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『口笛の吹き方』~音響工学的な考察&「誰でもできる」練習法の試案

沢山の方にお読み頂けて、とても嬉しいです!!
「価値ある論文は多く引用される」そうなので、光栄です!

1.口笛の現状&本稿の目的

口笛は謎多き楽器だ。誰もが持ってる楽器なのに、吹ける人は全体の1/3だけ、あとは音が出ても操れない人と、そもそも音が出ない人が同じく1/3ずつ…といった割合で、3勢力が均衡しているそうだ。

下のURLから、PDFで全文を読めます。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jasj/67/12/67_KJ00007695288/_pdf

では!と、音が鳴る仕組みを探ろうとしても、口を開けた途端に音は消えてしまうので、誰かにやり方を教わらざるを得ない。そこでたいていは、元々吹けた人(しかもかなり上手な人)の“経験的かつ感覚的な”解説を目にすることになる。「天才は教えるのが苦手」と言うが、口笛こそまさにそうだ。なぜなら上手い人は(気付いた時には吹けていて)吹けない状態がどんなものか、分からないのだから。そうは言っても他に拠り所がないので、そのやり方に頼るしかなく、それで吹けない人は「私は“吹けない人”なんだ…」と自分に烙印を押して、諦めてしまうのである。

果たして本当に「生まれつき吹けない人」がいるのだろうか?少なくとも私は疑問を感じている。そこで本稿では「口の機能に特段の異常がなければ、誰でも吹ける」という仮説を立て、音響工学的な考察を踏まえ「誰でも吹ける」練習法を提案してみたい。口笛を吹くことに関心のある方は、ぜひ読み進めて頂きたいし、願わくはコメントでフィードバックなど頂けると大変ありがたく、後学のために参考にさせて頂きたいと思います!

2.音響工学で「吹けない理由」を推察

ではまず、上で引用した森幹男先生(音響工学の研究者でありながら、口笛吹きでもあるという貴重なお方)による研究成果をご紹介しよう。口笛の発音原理は「音域・奏法により“ヘルムホルツ共鳴”“気柱共鳴”、あるいはその両方」であるそうだ。「共鳴」とはつまり【ビンの飲み口を横から吹くと音が鳴る】あれである。ご存知の通り、ビンが大きいほど低い音が鳴る。これと対比すると、口笛が共鳴する空間は【口蓋(口の上天井)と舌の中間部とで狭めた所(①)と、すぼめた唇(②)との間にできる空間】なので、空間が大きくなれば低い音が鳴り、小さくなれば高い音が鳴る。音源は、唇の近くで発生する空気の渦だ。

口笛を吹いている所を撮影したMRI画像(後で詳述)

このような理解を基に、「吹けない理由があるとしたら、何だろう?」と考えてみる。口の機能に何らかの異常(歯が少ない,舌が麻痺/思うように動かない,唇をすぼめられない等)がなければ、上の図のような“音が鳴る形”は作れそうである。要は上記①と②とで「共鳴する空間」を作れば良いのだから。もし異常がないのに口笛を吹けない理由があるとしたら…「鳴る形を正確に知らない」ことに尽きるのではないか…と仮定してみる。

3.MRI画像から「誰でも吹ける」練習法を考案

ではこの「鳴る形」を、視覚的に説明してみたい。私が世界大会でご一緒したオーストリアの口笛吹きSirus(バイオリン奏者で、マジシャンでもある)が何と!YouTubeで、自分の口笛をMRIで撮影!!していたので、これを基に「誰でも吹けるメソッド」を考案してみよう。

ちなみにこの動画のコメントに「医師の協力を得た」とあるが、日本ではこのような用途でMRIを使用するのに、まず許可は下りないだろう。したがってこれは“超”貴重な映像であるに違いない。さてここで注目して欲しいのは“舌の形と動き”である。一般的な吹き方の説明は「舌の先を下の歯の裏に付け,口をすぼめて吹く」というものだが、森先生の解説を踏まえると、「舌の先がどこにあるか」よりも、「舌の中間部が十分にせり上がっていること」が、音を鳴らす上ではより重要であるように見受ける。このことを画像で説明してみよう。再びこの写真をご覧頂きたい。

口笛MRI画像にて「共鳴空間」の確認(①と②の間)

森先生が言う共鳴空間(①と②の間)を示してみた。①で舌が十分に上がっていないと、②との間に形作られる空間が開放されてしまい、共鳴しないのではないだろうか?この仮説に基づき「音を鳴らす形をセルフチェックできる方法」を考えてみた。名付けて「ストローメソッド」。画像で示すとこんな感じだろうか。

私が考案した「ストローメソッド」を図示

まず、上の画像のようにストローを咥える(緑色である必要はない)。そして口の天井に当るまで押し込み、手を放す。するとストローを支えるのは「すぼめた唇②」と「せり上げた舌①」となり(下の前歯が当たっても問題なし)、横から見ると上で確認した「音が鳴る形」が出来上がる。あとはその形を保ちつつストローを抜き、息を吹いてみるだけ…どうだろう?これで鳴った方はぜひ!コメントで教えて頂けると嬉しい。

