奥野ヒラメ

とある山の小さな小屋で 散歩をしながら書き物をしています。 どこかでばったり出会ったな…

奥野ヒラメ

とある山の小さな小屋で 散歩をしながら書き物をしています。 どこかでばったり出会ったならば、一緒にお茶をのみましょう。

最近の記事

プール

ちゃぽんちゃぽんという  胃のあたりに感じる水 カラフルな味や形がゆれる 姿を変えていく ちゃぽんちゃぽんという ミクロに分解された細胞が 今度は意志を持って泳ぐ 溶けていきながら、そのミクロの意志が ちょうどいい温水の流れるプールに次々と運ばれていく プールサイドでの熱い抱擁を待ちながら そこで“わたし“は別のものに変わるのだ 夥しい数の血管のチューブは温水プールの流れる先まで延々と続いていた ひとつあたまの真ん中に、海の記憶を秘めた 神聖なプールが波音ひと

    • 平日の怪獣

      時間を過ぎても戻らないので 少し涼しくなった裏庭の、 サビた、まる椅子に腰掛けて しばらく風をやり過ごしてから あの穴を覗くことにした 遠くに人の住む街がみえる ここを吹き抜ける風は,その街の吹き溜まりで 窮屈な音をたてながら引き換えそうとしている   そのわずかな残響も行き交う車のクラクションでかき消されてしまった ふと軽い眩暈がしたので 怪獣はそっと穴に蓋をした まんじりともしない月が見ている その反射で光る扉が そっと開いた 今日の月はなんだか妙だね 人

      • 洞窟と蝶

        頬骨にさらされた太陽が まんじりとも動かない 月に見立てた花びらも その照り返しで動けない 隣で寝ている大きな口が 突然,あたりいちめん 部屋いっぱいのあくびをした ますますねじれた布団の中の わずかな隙間で耳を塞ぐ 目覚めてしまう。しまう、しまう。 心臓が喋り出した おいでおいでおいで 心臓は私を招き入れると ぴたりと二重の扉を閉めた ねじれた血管 無数の動き その洞窟に身を寄せて しばらくじっと 波打つ鼓動に揺られていた ずいぶんたって まだ慣れない呼吸

        • ハイエナ

          ハイエナのような ハイエナのような ハイエナのような人が苦手です。 目は虹の形をしていて 必ずほおから寄せてくるのです くんくんくんくんくんくんくんくん いつも鼻を鳴らして美味しそうなものを探している ひょいといつのまにか張り付いて おいしいおこぼれを食い尽くすと また美味しそうなにおいを ここに張り付きながらさぐっているのです。 次のおこぼれにむかう その一歩に乗り遅れないように,異様な音をたてて 爪を磨きます。 さよなら、が美しくないのです。 食べ散らかし,吸

          朝 西の窓から外を見上げると 半分空に消された白い月がこちらを見ている 見守るのではなく睨むように  その眼差しは震えている 北の窓では、黄色い光が白いカーテンを灯している  隣家の窓に映り込んだ朝焼けの残像 照り返す強い光の輪郭は,白い壁色全体を塗り替えながら、いつのまにか失われていった 反対側のドアを開けて,外に走りでた 朝日はまだそこにあった 鳥の鳴き声に遮られながら、さらにその光を追いかけると 暖かい日差しが,何事もなかったように 足元から私を包み込んだ

          ずうっとそうしていたかった

          明晰さ、 と 敏感さ、 ある朝、二つの言葉が、なぜだか歩みをそろえて、 私のところにやってきた   よくわからないまま,目を擦ったり 頬を叩いたりしているうちに 明晰さ、という言葉が 何やら独特な声で喋り始めた  “敏感なのとは違うんだ“ 敏感さ、は、どうやら生き物ではないらしく ふいごのようにただ身体の周辺で膨らんだりしぼんだりしていた。 明晰さ、は、頭脳というより むしろ肌感覚、如何みたいな印象で きめ細かく周辺の空間を正確にとらえては、 空気の穴まで再現してし

          ずうっとそうしていたかった

          散歩にまつわる幾つかの出来事〜桜編①

          散歩にまつわる幾つかの出来事〜桜編① ある日、静かな森を案内してくれる友人に会いたくなって、いつもの場所で待ち合わせをした。 散歩を一緒に始めてから、初めての雨模様。 彼女に会う時はいつも決まってよく晴れた。 今日も晴れの予報だったから、やっぱりな、とちょっとどこか優越感のようなものを感じながら、家のドアをでると、なんと止む気配のない雨が降っていた 桜が見たかったのだ 青空の下で。 いつも彼女が作ってくれるお弁当をたべながら。 でも不思議と思ったほど気落ちはしなか

          散歩にまつわる幾つかの出来事〜桜編①

          人生ミックスジュース

          気分を変えるために、別の名前を作った。 100枚書いて100枚捨てた。 がんに犯され、余命幾許もないシンガーが、心境をメロディに乗せて聞かせてくれた時、何か、とても深いところで共感した。 余命は知れず、まだまだ生きていかなければならない課題を背負って。美しい弱音は、余命幾許もない、という究極の状況に立たされた方にだけ許された特権だ。 それに静かにあやかって、今日は別の名前を自分につけて見た。 これは、その第一作の短いエッセイだ。 ヒラメが語る人生を”私”は少し距離を置

          人生ミックスジュース