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【組織風土を語る④ - 最終章】 マネージャーへの期待値

【組織風土を語る】と題し、過去3回にわたり、心理的安全性が高い環境を目指し、且つ高い成果や業績をあげるための重要要素について、私の経験上からくる具体事例や考えについて綴りました。

(*過去3回の関連記事は、巻末リンクをご参照ください)


組織内での「心理的安全性」は、社員とチームのパフォーマンスや創造性を高めたり、チームワークやクロスファンクショナル(部門横断的)なコラボレーションの促進に欠かせない要素です。
 
特に、マネージャーには、その醸成と維持・向上が重要な役割のひとつとして求められます。マネージャーは組織におけるリーダーシップのコアとしての重要な役割を担っていると同時に、各メンバーが働くうえでの安心感と信頼を築く立役者としての役割を果たすことも期待されます。
 
今回は、マネージャーに求められる心理的安全性の醸成要素と期待値について探っていきましょう。 



マネージャーが意識すべきこと

まず始めに、「マネージャーが意識すべきこと・期待値」についてひとつにまとめたスライドを共有いたします。こちらは、私自身が、外資系企業と日系上場企業で通算10年程、HR責任者の役割を担った経験から一枚にしたものです。よって、あくまで一例として捉えていただければと思います。
 
【組織風土を語る①】でもまとめた通り、「心理的安全性」が醸成されることで期待される効果として、「生産性・業績向上」、「失敗への許容と称賛から、挑戦する風土醸成」、「学習・実験意欲向上」、「強いリーダーシップ力」、「イノベーション創造」、「コラボレーションの推進」、「エンゲージメント向上」などがあげられます。中でも、メンバー目線において「エンゲージメント向上」は重要な要素です。その「エンゲージメント(=Engagement)」の頭文字「E」にかけて、以下の通り6つ挙げています。

@EpoCh Ltd.

一つひとつを掘り下げていきましょう。
 


1.   Explain | 説明できているか

「ビジョンと戦略、事象や決定事項のWhy(意図・背景・意義)を含めて、メンバーに対して透明性と納得性のあるコミュニケーションにできているか?」
 
心理的安全性が醸成され、組織が失敗を恐れず挑戦しながら活性化し、ビジネス・事業とチーム・個人のパフォーマンスが向上していくためには、メンバーが、会社のパーパス(社会における存在意義)に共感し、MVV(ミッション、ビジョン、バリュー)といった会社の使命・中長期に目指すこと・大切にしている価値観に賛同している健全な状態が創り出せているかが鍵になります。組織全体がベクトルを揃えて目標に向かって一体となり前進することを可能にするためには、非常に重要なことです。

その鍵を握るのは、マネージャーが会社の方向性や決定事項の「背景や意図」を理解し、自身の言葉とストーリーで透明性と納得性のあるコミュニケーションを提供できているかどうかです。なぜなら、メンバーにとって、事象や決定事項の裏にある「Why(なぜ?背景・意図・理由など)」こそが重要だからです。そこの理解と腹落ちの有無で、自身の役割がどのように組織・会社、ひいては顧客や世の中に貢献できるのかの紐付けと、自身の仕事の意義と意味付けに大きな影響を及ぼすからです。その結果、動機や意欲、さらには、仕事に対するオーナーシップ(自律的に動けているか)が高まっている状態になれるかどうかにも左右すると思います。
 
ここには、明確に「対話」と「共有」、そして「ストーリーテリング」といったマネージャーの介在価値があるのです。 

 

2.   Equip | 装着させているか

「メンバーが物事や業務を効率的かつ効果的に遂行できるよう、各メンバーの状態や成熟度に合わせて、適切な方法や仕組み、ガイダンスを装備・提供できているか?」
 
メンバーが意欲を高め最大限の成果を出すために、マネージャーは、各々が前進するための一歩を踏み出すための「何か」を察知・把握し、必要と思われるタイミングでタイムリーにそれらを提供できるかどうかが問われます。そのためには、マネージャーは各メンバーの「状態」や「成熟度」を把握し、個々のニーズに合わせて方法や仕組み、ガイダンスを提供する役割を果たす必要があります。

