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エッセイ

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日記よりちゃんとしています
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#創作大賞2023

「ご自愛する」という戦い方

「ご自愛する」という戦い方

私はハードワークが好きな若者だった。

大卒で「忙しい」「激務」と言われる業界に入って4年、「生活」らしい生活をないがしろにして最近まで過ごしてきた。

深夜まで働いてタクシーで帰るとき、車窓から見える誰もいない街は嫌いじゃなかったし、仕事仲間と夜更けに飲むビールは美味しかった。

社会に自分のやるべきことがあり、ちゃんと必要とされていて、そこに身を投じる毎日は刺激的だ。文句も愚痴ももちろんあるけ

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地方移住と寂しさについて

地方移住と寂しさについて

東京での一人暮らしを辞めて長野に戻ってから早くも2年が経とうとしている。

当初はパンデミックが収まったらまた東京で暮らすつもりでいて、次に住むなら文京区がいいな〜などとSUUMOを物色していたのが、ひょんなこと(マッチングアプリ)から長野で今の夫に出会い、さらにひょんなことから結婚に至ったため、どっぷり長野県民としてやっていくことに相成った。「東京独身一人暮らし」から「地方の人妻」へ、わずか一年

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夫に姓を変えてもらった話

夫に姓を変えてもらった話

11月22日、いい夫婦の日はとくに何をするでもなくいつも通りに過ごした。

我々夫婦は結婚記念日が11月16日で、お祝いらしきことはそのタイミングでやるため、6日後にあるいい夫婦の日はぬるっと過ぎる感じになる。22日は二人で鍋をつつきながらサッカーワールドカップを見て終わった。

早いもので結婚して一年が経った。
一年前婚姻届を出したとき、夫は名字が変わった。妻側の姓への改姓である。
「変わった」

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売れっ子になった同級生の話

売れっ子になった同級生の話

高校の同級生がとあるジャンルでめちゃくちゃ売れっ子になっていたことを知った。

久々に会った地元の友達と飲んでいたところ、「ところで、どうやらあの子がいまめちゃくちゃ売れてるらしいよ」と教えてもらい、ググってみてびっくり仰天。すごく有名なアレを教室の端にいたあの人が作っていたらしい。マジか!やられた!

本人はプロフィールをあまり詳細に明かしていないのですごくボンヤリした説明になってしまうのだが、

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突然の"家庭内別居"体験

体調を崩したときのこと。

なんか風邪かな〜という予兆から本格稼働までが速かった。押し寄せる喉の痛みと寒気。
どこからもらってきたのかと直近の行動履歴をさらいつつ、まだ頭が働いているうちにAmazonで吸うタイプのゼリーを箱で注文した。しばらくこいつが主食となる。

夫には薬やのど飴などを買ってきてもらったあと、うつさないよう生活エリアを分けて過ごすことにした。私が寝込んでいる寝室から夫がよっせよ

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有名企業のサラリーマンを辞めて労働を週3日にすることにした

有名企業のサラリーマンを辞めて労働を週3日にすることにした

2022年末で会社を辞めた。

正確には1月まで有給消化期間なのでまだ辞めてはいないのだが、クリスマス前に都内のオフィスに最終出社をして、PCと社員証を返却してきた。帰り道、PCが入っていないカバンの身軽さと一緒に、ほっとした気持ち、これからのことを考えると少し心が肌寒いけれど、同時に地に足がついた気分もしているような、ないまぜの感情が湧いてきた。東京駅のグランスタで寿司とビールでひとり打ち上げを

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「産まない女」は「進化しないポケモン」だと思っていた

「産まない女」は「進化しないポケモン」だと思っていた

子供を産むことが「選択すること」で、
子供を産まないことは「選択しないこと」だと思っていたけど、いざ自分が結婚して出産適齢期になると「子供を産まないこと」は「子供を産まないという選択をし続けること」だと気づく。

しかし世の中はまだまだ「子供を産まない夫婦」を「やるべきことをしていない人たち」とみなすことが多いので、その「選択の連続」は透明化される。産むことも産まないことも、どちらも悩んだ末の「選

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母の日圧

母の日圧

母の日が近づいて、街なかでピンクと赤で彩られた「母の日ギフト」ポスターを見ると勝手に圧を感じる。「母になにか贈らなければ」「とにかく母を慮らなければ」という圧。

別に嫌ならなんにも贈らなきゃいいじゃんという話なのだが、「母の日になにもしなかった親不孝者」になるのも、それはそれで耐えられない。なにもあげなかったとて母から「この親不孝者!」とか言われるわけではないんだけど、自分が勝手にそう思ってしま

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「あいつ結婚してつまんなくなった」言説について

「あいつ結婚してつまんなくなった」言説について

「あの人結婚したら守りに入ってなんかつまんなくなったよね」的な言説、どこかで聞いたことがある人も多いと思う。

私も聞いたことある。てか言ってた。バリバリ言ったことある。陰口として。

いま思えば失礼極まりない&浅はか発言すぎて、可能であれば己を殴りに時を戻りたいわけだが、実際自分が結婚してみて「当たらずとも遠からず」 な部分もあると思ったりもする。

自分が「結婚してつまんなくなった」とは思わな

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清水買いカルティエと台湾の偽ティファニー

清水買いカルティエと台湾の偽ティファニー

30歳の記念にカルティエのピアスを買った。
ずっと欲しいなと思っていたトリニティピアス。

金の値段がみるみる上がっていくチキンレースと、自分の財布事情と、30歳の節目という盛大な言い訳が合致して、晴れて購入となった。いわゆる清水買いというやつである。高かった〜。

財布は痛んだとはいえ、自分も稼いだ金でカルティエが買えるようになったか、という感慨は大きい。
なんだか自分が「本物の価値がわかる人間

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鳥羽シェフと「雄々(おすおす)コミュニケーション」

「鳥羽シェフとは絶対友達になれなそう」
と夫が言った。
不倫がどうこうという理由ではなく、ああいう「雄々した(おすおすした)」人は苦手なのだという。言わんとすることはわかる。私も多分苦手だ。いや会ったことないし完全に想像だけど。鳥羽シェフは「雄々」しているな、と私も思う。

「雄々してる」と我々が感じる要素はなんだろうか。
「男として」「けじめ」といった言葉の選び方、(これも想像だけど)悪いやつに

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私は子育てによる「家庭でのたかみな化」を恐れている

私は子育てによる「家庭でのたかみな化」を恐れている

たかみなといえばAKB初代総監督の高橋みなみのことである。

総監督とは、大所帯のグループをとりまとめる存在で、メンバーたちのケアをしたり、意見を代表したりする役職のこと。

たかみなはしっかり者で、メンタルが強くて、なにごとにも動じなくて、愛情と責任感がある人というイメージだ。

そんなたかみなが、昔インタビューかなにかでこんなことを言っていた。

「総監督という役割をやっていると、可愛いところ

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隣の芝生をのぞくな、上がり込んで茶をしばき合おう

隣の芝生をのぞくな、上がり込んで茶をしばき合おう

30代に入り、女友達たちとの会話にいよいよ気を遣うようになってきた。

仕事に邁進するか否か、
結婚するか否か、
子供を持つか否か、

それぞれ2×2×2で大ざっぱに8通りある選択肢のなかで、それぞれ道が分岐してくる年代。

誰かの選択は自分が選ばなかった、もしくは選べなかった、はたまた選ぶか否か決めかねている選択なので、自分と違う道を選んだ女の話を聞くのは複雑な気持ちになる。黒い感情が湧くことも

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