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「学生のうちに彼女と結婚しておけよ、早いところな」

「学生のうちに彼女と結婚しておけよ、早いところな」
タカシ先輩はため息交じりの声で声をかけた。

「はーい、気を付けます!」
ケイスケは張りのある声で答えた。

慶應義塾大学のとあるサッカーサークルのOBとの交流会。高級ホテルで開かれた立食パーティ。なんだかんだ同窓会のように各学年が固まって緩い島のようになっている。
ジャケットの着こなしから、どことなくイケイケだった雰囲気のあるが、哀愁が少々漂っているタカシ先輩。
40近くになっても未だに独身だそうだ。正確には一度結婚したものの、数年後に離婚し、息子にもあえず、淡々と養育費を払っているらしい。

タカシ先輩は作り笑いを浮かべながら他の若いメンバーに絡んで行っていた。現役の女子マネージャーを目の端で追いながら。

「まあ、ああはなりたくはないよねぇ・・・(笑)」
「なんかまだ学生にもモテると思っている勘違い野郎感あるよね、正直。」
ケイスケは他の現役メンバーと嘲笑していた。


ケイスケは文武両道でスポーツ万能、サークルでも現役の代表を務めている。幼少期からスクールカーストは常に頂点であった。正直どこででもモテた。歴代の彼女は基本みんな美女。それでいて何か特徴のある人間的にも尊敬できる人ばかりであった。
1年生の時に付き合っていたリカ。内部進学だが擦れていない美女。2年続いたが、リカが交換留学に行くということで疎遠になった。
3年生からはミスキャンパスのあやの。ちょっぴりわがままの生粋のお嬢様。このことはアメリカ留学直前まで続いた。

卒業後、ケイスケはアメリカの有名大学の大学院に進学した。アメリカで付き合っていたブロンドのケイト。彼女は学業の経済学に加えて、モデルを兼業していた。ある日ケイトは「日本に行く!」と言っていた時は、エルメスのモデルで東京コレクションに出ていた。

そんな感じでアメリカでも好き放題やっていた。

日本人がモテないだなんて、先輩たちがモテなかっただけの自己正当化でしょ?日本人じゃなくて自分がモテないだけっていうのが判明すると傷ついちゃうからそういう言い訳をしているだけだって。


ケイスケは大学院を修了後、グローバル企業に就職した。典型的な出世コースで海外出張が多めになっていた。それでも日本にいるときは合コン三昧。

まあ彼女は途切れないし、まあ結婚はいつでもできるっしょ。

そう思って仕事に熱中していた。出世もしてエリート街道の中心を風邪を切って進む。

しかし気付いたら彼女がいない生活が1年ほど続いていた。同級生は結婚し子供が出来ているやつも増えてきている。

そんなケイスケももう30代も半ば。そういえば最近は合コンにも呼ばれなくなったし、仕事ばかりしていたら周りは国籍問わず既婚ばかり。新卒とは一回り違ってそういう感じにはならない。そしてもう出会いもなくなっていた。

さすがにちょっと焦りを感じたケイスケ。連絡でもしようかと久々にFacebookで慶應の頃の友達のページを見たら、赤ちゃんの写真ばっかり。中にはもうランドセルを背負っている子まで写っている。
ああ、もうみんな結婚しているのか・・・。
そっとFacebookを閉じた。

ケイスケは元カノや同級生に声をかけるのを諦め婚活パーティに参加をしてみた。婚活パーティの広告は「素敵な出会い!」とかなりの美男美女が会話しているポスターがかかっている。

婚活パーティに参加してみる。
参加して絶句するケイスケ。
え?見た目いい子いない?ゼロ?
ん?お相撲さん?女子レスリングの選手?の割には肉が垂れている。
ていうか、歯ガタガタじゃない?
髪の毛も染めるなら染めたら?プリンみたいになってるし。
なんかもう基本的に頭悪過ぎない?