例えば、成熟したメンバーには、自律性と責任、時には権限を与え、そのメンバーの Capability(能力)とPotential(可能性)の双方を最大限に発揮できる環境を整えることが重要です。
一方で、成長途中のメンバーには、メンターを付けて伴走する体制を取ったり、進捗をモニターしながらサポートすること、または教育・育成プログラムを提供することなどを通して、スキルや知識の獲得とチームや組織に馴染めるメンタリティの醸成への支援をすることが大事です。
  


3.   Empower | 権限移譲と力を与えているか

「個々のメンバーの強みとなる「個性・違い」を認識して受け入れ、それらを伸ばしているか、権限移譲できているか、過去に囚われず新しい考え方を推奨しているか?」
 
心理的安全性を醸成するうえで、各メンバーが自身の個性や違いを周囲やマネージャーに理解され、包括されていること(その個性や違いが仕事の役割・介在価値として活かされていること)が重要になります。皆に一律に全く同じものを同じ量で提供する「平等」は「Equity(公平性)」につながりません各々の個性・違い、さらにはその時の状態などを繊細に理解し、各々に合ったものを提供することで、メンバーはマネージャーを信頼し、自身を伸ばすためのナビゲートを親身にされていると動機づけられることでしょう。

また、各メンバーの Capability(能力)とPotential(可能性)を見たうえで、マネージャーは権限を移譲し、少しストレッチな環境・状況を意図的に用意することで、メンバーに自律性とさらなる成長機会を与える良い機会になることがあります。そのメンバーにとって、自身が気づかなった良さ・可能性などに気づけるきっかけとなり、前進するための勇気をもらえることにもなるでしょう。さらに、過去の成功体験や既存の枠組みに囚われず、New(新しい考え方)や Different(改善・改革に向けた今までとは異なる意見やアイディア)を推奨することも重要だと私は常日頃から考えています。
 
マネージャーは、未来に向けたオープンで柔軟なマインドセットを持ち、成長への動機と前進できる勇気をメンバーに与えることで、組織全体の成長と変革を促す役割を果たすべきです。
 
 

4.   Encourage | 鼓舞できているか

「Motivate(動機付けられている状態)に留まらず、Inspire(心躍らされている状態)にまで各メンバーを鼓舞できているか?」
 
よく「モチベーションを上げる」と言いますが、「その先」をマネージャーは見ることが、メンバーのみならず、マネージャー自身の気づきと成長機会になると私は思っています。

これは私自身の長年のグローバル環境でのHRリーダー経験から生まれる考えですが、Motivate(=動機づけられている状態)から「その先」の Inspire(=心躍らされている状態)をマネージャーはメンバーに与えられているかが、競争力ありAmbiguity(不確実)な世の中では重要だと思っています。

そのために必要なことは、メンバー個々の「Will(動機・やりたいこと)」「Can(強み・できること)」を理解し、さらには何を目指しているかの想い・夢にも「共感」する、いわゆる「Empathy」(これも「E」で始まりますね!)だと思います。それは間違いなく、メンバーの情熱とやる気スイッチの引き出し・源泉になることでしょう。
 
マネージャーは、メンバーが挑戦することで、たとえ失敗したとしても、その過程での努力などにも適切にRecognition(称賛)して認めることが大事です。そのことで、「Inspire(鼓舞)」されたメンバーは、自らのCapability(能力)とPotential(可能性)に気づいて、さらに挑戦していけることでしょう。 
 


5.   Energize, Enjoy | 楽しくエネルギーを与えているか

「外的環境などの競争力やチャレンジが増すほど、そのチャレンジを楽しめるようにエネルギーを高める状態を創れているか?」
 
Ambiguity(不確実)な世の中でAgility(俊敏性)持って突き進むためには、相当の勇気とエネルギーが必要になります。メンバーが変化を恐れず、新たな機会を見出していけるためには、精神的なブロッカー(障壁)になっていものを察知・特定し、それをUnlock(解放)する支援が必要です。

