【組織風土を語る②】 失敗への許容と称賛
前回の記事(【組織風土を語る①】)で、私の経験上ではありますが、「心理的安全性が高い環境を目指し、且つ高い成果や業績をあげる」ための要素のひとつとして「失敗を許容し、時に称賛する」をあげました。
ということで、今号では、「失敗の許容と称賛」について掘り下げてみましょう。
「失敗への許容と称賛」の有無の差
エンゲージメントが高い組織風土を醸成し、ビジネスで高い成果を目指すうえで、「失敗への許容・称賛」は欠かせない要素だと経験から強く感じます。何故なら、私は、タイプの異なる組織風土を持つ幾つかの企業で働き、外資系企業 日本法人HR責任者、そして日系上場企業CHRO(最高人事責任者)として、以下のような両方のタイプの経験があるからです。
◆「失敗への許容と称賛が伴う心理的安全性が備わっている企業」では ・・・ チャレンジ度が高いが故に日々の目の前の小さな愚痴などは多少あれ、自身の役割・仕事が会社のパーパスなどにつながる意義あるものだと認識し、「会社を成長させたい! そして顧客や世の中のために貢献したい!」という高い動機が組織内で醸成されており、その組織風土をさらに高めていくべくより一層のチャレンジを楽しむうえに、自身のキャリア含めてオーナーシップが非常に高い
◆「失敗が許されない、もしくは、失敗やミスをしたことが明るみになることが怖くて隠すといった心理的安全性がほぼ備わっていない企業」では ・・・ 社員間で会社や他の部署の社員に対する疑心暗鬼があったり、会社に対する愚痴・批判が蔓延する組織風土であるが故に、社員にオーナーシップは芽生えにくく、自身のキャリアに対する考え方も完全に受け身状態である。よって、その組織風土を改善すべく、Root Cause(根っこの課題=根本原因)を特定し、具体的アクションプランを策定して、トップダウンとボトムアップの双方向で推進する必要がある
私は、HR責任者として、両極の組織風土を体験し、異なるベクトルのアクションを推進する貴重な機会をいただきました。
「失敗への許容と称賛」がある企業
このカテゴリーに属する企業では、メンバーが自由に意見を言い、アイデアを提案し、ミスを恐れずに行動できる「心理的安全性」ある組織風土の環境下で、自ずと、ミスや失敗は「成長の機会」と捉えられ、チーム全体で学びを得るような「失敗の許容」が見受けられます。
場合によっては、「チャレンジしたからこそ失敗をしたんだ!」と称賛されることもあります。全社員の前で、ミスから学んだ事例として表彰をされたり、その事例の具体的な内容を発表して皆に共有するというスーパーポジティブな組織風土が伴っています。
よって、それらを、事業や組織の拡大フェーズに合わせて、より一層醸成する具体的取り組みを行うことで、さらにチームと組織のパフォーマンスが上がる体制になります。そうすることで、ボトムアップとトップダウンの融合でイノベーションがより一層創造され、チームと組織全体のパフォーマンスとエンゲージメントを飛躍的に向上させることにつながるのです。
このタイプの企業の特徴として、廊下ですれ違う社員同士の笑顔が多く、部署を越えた色々な社員同士が談笑しながら歩いていたり、活気に満ち溢れていることが多いです(外資系企業数社では、ハチャメチャでバタバタしていることも多く、動物園のようでしたが・・・笑)。
マネージャーがメンバーと1on1をする際は、アジェンダやシチュエーションに合わせて、オープンスペースで実施したり、カウンターでコーヒー片手に立ちながら実施したり、天気が良いと、外を散歩しながらや公園のベンチやカフェなどで実施したり、オープンかつ柔軟なところも特徴的です。
「失敗が認められない風土」が漂う企業
一方、こちらのカテゴリーに属する企業では、組織全体の雰囲気として、日常的に「個人への詰め・責め」が多発している傾向にあります。また、ミスや失敗を「非難」や「罰」の対象として捉えることが、まるで伝統芸能(!)かのようになっている風潮があり、「チーム全体の学びの機会」として捉えられるわけではなく、「個人へのお咎め」のような空気感さえも漂っています。また、経営層や組織リーダーから社員への信用や権限移譲に欠ける傾向から、何かと社員を縛るルールや強制がとにかく多いようです。
このタイプの企業の特徴としては、廊下の隅っこを下向いて歩いていたり、挨拶をしても目も合わせてくれない社員がちらほらいるといった感じです。
社員への信頼と権限委譲の欠如も原因になってなのか、ハイブリッドワークができる職種にもかかわらず、働き方やキャリアなどに対する社員目線での柔軟性・選択肢にも欠けている傾向があるのも特徴かもしれません。マネージャーがメンバーと1on1をする際は、ほぼ個室に閉じこもっての実施で、メンバーは監禁されている感覚になっていることも多いようで、時に「パワーハラスメント」だとHRに相談をしてくるケースもあったりします。
私にとっては、後者のような組織風土を目の当たりにすることは残念ではありつつ、HR責任者としてご縁あって入社した以上、何とか改善しないと!と奮闘することにパッションを注ぎました。
「企業カルチャー」と「組織風土」って?