ちなみに音声SNSのクラブハウスで、私は医療部屋のモデレータとして一時期、口笛を吹こう!という時間を担当していたことがある。そこでこの「ストローメソッド」を伝えた所(百発百中とまではいかないが)かなりの確率で音が出た。出なかった人は(会話から)おそらく、唇を十分に小さく丸くできない(口輪筋が弱っている)か、舌が十分にせり上がらない(舌筋が弱っている)のではないかと思われたので、徐々にそうした筋肉を使うよう勧めた所、後日、何人かから音が出た報告を受けた。そうした経験を踏まえ、今回このメソッドを披露させて頂いた…という訳である。

4.確実に音を鳴らすために

以上が、吹けない理由の最たる【舌の中間部が“せり上がり”不足】についての考察だが、これが全てではない。せっかくの貴重なMRI画像なので、今度は断面を変えて見てみよう。

再びこの動画に戻り、ちょうど1分の所から6秒間だけ、右側に登場する画像に集中して頂きたい。これは頭の後ろから見た断面である。ちょうど舌が最もせり上がった点②を通る面で切った断面をみせてくれているようだ。

口笛MRIで顔の後ろから見た画像(○の中が息の通り道)

丸で囲んだ部分にご注目あれ。ここが「息の通り道」だが、綺麗に閉じている(息が漏れていない)のが分かる。これはつまり【舌がU字型に反り、両側が上の歯に接することで、筒状の通り道を作っている状態】と思われる。例えば。皆さんがケーキのロウソクを消す時、舌は平らだろう。だから息が筒の外(頬の側)に漏れ、音は鳴らない。同様に歯が一部欠けている場合も息が漏れ、音は鳴らない。さらには(私が体験したことだが)歯科で麻酔を打った後も、舌が思うようにコントロールできない為、息の通り道を上手く塞げずに、音は鳴らなかった。だからこの【筒が上手く作れない事】は、吹けない理由の二番目に挙げてよいと思われる。

5.出た音を操るには?

以上が「音が鳴る仕組み」の考察であった。さてここからは「音の上下」についても考察してみる。先ほどご覧頂いたばかりの動画(1分過ぎた所から6秒間)を基に説明しよう。

まずは、これも先ほど写真を丸で囲んだ部分にご注目。Sirusは4つの音を2往復吹いているが、その間【この“息の通り道”の大きさが、ほぼ変わらない】のがお分かり頂けるだろうか。すなわち舌が最もせり上がった①の部分は【音の上げ下げに関わりなく、せり上がりっぱなしでないといけない】のだ。(かつての“緊張すると音が鳴らなくなった私”は、おそらくこれが出来ていなかったのだと思われる。幸いこれを意識してからはてきめんに、演奏中に音が消えることがなくなった)

では「音の上下」はどうすればできるのか?再び“顔の横から”視点に戻して説明しよう。Sirusが吹く4つの音を、画像で低い音から順に並べてみるので、その違いを見て欲しい。それぞれの周波数音階は次の通り。【最低音ラ5(880Hz:A5)→低音ド#6(1109Hz:C#6)→高音ミ6(1319Hz:E6)→最高音ラ6(1760Hz:A6)】

口笛MRIの「ラ5(880Hz:A5)」
口笛MRIの「ド#6(1109Hz:C#6)」
口笛MRIの「ミ6(1319Hz:E6)」
口笛MRIの「ラ6(1760Hz:A6)」

音が高くなるにつれ、共鳴空間(①と②)が細く小さくなってゆくのが見て取れると思う。同時に、唇で作る穴小さくなっているのが分かるだろうか。これが正確に口の中で起こっていることだ。まさに百聞は一見に如かず。最初は思うように筋肉が動いてくれないかもしれないが、このイメージさえあれば、遅かれ早かれその形が作れる日が来る気がしないだろうか。口笛は筋肉の楽器なので、誰かが言う通り「筋肉は裏切らない」はずだ。

ちなみに普段から口笛を吹いている人は、概ね500~3000Hz(2オクターブ半)の音を出しているそうだ。そして先述の森先生がある大会で測定した所、出場者は660~5400Hzで演奏していたらしい(ただこの最高音は突出した1名によるもので、この人物を除くと3900Hzが最高だった)。さて貴方はどうだろう?このサイトで簡単に測れるので、吹ける方はぜひ試してほしい(私は523~3520Hzでした)。

6.エピローグ~ようこそ!美しき口笛の世界へ

以上で、口笛の“謎”が少しは減っただろうか。この素晴らしき“身体に備わった楽器”を、一人でも多くの方に楽しんで欲しいのだ。しかもこの楽器は、楽譜を読めなくてよく、転調も自在だ。頭の中を流れる音楽を、いつでもどこでも、何かをしながらでも美しく再現できる。さらには口輪筋を使うので、女性には小顔効果が見込めるし、男性も頬がシュッとして精悍な印象に。同時に舌筋を使うので、高齢者には誤嚥の予防にもなる…どうです?吹いてみたくなってきましたか

最後に我が愛するMr.Children桜井 和寿さんが書いた名曲…その名も「口笛」をお贈りして、エピローグとしたい。口笛の素晴らしさを、これほど見事に表現した曲が他にあるだろうか。客席が一体となった合唱と、その広がりに任せる桜井さん、最後の桜井さん自身の口笛まで、歌詞を噛みしめながら聴いて頂けると嬉しいです。あまりに好き過ぎて、私が人前で初めて口笛演奏した時に選んだ曲です。では皆さん、今日も良い日を🍀Happy Whistling !!

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