見出し画像

相手の個性を知る

前回のコラムでは、人材不足に悩む現状を打破するために海外からの技能実習生の受け入れをしているという話をしました。

そしていざ現場で受け入れてみて分かったことというか思ったことなのですが、言葉の壁があったとしても、むしろその言葉の壁があるからこそなのかもしれませんが、彼女たちに向き合う人たちは上長も同僚もお客様も皆一様に他の日本人に向き合う時と比べて意外と寛容なのですよね。

これは普通に考えてみたら分かるのですが、おそらくは「日本人ではないから分からなくても仕方がないか」という前提が、結果として寛容な態度につながっているのだと思います。

ですから、まずは分からない相手にどのように伝えるかという配慮も自然と働きます。

例えば、「はっきり、ゆっくりと話す」とか「難しい言葉は他の表現に変えて伝える」とか「曖昧な表現は避ける」とか「大事なポイントは何度も繰り返し伝える」とか「標準語での会話を心がける」とか「短い文章で簡潔に書く」とか「難しい漢字は使わない」などなど。

こういう配慮ができるのも、やはり相手への寛容という前提があって気持ちの余裕が生まれるからなのかもしれません。

ここで話は変わって以前のコラムで触れました「退職代行」を使って退職したスタッフの話に戻ります。

こういう代行業者を使って辞めてしまったスタッフに対して、周囲の人たちは「なんで辞めたのか、その理由が分からない」という心境かもしれませんが、振り返ってみた時に、果たしてこの海外からの技能実習生と接する時と同じような向き合い方はされていたのでしょうか。

というのも、これは当社に限った話ではなく確率の問題でもあるのですが、現代社会においてはどの職場にも一定数の発達障害と思わしき人材がいるという事実があるからです。

確率で言うと6.5パーセントですから、15人に1人の割合で存在するという計算です。

学校のどのクラスにも、会社の中にも、自身が自覚しているかどうかにかかわらず確実にこの傾向のある人材はいるという事実です。

本来は気づきの必要な介護のようなサービス業において、察したり空気を読むことに長けたりしていない性格の方はそもそも職業として向いてはいないと思うのですが、自分よりも社会的弱者へ向き合うことならできるのではということではないのでしょうけれども、中にはあえて選んで入社してくる人もいらっしゃいますし、そうした人が増えてきているという実感はあります。

専門家ではありませんから、極めて乱暴な大雑把な解釈になってしまうことはお断りを入れておきますが、発達障害とは「発達に凸凹があるということ」で、その人の有する様々な能力の中に著しく高いものと低いものが混在しているということです。

例えば、発達障害のひとつであるアスペルガー症候群は、社会性やコミュニケーション、想像力や共感性などの能力は低いものの、特定の物事へこだわった時には凄まじい能力を発揮されたりします。

知的障害と違うのは、社会性が低くとも、知能や言語に遅れがあるわけではありませんから話が全く通じなかったり理解ができなかったりというわけではありません。

前述した外国からの技能実習生には、私たちはどのように向き合っているのか。

「分かるだろう」と相手の受け止め方に頼ることはしていないのではないでしょうか。

そうした配慮がある時には、曖昧な表現はせずに指示する内容は具体的であるはずです。

文化が違えば、他国の例え話やことわざなども特別な意味は持たなくなりますので極力使用を避けているはずです。

そして上記のようなことは、おそらくは多様性を重んじて様々な国籍の人材を雇用している外資系の組織などにおいては、当たり前に出来ている心がけなのではないでしょうか。

ところが、日本はほぼ単一民族の文化でしたから、どうしても「言わなくても分かるでしょう」という傾向が強いのですよね。

これが見た目が日本人ではない人に対しては、曖昧表現を避けるというスイッチが入るのですが、そうでない時にはそのスイッチがなかなか作動しません。

勝手な解釈ですが、発達障害というのは障害というよりはひとつの特性ですから、いわば違う文化圏の人と同じような区分けになるのではないかと思っています。

ということは、こういう人は「相手に分かるように具体的な指示を落とし込むこと」が当たり前な対応となっている外資系企業などで勤めた方が今よりは困ることは少なくなったり、周囲から浮くことも少なくなったりするのだろうなとも思っています。

困ってしまっている自分を、どこにも相談することもその状態を上手く表現できない人というのも、前述した「退職代行サービス」を使う対象者になっているのかもしれません。

仕事の向き不向きもありますし、時間をかければ仕事を覚えられる人なのかそうでない人なのかという線引きをすることが大前提ではありますが、関わる私たちが、相手の見た目に囚われずに、右も左も分からない異国から来られた実習生に接するように新たに仲間となるお一人お一人に向き合えたなら、困っているご本人も困ることが少なくなり、結果として周囲の人たちが困ることも少なくなるのではないでしょうか。

外国人の技能実習生に向き合うのも、発達障害で困っている従業員に向き合うのも、認知症のお客様に向き合うのも、結局向き合い方は全て同じなのですよね。

今日も読んでくださいまして、ありがとうございます。

この記事が参加している募集

#スキしてみて

526,955件

嬉しいです。 サポートしていただきまして、ありがとうございます。 こちらからもサポートをさせていただくことで返礼とさせていただきます。 どうぞ宜しくお願い致します。