記事一覧
「オール・ノット」〜柚木 麻子
遠く色彩のぬけた海を背景に、工業地帯のコンビナート、貨物船が斜陽に広がった景色のような作品。横浜の元町、山手の坂を舞台に、ある一家をめぐる何人かの女性の人間模様を描いた純文学。若い頃から憧れの街、今も娘が二人暮らす街なのでストーリーの情景が映像でみえるようでフィクションとは思えない。
「成瀬は信じた道をいく」〜宮島 未奈
偏差値75級の高校から京大へ。高校と違って学んでいる実感があるという。それでも目から鼻へ抜けるのとは違ってちょっと天然気質なのが愛嬌。さて、2025年の紅白に三山ひろしは出演できるだろうか。
「成瀬は天下を取りにいく」〜宮島 未奈
話題作で地元出身の作家、興味があり読んでみた。全体的に真夏の未明から早朝のような爽やかな作品。優秀すぎて成瀬には感情移入できなかったけど、高校デビューを飾りたいけどいまいち。ちょっとシュールな「ぬっきー」こと大貫かえでにシンパシー。デパートというのはその地域の文化の要となり、様々なストーリーを引きずっているのだとデパートのない街で育ったものとしてうらやましかった。(子どもの頃は地元のスパー、イトー
もっとみる「光のとこにいてね」〜一穂 ミチ
「パッヘルヘブンのカノン」。 追いかけるように輪唱。家庭環境の違う二人の少女の物語が、それぞれ、交互に章を分けて一人称で語られる。ずらし、重なり合いながら響くメロディーは美しくももの悲しい。それは、ひとりの人間の内にある二面性のようにも感じた。終盤に睡眠導入剤で眠らせて場面転換するのは安易か。しかも2回。
「1973年のピンボール 」〜村上 春樹
70年のしめった夏が終わり、73年の乾いて冷めた秋にはなにも残っていない。想い出を遡ってもそこは忘れ去られた冷凍倉庫。まるで、アドレセンスの霊安室。たぶん、80年代後半以来の再読だが、これもまた、断片の記憶も残っていなかった。という作品。