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#ショートショート
おれを連れ出さないでくれ
何なんだ。
こいつは何を言っているのだ。
いや、そもそもどこを見て話しているんだ。
視線が妙にズレている。
思わず相手の視線の先を目で追う。
そこには、もう一人のおれが…
おれの隣にもう一人のおれ。
おれ。
おれがもう一人。
え、なに…
どういうことだ。
お前は誰だ。
誰なんだ。
いや、どう見てもおれだ。
いつも鏡で見るおれそのものだ。
じゃあ、このおれはなんだ。
今、こうして思考してい
夏も出会いも振り向きもせず
今年の八月は、やけに足早に過ぎて行く。
まあ、どの月だって大した違いはないのだが。
ただ、いつも八月という月は、どこか物悲しいものだ。
久遠は、今にも降り出しそうな空を見上げ、静かに歩きだした。
長い連休が明け、やっと日常に戻りつつある街並みを、人の流れに逆らってゆっくりと喫煙スペースへと向かう。
お盆や里帰りとは無縁の久遠にとって、いつもの殺伐とした街の景色の方が、どこかしっくりとくる。
東
鳥よ、おまえはどこで生きるのだ
「ここには何もない」
そのことを分かってから、もう随分と経つ。
この暗い洞窟に落とされて、長い月日が過ぎたのだ。
なぜ落とされたのかもよく覚えてはいない。落とされたのではなく、落ちたのだったか。それとも自ら入ったのか。
今ではそんな事も、どおでもよくなってしまった。
最初のうち、何もないこの洞窟でさえ、ちょっとした冒険に思えたりした。
おまけに、不思議と安らぎを感じる時さえあった。
しかし、