よく、「企業カルチャー」と「組織風土」を混同してお話されている方が多いように見受けられますが、いくつかのグローバル企業でHR責任者をしてきた私には、それらには重なる部分がありながらも、明確な違いがあります。
「企業カルチャー」は、その企業のフィロソフィー・創業者の想い、Value(価値観)や信念、Code(行動規範)など、組織の基本的なアイデンティティを示す概念で、尊重され続けるようなものだと私は考えています。
一方、「組織風土」は、組織内の雰囲気や職場の状態を指し、日常業務におけるメンバーの感じ方、組織内での人間関係から醸成されるもの、相互間コミュニケーションや対話の質など、組織の一時的な状態や社内の空気感・温度感のようなものだと私は考えています。
「組織風土」は英語では「Organizational Climate」と言われることからも分かる通り、「組織の気候」なのです。この「組織風土」は、組織内のパフォーマンスやメンバーの満足度に大きな影響を与えます。
組織風土の特徴として、相互間のサポートや協力に溢れている場合や、社員間でのレコグニション(称賛)が自ずとなされている場合は、社員は「働きがい」があり、仕事に意味付けができており、やる気とエネルギーを持ってオーナーシップ(自律性)を発揮して仕事に取り組む傾向が間違いなく高いです。
よって、先ほど述べた後者(失敗が認められない風土の企業)の場合、会社が何を大切にしているのかといった「企業カルチャー」を皆で再認識し、浸透していくような取り組みやコミュニケーションを図りながらベクトルを同じ方角に向けるようにしていき、現在地での「組織風土」に関しては、どこにRoot Cause(根っこの課題=根本原因)があるかを特定・分析し、そこに対して具体的に改善策を取っていくことが重要になります。
ちなみに、後者でHR責任者をしていた際に私が主に取り組んで奮闘した事例としては、経営層に対して忍耐強く「世の中が向かっている方向性から逆行していること」に気づいてもらうべく啓発を何度も繰り返したり、各チームの風土を創る組織リーダーでもある全社のマネージャー層の定義と期待値を明確にして、それに紐付いたHR施策や制度に変革させていくことなどの試みなどがその一例です。また、キャリアに対するオーナーシップが欠如しているマインドセットと風土から脱却すべく、キャリア対話をオープンにできる機会を創ったりもしました。ハイブリッドワークに対する考え方と中長期目線での意義を全社に伝達することにも力を注ぎました。さらには、クロスファンクショナル(部門横断的)な組織風土醸成プロジェクトといった、ボトムアップでの推進をしていくことで全社員を効果的に巻き込み、当事者意識を持ってもらう機会を創ることも良いかと思います。
失敗を許容し、称賛しよう
「失敗への許容と称賛」があり、「心理的安全性」が伴う組織は、そうでない組織と比較しても、格段に高い頻度と濃度で、メンバーは自信を持ってアイデアを出し合い、挑戦することができます。
これにより、各々の仕事への意味付けがなされ、イノベーションが加速し、個人と組織双方の成果の向上が実現し、組織全体の競争力が高まります。
そのことにより、自ずと、個々の人生の充実度も高まることでしょう。
その組織は「タレントアトラクション」に強いと言えます。
つまり「社内人財のリテンション(社内活躍機会による離職率低下)」と「社外人財のアクイジション(競争力ある候補者を惹きつけ獲得できる)」 双方に秀でる可能性が格段に高まります。
私の経験から具体的事例として綴りましたが、どちらのタイプの組織風土が良い or 悪いという安直な議論をするつもりは一切ありません。
大事なことは、自身の所属する企業の「大切にしていること・フィロソフィー・価値観といった企業カルチャー」に今一度立ち返り、現在地の「組織風土」がどのような状態なのかを、チームの中で認識し、チームを越えて横断的に理解し合い、「対話」を通してチームと組織の「心理的安全性」を醸成する意識を(特にマネージャー以上の層は)持つことだと思います。
今回は、「心理的安全性」のひとつの要素として「失敗の許容と称賛」について掘り下げました。次号では、もうひとつの要素である「挑戦する風土」について語ります。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
次号も是非ご覧いただければ嬉しいです!
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外資系17年(HRトップ 7年)とプライム市場上場企業 Global CHRO(最高人事責任者)経験の私が「誰もが独自性を強みとして持ち、新しい無限の可能性を秘めている」を自身のコーチング哲学に、2023年3月 起業をしました。サポートくださる方々と一緒に日本を元気にしたいです!