そのためには、例えばですが、マネージャーはメンバーに対して少しストレッチになるような挑戦的なプロジェクトや成果に向けた目標を提供し、そのメンバーが自身の可能性を探求・実感できるような環境や体制を整えることは有効だと思います。メンバーがそのチャレンジを苦しみながらも楽しむことができる状態を創り出すことで、そのメンバーは、今の自分から Exceed(自己超越)に向けた努力を惜しまず、組織の成功に貢献することができるようになり、そのメンバー個人のみならず、チーム全体にエネルギーチャージすることにもつながってきます。
 
シンプルに、マネージャー自身がチャレンジを楽しんでいる姿を全身で見せることが功を奏するのかもしれませんね!
 


6.   Engage | そして、エンゲージメント

「仕事に目的意識と社会的意義を持てているか、自身のWillやCanを活かせているかなどの「問いかけ」がメンバーにできているか?」
 
マネージャーは、メンバーが仕事に目的意識と社会的意義を持ち、自身の意欲や能力を活かせるような状態を促す役割が求められます。そのために有効なことは、メンバーとの「対話」を繰り返すことです。個々が仕事に対して何を求め、何を達成したいのかという「問いかけ」を行いましょう。

マネージャーは、メンバー個々の人生における目標や大切にしている価値観を理解し、適切な役割と責任を与えることで、自己実現感と自己肯定感を高めてあげることが、これからの時代にはより一層求められると思います。

意義を感じられる仕事と環境が構築されていない組織は、選択肢のひとつとして選ばれない時代が既にやってきています。

選ばれるマネージャー、選ばれる組織になるためには何が必要か、世の中と時代のニーズを読み解くセンス(感度など含め)は間違いなく重要なことだと思います。

また、マネージャーは、メンバーの成果のみならず、そこに至るまでの失敗含めた体験とプロセス、さらには組織全体や社会に対する貢献などにも適切に評価し、フィードバックを透明性持って提供すべきです。
 
マネージャーは、メンバーの前進と成長の支援者・伴走者として、メンバーが仕事に対して目的意識と社会的意義を持ち、自身の能力を活かせる状態を築くことが大事になります。さらには、仕事に対する意味付けがなされていること、組織の成長や目標達成に貢献ができていること、社会貢献につながることに関われていることなどにもつなげていく思考と工夫が求められることでしょう。
 
 

最後に

マネージャーの役割を担うことはプレッシャーが大きく伴うことであります。一方で、マネージャーの役割を担うことは、リーダーシップ力の向上や成長の機会というビジネス側面だけでなく、「人としての魅力」を高める素晴らしい気づきと前進の機会とも捉えることができると思います。

チームの成功と共に、自己成長も遂げ、マネージャーとしての役割とチャレンジを楽しめるよう、少しでも誰かの前進の後押しのきっかけになればと思い、私自身の長年のHR経験とグローバル企業でのリーダーシップ経験から具体的ヒントを綴ってみました。

この要素以外にも様々なことが考えられると思います。マネージャー以上の層の皆さまには、その探求をしていくことを是非とも推奨いたします!
 
そして最後に。
心理的安全性が醸成された組織風土は「対話」を通してこそ切り拓かれるということも改めて付け加えておきます。



以上、【組織風土を語る】と題して、4回連載の記事にいたしました。ここまでお読みいただきありがとうございます!


<参考記事 - 組織風土を語る①②③>


<プレスリリース - PR Timesストーリー>
「心理的安全性」と、失敗への許容・称賛、挑戦風土についても語っております。是非ご覧ください。


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外資系17年(HRトップ 7年)とプライム市場上場企業 Global CHRO(最高人事責任者)経験の私が「誰もが独自性を強みとして持ち、新しい無限の可能性を秘めている」を自身のコーチング哲学に、2023年3月 起業をしました。サポートくださる方々と一緒に日本を元気にしたいです!