眠り
巨人は夢を見ていた
いや,随分目を覚ましていないことを
巨人は知っていた
最初に目を閉じた時の記憶はもうない
ずいぶん雨に降られて湿っていく身体を
そこに苔むす小さな微生物たちを
そこに吹く風を
眩しいくらいに降り注ぐ太陽の光を
いく年もいく年も眺めているうちに
いつのまにか目を閉じたのだ
ときおり小さな鳥が飛んできて美しい声で鳴いた
すると,巨人は沈黙した夢の世界で
目覚めることができた
広大な湿原を太陽をあびながら
一歩一歩あるく
一歩踏みだす足の裏で小さな命が芽吹いている
肩に留まる小鳥たちの羽の柔らかさを感じる
夢の中では一つであるのだ
見えないものが語る、その息に
遠くの木立の心音までが踊るのだ
一つの呼吸がどこからともなくやってくる
それに合わせて,巨人が、大きく息を吸うと
雲海の端から吸い込まれるように
深い森の全てが眠りについた
みみずが気の遠くなるようなのびをする
このひとときのために
巨人は再び夢の中でそっと目を閉じた
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