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「神の島」と呼ばれる琵琶湖の無人島に上陸した🏝️

琵琶湖に浮かぶ不思議な島をご存じだろうか。

その名は「竹生島」――。
寺社と土産物屋だけが立ち並ぶ、周囲2Kmほどの無人島である。

滋賀県第三の都市・長浜から、日に5度クルーズ船が出ているため、気軽に訪れることができる。
「神の島」とも呼ばれる
この島には、いったい何があるのだろうか……。
編集部が潜入した。

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その昔、近江国(滋賀県)で伊吹山と浅井山が背比べをした。
ある夜、浅井山がどういうわけか高くなり、伊吹山を見下ろすようになった。
伊吹山の神は怒って、浅井山の神に斬りかかった。
斬り落とされた首は転がって、琵琶湖のなかに落ちた。
この首が、竹生島の起源であるという。
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という昔話を知ったのは、あとのことだ。
ついさっきまで、我々は琵琶湖に島があるということすら知らなかった。

1時間ほど前、初めて降り立った米原駅で目的を失い絶望していた我々は、琵琶湖クルーズというプランを見つけてひどく興奮していた。乗り遅れたら一生の後悔とばかりに息巻いて往復券を手に入れ、鼻息荒くタラップを踏んだのである。

乗船したクルーズ船

定員は100名ほどだろうか。2階にも席があり、こちらは特に眺めが良い。
私はヘビースモーカーである四ツ谷が、禁煙の船のうえで暴れださないかを危惧しつつ、のんびりと揺蕩う湖面を眺めた。

クルーズ船2階展望デッキ

30分ほどの航海で、船は竹生島にたどり着く。

目ざとく喫煙所を見付けた四ツ谷の跡を追って、我々はまず港を見渡しながらの一服を楽しむことにした。壮大な琵琶湖を眼前に喫するラッキーストライクは格別である。

他の乗客たちは船を下りてすぐに観光を始めたが、ひと呼吸置いたことで、巧く人混みを避けることができた。ここでの喫煙は、強くおすすめしておきたい。

島の滞在時間は85分らしい。どうせ時間を持て余すことになると踏んでいた我々は、ちんたら土産物屋を物色し始めた。

喫煙を終えたところで、珍妙な行動をとることで知られる高端が、仏像ガチャを3連続で購入するという奇怪な行動を見せた。どうやら、阿修羅像が欲しかったらしいが、2連続で金剛力士像が出てしまったそうだ。
心底どうでもいい。

本当にどうでもいいので、私と四ツ谷は売店でアイス最中を購入した。ガチャガチャの前で地団駄を踏むアラサーを横目にパクつくアイスは美味い。

売店にはレバーのような見た目の赤こんにゃくや、関西人にはお馴染みの「とび太くん」のグッズが並んでいる。ちょっと見くびっていたが、お土産としての質はかなり良いかもしれない。

弁財天が描かれたアイス最中

土産物屋を抜けて券売所へ行くと、寺社の参拝料600円をもとめられる。その先には、はるか先まで石段が続いていた。

5段くらい登ると、早くも四ツ谷が「疲れた」と不満を零し始めた。この男は、なんのために「歩きやすい」と絶賛するマルジェラのスニーカーを履いてきたのだろうか。

ブツクサ言う四ツ谷を励ましながら階段を登り切ると、眼前に毘沙門堂の本堂が現れた。

古くより航海の安全を祈願する対象として崇拝されてきたこの島は、のちに観音信仰と弁財天信仰の二本の柱からなる「竹生島信仰」を生み出し、さらに篤く崇められるようになった。浅井長政羽柴秀吉など、近江国ゆかりの戦国武将からも信仰を集めたという。

かっこいい本殿の梵字

荘厳な本堂も相当に見応えがあるが、併設されている宝物殿は入館料300円と思えないくらいに豪華である。是非、訪れてみてほしい。

少し下ったところにある都久夫須麻神社には、かわらけ投げができる一画があった。願い事を描いた土製の小皿を投げるあれである。テンションが上がって、思わず小走りになるアラサー3人。

まずは「健筆」と我ながら仕事熱心な願い事を書いた私が、かわらけを投げた。大きく左に逸れてしまったが、なかなかの飛距離であった。

琵琶湖へとせり出した鳥居にむかって投げるので、非常に気持ちが良い

かなりの飛距離を出して筋トレの成果を見せつけた四ツ谷に続いて、高端はいささか情けない投擲をやってのけた。

拝殿のすぐ下に落ちているかわらけを小馬鹿にしていたことを、竹生島の神様は見逃さなかったのだろう。「これは縦に投げた方がいい」など独自の理論を展開していたが、果たして、彼の願いは叶うのだろうか。

石段を上り下りし、かわらけまで投げた文弱の3人組は、この時点ですっかりヘトヘトである。再び土産物屋の前を通って港に戻ると、同じ船の乗客たちが、暇を持て余すかのように地べたに座り込んでいた。

そう。この島でできることは、そんなにないのである。

しかし、我々には煙草がある。
琵琶湖を眺めて呆ける乗客たちを横目に、我々は颯爽と喫煙所へむかった。深く身体にニコチンを染み込ませたところ、タイミング良く迎えの船が汽笛を鳴らす。煙草というものは、なんて便利なのだろうか。

船に乗り込もうと歩きだしたところ、「もう一回仏像ガチャしてくる!」と高端が駆けだした。

この船は、長浜へと戻る最終便である。

港の風景

「乗り遅れたらめちゃくちゃ面白いのに」

そう思ったことは、内緒である。(円)


北山:1994年生まれ。ライター。「文春オンライン」、「幻冬舎plus」などに寄稿。文系院卒。佐賀には行ったことがない。署名は(円)。


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