話は通じないし、何やらネットワークビジネスで鍋や壺を売ろうとしてくる人も多い。

ポスターは過大広告の詐欺宣伝で訴えられないのか?

まあそれでも失礼になるし、とりあえず社交辞令で連絡先くらい聞いておくか。リカを3段階くらい崩した感じの何処にでもいそうな女性に連絡先を聞いた。
「あの、連絡先交換しませんか?」
「あ、すいません。ごめんなさい。。。」

え?こんなやつに連絡先の交換を断られるだと?何のつもりなんだ?

LINEを交換できた中で一番マシだと思った子にLINEを送るも既読スルー。フルボッコにされるケイスケ。

流行っているマッチングアプリを始めるが、一旦経歴を書くと「有名大学出身で外資に努めている彼ぴ」と言いたいだけであろう港区女子がわんさか寄ってきた。「こいつらは俺を見ているんじゃない。自分の地位を上げたいと思っているだけだろう。」すぐに経歴を消した。


なんだ、何なんだここは。俺が数年前まで住んでいた東京?本当に同じ東京なのか?俺がアメリカや愛外出張に行っている間に東京は変わってしまったのか?

高収入でおハイソな暮らしに慣れきってしまったパパ活港区女子が生活レベルを下げられなくなっているように、ケイスケも交際する女性のレベルを下げられないでいた。


同窓会では、同級生がもう軒並み結婚している。
「ケイスケ、お前まだ結婚してないの?頑張れよ。」
「結婚できないんじゃない。いい相手がいないだけだよ。」
必死に失笑をこらえた乾いた笑いが会場にこぼれている。

何であんなショボいやつらに上から目線で言われなきゃいけないんだ。いい相手がいないのはマジなんだよ。

最後の砦である婚活相談所に行ってみたら、もう学生の時ならなんか、同じクラスでも声をかけるようなレベルじゃない人ばかり。

ケイスケは戦意喪失、投げやりになっていた。

どこへ行っても優良物件は既に売り切れている。残りカスの敗者復活戦で負け続けたような人たちばかりになっている。
残っている選択肢の傾向は

バツ付き子持ち
ガチ非モテ根暗ブス
美魔女だけど性格崩壊

みたいな感じである。

私とことりと鈴と、みんな違ってみんないい、とはいかない。みんな違ってみんなダメ。

なお女性はケイスケを過去の栄光に浸る高望みの勘違い野郎と思っているようである。


ハリウッド女優みたいなケイトも、ミスキャンのあやのも、バリキャリのリカもいない。
リカは外資系企業でバリバリやっていたけど、結局ゼミの同期と結婚したんだっけ。
あやのは港区おじさんと結婚していた。
ケイトは同僚の国際機関職員と結婚したらしい確かドイツ人だったかな?

ああ、ケイト・あやの・リカ・・・。あの時、結婚してればよかったな。遠距離だと無理だとか、「日本帰るから」、とか言わないで「一緒に来ない?」って言えばよかったな。あの頃に戻れるなら戻りたい。

女性は結婚できなくなる一方で、男は余裕というのは結婚自体がという意味で、クオリティはどんどん悪くなる一方である。このことはなかなか公にならない。

結局ケイスケは結局、失意にまみれたまま、婚活相談所に持ち前のフルスペックハイスぺ経歴で登録したところ、わんさか寄ってきた女性から、ほとんど条件だけで大して好みでもない女性と妥協の結婚をした。数年後には子供も生まれた。

しかし、ただでさえそんなに好きでもなかった妥協で結婚した妻の、さらなる劣化・豹変ぶりに嫌気がさした。やっぱり金とスペックが目当てだったようで、ケイスケのことが好きではなかったようだ。

子供位は構わせてほしいが、妻はケイスケのことを金ずるとしか思っていなかった。結局離婚をして、高い養育費を払い続けている。



数年後ケイスケは、参加したサッカーサークルの交流会でイケイケな後輩達にため息交じりの声でこう言った。

「学生のうちに彼女と結婚しろよ、早いところな」

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