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後悔してるね。あんた随分と後悔してる

大きな宿題を抱えてしまった。
命運を左右する宿題だ。

そして、まもなく期限。

ちょうど一週間前の事だ。
突然、あの男に話しかけられたのは。

「後悔してるね。あんた随分と後悔してる。まあ、何に後悔してるのかなんて興味はないがね。解決してやることは出来るよ」

クソ、最悪だ。
こんな雨の中、こんな男にまでからまれる始末だ。
何が後悔してる、だ。
解決してやるだって。
冗談じゃない。
イライラが増す。

「そりゃそうだ。突然、悩みを解決してやると言われて、はいそうですか、とはならないよな」

ニヤけた顔で男は続けた。

「おれはどっちでもいいんだ。昔から、こうして色々な人間に声を掛けているだけだ。今のあんたのように無視するやつもいれば、耳を貸すやつもいる。それだけだ」

なんなんだ。
突然現れたコイツはなんなんだ。

「あんた何が言いたいんだ。おれが後悔してるって。あんたにおれのなにが分かるんだ」

「解る必要はない。ただ、解決してやるといっているんだよ。後悔してるなら、時間をもどしてやると言っているだけだ。但し、一度だけな」

「はぁ、時間を戻す」

「そうだ。一度だけ、好きな時間に戻してやる。
但し、何回も言うが、一度だけだ。戻して欲しいと思うのなら、一週間後、同じ時間にここへ来い。お前が望む時間へ戻してやる」

その時からちょうど一週間が間もなく経つというわけだ。
そんな馬鹿馬鹿しい話、もちろん信じる気にはならなかった。
ただ、それからというもの、その事が頭から離れなかった。
もし、もしも本当にそんな事が出来るのだとしたら、おれは何処へ戻りたいのか。
いつからやり直したいのだろう。
そんな事を四六時中考えているうちに、時間は過ぎて行った。
そしておれは、何も決められない中、この場所に来てしまったのだ。
時計の針は、もうすぐ約束の時間を指す。

「ほう、来たのか。てっきりビビって来ないと思っていたが」

突然、背中から声を掛けられた。
あの男が立っていた。

「戻って来た人間に会うのは、三年振りだ」

「三年振り…」

「そうだ。ほとんどのやつは、一週間後に戻ってくることは無い。あれだけの人間に声を掛けたのにだ」

「それで、どうだ決まったか」

おれは答えられなかった。
この期に及んでも、おれは決められずにいるのだ。
いつもいつも夢にみていた

あの日に戻れたなら。

人は誰しも一度ならずそう思ったことがあるだろう。
あの日に戻りたい。
戻れるなら、いつがいいか。
しかし、それが現実的に可能だと突きつけられたら、そんな勇気はないのだ。
過去に戻って、またそこからやり直す。
そんな決断を下す勇気など無い。
戻れないと知っているから、戻ることを切望し、そして夢みるのだ。

「どうやら、戻る覚悟は出来なかったようだな」

「…」

「それならば、今までのように前に進むしか無い。どうせ過去に戻る勇気など無いのだから。戻れないのでは無い。覚悟がないだけだ。前に進む覚悟など、過去に戻る覚悟に比べれば大したことはないからな」

「…」

「ただ、後悔をしていたお前の問題は、約束どおり解決してやった。お前には、もう後悔は無い。あとは前に進む勇気を持つだけだ。それはおれの知ったことではないが」

そうなのだ。
おれは、戻れるその日を選べなかったのではない。どの日を選んでも、そこに戻る勇気と覚悟が持てなかっただけなのだ。

それを知った今、おれの中に後悔は消えていた。

おれは恐る恐る聞いてみた。

「今までに、過去に戻った人はいるのですか」

その言葉を背に、男はゆっくりと歩き出していた。

そもそもこの話は本当なのか。

その質問は、喉につかえ言葉にはならなかった。
決断出来なかったおれに、その質問をする資格は無いのだろう。

ただ、確かにあの時の問題は解決したようだ。

一週間前に出会ったあの日のように、今にもひと雨来そうな空が、物哀しげにおれを見下ろしている。

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