奥野ヒラメ

とある山の小さな小屋で 散歩をしながら書き物をしています。 どこかでばったり出会ったな…

奥野ヒラメ

とある山の小さな小屋で 散歩をしながら書き物をしています。 どこかでばったり出会ったならば、一緒にお茶をのみましょう。

記事一覧

眠り

巨人は夢を見ていた いや,随分目を覚ましていないことを 巨人は知っていた 最初に目を閉じた時の記憶はもうない ずいぶん雨に降られて湿っていく身体を そこに苔むす小…

奥野ヒラメ
12日前
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プール

ちゃぽんちゃぽんという  胃のあたりに感じる水 カラフルな味や形がゆれる 姿を変えていく ちゃぽんちゃぽんという ミクロに分解された細胞が 今度は意志を持って泳ぐ …

奥野ヒラメ
1か月前

平日の怪獣

時間を過ぎても戻らないので 少し涼しくなった裏庭の、 サビた、まる椅子に腰掛けて しばらく風をやり過ごしてから あの穴を覗くことにした 遠くに人の住む街がみえる こ…

奥野ヒラメ
2か月前
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洞窟と蝶

頬骨にさらされた太陽が まんじりとも動かない 月に見立てた花びらも その照り返しで動けない 隣で寝ている大きな口が 突然,あたりいちめん 部屋いっぱいのあくびをした…

奥野ヒラメ
3か月前
1

ハイエナ

ハイエナのような ハイエナのような ハイエナのような人が苦手です。 目は虹の形をしていて 必ずほおから寄せてくるのです くんくんくんくんくんくんくんくん いつも鼻を…

奥野ヒラメ
3か月前
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朝 西の窓から外を見上げると 半分空に消された白い月がこちらを見ている 見守るのではなく睨むように  その眼差しは震えている 北の窓では、黄色い光が白いカーテン…

奥野ヒラメ
3か月前
1

ずうっとそうしていたかった

明晰さ、 と 敏感さ、 ある朝、二つの言葉が、なぜだか歩みをそろえて、 私のところにやってきた   よくわからないまま,目を擦ったり 頬を叩いたりしているうちに 明…

奥野ヒラメ
3か月前

散歩にまつわる幾つかの出来事〜桜編①

散歩にまつわる幾つかの出来事〜桜編① ある日、静かな森を案内してくれる友人に会いたくなって、いつもの場所で待ち合わせをした。 散歩を一緒に始めてから、初めての雨…

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人生ミックスジュース

気分を変えるために、別の名前を作った。 100枚書いて100枚捨てた。 がんに犯され、余命幾許もないシンガーが、心境をメロディに乗せて聞かせてくれた時、何か、と…

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眠り

眠り

巨人は夢を見ていた

いや,随分目を覚ましていないことを
巨人は知っていた

最初に目を閉じた時の記憶はもうない

ずいぶん雨に降られて湿っていく身体を
そこに苔むす小さな微生物たちを
そこに吹く風を
眩しいくらいに降り注ぐ太陽の光を
いく年もいく年も眺めているうちに

いつのまにか目を閉じたのだ

ときおり小さな鳥が飛んできて美しい声で鳴いた

すると,巨人は沈黙した夢の世界で
目覚めることがで

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プール

プール

ちゃぽんちゃぽんという 

胃のあたりに感じる水
カラフルな味や形がゆれる
姿を変えていく

ちゃぽんちゃぽんという

ミクロに分解された細胞が
今度は意志を持って泳ぐ

溶けていきながら、そのミクロの意志が
ちょうどいい温水の流れるプールに次々と運ばれていく

プールサイドでの熱い抱擁を待ちながら

そこで“わたし“は別のものに変わるのだ

夥しい数の血管のチューブは温水プールの流れる先まで延々

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平日の怪獣

平日の怪獣

時間を過ぎても戻らないので

少し涼しくなった裏庭の、
サビた、まる椅子に腰掛けて
しばらく風をやり過ごしてから
あの穴を覗くことにした

遠くに人の住む街がみえる
ここを吹き抜ける風は,その街の吹き溜まりで
窮屈な音をたてながら引き換えそうとしている  

そのわずかな残響も行き交う車のクラクションでかき消されてしまった

ふと軽い眩暈がしたので
怪獣はそっと穴に蓋をした

まんじりともしない月

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洞窟と蝶

洞窟と蝶

頬骨にさらされた太陽が
まんじりとも動かない

月に見立てた花びらも
その照り返しで動けない

隣で寝ている大きな口が
突然,あたりいちめん
部屋いっぱいのあくびをした

ますますねじれた布団の中の
わずかな隙間で耳を塞ぐ

目覚めてしまう。しまう、しまう。

心臓が喋り出した

おいでおいでおいで
心臓は私を招き入れると
ぴたりと二重の扉を閉めた

ねじれた血管
無数の動き

その洞窟に身を寄せ

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ハイエナ

ハイエナ

ハイエナのような
ハイエナのような
ハイエナのような人が苦手です。

目は虹の形をしていて
必ずほおから寄せてくるのです

くんくんくんくんくんくんくんくん
いつも鼻を鳴らして美味しそうなものを探している

ひょいといつのまにか張り付いて
おいしいおこぼれを食い尽くすと

また美味しそうなにおいを
ここに張り付きながらさぐっているのです。

次のおこぼれにむかう
その一歩に乗り遅れないように,異様

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朝

朝 西の窓から外を見上げると

半分空に消された白い月がこちらを見ている

見守るのではなく睨むように 
その眼差しは震えている

北の窓では、黄色い光が白いカーテンを灯している 

隣家の窓に映り込んだ朝焼けの残像
照り返す強い光の輪郭は,白い壁色全体を塗り替えながら、いつのまにか失われていった

反対側のドアを開けて,外に走りでた
朝日はまだそこにあった

鳥の鳴き声に遮られながら、さらにその

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ずうっとそうしていたかった

ずうっとそうしていたかった

明晰さ、

敏感さ、

ある朝、二つの言葉が、なぜだか歩みをそろえて、
私のところにやってきた  

よくわからないまま,目を擦ったり
頬を叩いたりしているうちに

明晰さ、という言葉が
何やら独特な声で喋り始めた 
“敏感なのとは違うんだ“

敏感さ、は、どうやら生き物ではないらしく
ふいごのようにただ身体の周辺で膨らんだりしぼんだりしていた。

明晰さ、は、頭脳というより
むしろ肌感覚、如何

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散歩にまつわる幾つかの出来事〜桜編①

散歩にまつわる幾つかの出来事〜桜編①

散歩にまつわる幾つかの出来事〜桜編①

ある日、静かな森を案内してくれる友人に会いたくなって、いつもの場所で待ち合わせをした。

散歩を一緒に始めてから、初めての雨模様。
彼女に会う時はいつも決まってよく晴れた。

今日も晴れの予報だったから、やっぱりな、とちょっとどこか優越感のようなものを感じながら、家のドアをでると、なんと止む気配のない雨が降っていた

桜が見たかったのだ
青空の下で。

いつ

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人生ミックスジュース

人生ミックスジュース

気分を変えるために、別の名前を作った。
100枚書いて100枚捨てた。

がんに犯され、余命幾許もないシンガーが、心境をメロディに乗せて聞かせてくれた時、何か、とても深いところで共感した。

余命は知れず、まだまだ生きていかなければならない課題を背負って。美しい弱音は、余命幾許もない、という究極の状況に立たされた方にだけ許された特権だ。

それに静かにあやかって、今日は別の名前を自分につけて見た。

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