひ孫だったらしい。

「なるほど…そういうことか…。理解したけど、なんで俺のとこへ来たんだ?強のとこへ行かなくていいのか?」

「あのね、ひいおじいちゃんに、釘をさしに来たんだよね。」

「釘をさすって?まさかおまえ、俺を殺しに来たのか?ターミネーターみたいに。」

「違う違う。うんとね、真彦おじいちゃんの元へ生まれる娘、つまりぼくのママは、純子さんって人の生まれ変わりなんだよね。ちなみにパパは純子さんのお父さん、市郎さんの生まれ変わりなんだって。ここまで分かった?」

「はっ?ええと…真彦の娘として生まれる子は、純子…純子の生まれ変わりだって?そして純子と結婚するのは純子の親父さん?そんなの近親相姦じゃねーか。許されるわけねー。まさか純子の運命の相手が地獄の小川だったなんて…。」

「ひいおじいちゃん、落ち着いて。違うよ。あくまで純子さんと市郎さんの生まれ変わりってだけだから、もう血縁関係はないし、近親相姦なんかじゃないから。ぼくのママとパパは。」

「あぁ…そっか…生まれ変わりな。ってことはやっぱり早くに死んじまうってことか?純子は。くそっ、純子を長生きさせてやりたいのに。」

「それだよ。そこに釘をさしに来たの。ひいおじいちゃんが変な気を起こして、純子さんと市郎さんを救ってしまったら、タイムパラドックスが生じて歴史が変わってしまうから、ぼくはそれを阻止するために来たんだよ。」

「タイム…パラダイス?学園天国の類か?」

「もう、違うってば。ひいおじいちゃんがあまり賢くないことは知ってるから、説明するのが難しいよ。とにかく、ひいおじいちゃんが、二人の命を救ってしまったら、生まれ変わるタイミングがズレて、ぼくが存在できなくなってしまうんだ。」

「あーなるほどな。なんとなくわかったぜ。2026年に真彦の娘で純子の生まれ変わりの子が誕生しないとおまえが困るってことか。」

「ぼくが困るわけじゃなくて。世界が困るんだよね。ぼくは2054年、純粋な人類を存続させるために脳の研究をする使命があるから。ぼくが存在しないと世界は不都合なことになるってこと。AIたちにとっては、ぼくは生まれない方が都合いいだろうけどね。」

「でもさ、おまえまだ7、8歳くらいだろ?そんなガキが脳の研究って…。しかもおまえの母親は2026年生まれなら、かなり若い時におまえを産んだことになるよな?」

「ひいおじいちゃんは信じられないかもしれないけど、ぼくはIQ130以上のギフテッドだからさ。8歳だけど、国から任命されて研究員をしてるんだ。たしかにママはぼくを20歳で産んでくれたから、まだ若いよ。」

「純子は20歳で出産するのか…。ギフト…?贈り物?もしやおまえは神さまからのプレゼントってことか?」

「ママは純子って名前ではないし、ギフテッドはギフトじゃないけど…まぁ、そういうことにしていいよ。神さまから選ばれてその時代に生まれたのは事実だから。とにかくタイムパラドックスを防ぐため、しばらくひいおじいちゃんの見張りも兼ねて、ここで暮らさせてもらうね。ひいおじいちゃんは何を仕出かすか分からないからさ。」

「はっ?ここで暮らすだって?そんなの無理に決まってるだろ!」

「大丈夫だよ。ぼくはちゃんと大人しく過ごすし、だんご屋さんも手伝うから。」

「ちょっと待ってくれよ。頭ん中を整理するから。俺のひ孫だっていうおまえは、真彦の息子で、真彦の娘は純子の生まれ変わりで…つまり純子は俺の孫ってことになるのか?俺が純子のじいちゃん??」

「落ち着いて。ぼくのママは純子さんの生まれ変わりってだけで、ひいおじいちゃんが知ってる純子さん本人ではないんだよ?」

「それは分かってるけどよ…うおぉぉー」

純子のこととなると未だに冷静ではいられない睦実は雄叫びを上げた。

 「睦実―何時だと思ってるの。夜中に何、騒いでるんだい?」

騒ぎを聞きつけた睦実の母親が、睦実の部屋にやって来た。

「おふくろ、ごめん。なっ、何でもないから。」

睦実は慌ててゆきとを布団の中に隠そうとしたが、間に合わなかった。

「その子…誰だい?まさかおまえ…隠し子なんかじゃないだろうね?」

「ちげーよ。俺はまだ彼女とだってしたことない、童貞なんだから!」

くすっとほくそ笑んだゆきとは睦実の母親にあいさつした。

「はじめまして、ムッチ先輩のお母さん。小二の浦島幸与と言います。ぼくがひとりで泣いていたら、やさしいムッチ先輩が声をかけてくれたんです。ぼくのパパは海外に赴任中でママもついて行ったから、ぼくはおじいちゃんとおばあちゃんの家に預けられていたんですが、最近二人とも入院してしまって…。ぼくは外国には行きたくないから、ひとりでがんばろうって思ってて。でも寂しくて…。そのことをムッチ先輩に話したら、うちに来いよって言ってくれたんです。」

ゆきとは即席の作り話を睦実の母親に涙ながらに流暢に話した。

「まぁまぁ、そうだったの…。それは気の毒ね。小学二年生なのにゆきとくんはしっかりしてるのね。睦実を慕ってくれているようだし、おじいちゃんたちが退院するまでうちで良ければ一緒に暮らしましょう。ゆきとくん、おなか減ってない?おだんご食べるかい?」

「はい、食べたいです!ムッチ先輩のお母さん、ありがとう!」

「今持ってくるから、ちょっと待っててね。」

名子役のような演技ぶりのゆきとの傍らで、睦実は唖然としていた。

「そういうことだから、ひいおじいちゃん、これからよろしくね。ついでに童貞卒業するのもちゃんと手伝ってあげるから。誰より先にまずはちゃんと真彦おじいちゃんを存在させてもらわないと困るからね。」

屈託のない笑顔を見せたゆきとは小声で睦実にささやいた。

 (うおぉぉー一体何なんだ、こいつは。こんなガキと一緒に暮らすなんて、俺はこれからどうしたらいいんだ?マッチ、フミヤ、尾崎、千里、誰でもいいから助けてくれ!)

 頭の回転の速いひ孫のゆきとに睦実が振り回される騒がしい日々が幕を開けた夜だった。

《今 何時? そうね だいたいね 今 何時? ちょっと 待ってて 今 何時 まだ 早い 不思議なものね あんたを見れば 胸さわぎの腰つき…》 サザンオールスターズ 『勝手にシンドバッド』

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