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毎日読書メモ

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2023年4月の記事一覧

素敵な滋賀県小説:宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』(毎日読書メモ(483))

素敵な滋賀県小説:宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』(毎日読書メモ(483))

するつもりのない残業をしてしまって、ちょっとヨレた気分の帰り道、本屋に入ったら宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社)に呼ばれて持ち帰り。一緒に「本の雑誌」の目黒考二追悼号も買って帰り、半泣きで読んで、目黒さん生きていたらこの小説も絶賛したのではないかしらん、と思いつつ『成瀬は天下を取りにいく』を一気読み。

第20回「女による女のためのR-18文学賞」大賞、読者賞、友近賞トリプル受賞(この文

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早見和真『八月の母』(毎日読書メモ(482))

早見和真『八月の母』(毎日読書メモ(482))

本読みの人たちの間でかなり話題になっていた早見和真『八月の母』(角川書店)をようやく読んだ。2022年4月刊行。2020年から2021年にかけて「小説 野生時代」に連載されていた小説。読み始めたら一気読み。2日間で読んでしまった。しかし重苦しく辛い小説だった。そして感想をまとめるのに何日もかかった。
愛媛県伊予市を舞台に、自分の弱さは、ここを出ていくことでしか解放されない、と思いつつ、結局自分をが

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『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ/斎藤真理子)(毎日読書メモ(481))

『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ/斎藤真理子)(毎日読書メモ(481))

チョ・ナムジュ作、斎藤真理子訳『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房、現在はちくま文庫)をようやく読んだ。ずっとずっと書店で平積みされていて(翻訳書がこんなに長く目につくかたちで販売され続けているのはかなり珍しい)気になっていたのだが、個人的には、顔のない女性像の表紙(榎本マリコ)がちょっと怖く、読む前から不安をかきたてられる感じだったのだが、いやいや、作品そのものはもっともっと恐ろしかった。

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牟田都子『文にあたる』(毎日読書メモ(480))

牟田都子『文にあたる』(毎日読書メモ(480))

昨年、新聞の書評欄で牟田都子『文にあたる』(亜紀書房)の大変好意的な評を読み(評者は稲泉連さん)、気になっていたら、みるみるうちに注目度が上がってきて、最近は朝日新聞で隔週のコラムも書いていらっしゃるし、今週の「AERA」の「現代の肖像」という欄でも大きく取り上げられていた。校閲と言う、出版にかかわる業務の中で黒衣的立場にある仕事が、例えば「校閲ガール」というドラマ(宮木あや子さんの原作もとても面

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佐藤厚志『荒地の家族』(毎日読書メモ(479))

佐藤厚志『荒地の家族』(毎日読書メモ(479))

芥川賞を受賞した、佐藤厚志『荒地の家族』(新潮社)を読んだ。前作『象の皮膚』(感想ここ)に続き、「新潮」に掲載された小説の単行本化。

仙台在住の佐藤にとって、東日本大震災は向き合っていくべき大事なテーマであるようだが、アプローチは、ちょっと遠巻きにして、少しずつにじり寄っていくような印象。今作の主人公坂井祐治は、宮城県亘理町で植木屋を営んでいる。阿武隈川の河口の、海沿いの街。ここも震災の被害の大

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千早茜『ガーデン』(毎日読書メモ(478))

千早茜『ガーデン』(毎日読書メモ(478))

千早茜『ガーデン』(文藝春秋、のち文春文庫)を読んだ。千早茜と言う小説家の世界を色々体験してみたくて、色々拾っては読んでみようと。これは2017年に刊行された小説で、「別冊文藝春秋」に連載されていたもの。

主人公の羽野くんは、出版社で雑誌編集の仕事をしている若者。スペック高目で、仕事関係で出合う色んな女子にコナをかけられるが、心が動くことがない。他者と深い関係をもちたいと思っていない。
(でも、

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あまんきみこ『車のいろは空のいろ ゆめでもいい』(毎日読書メモ(477))

あまんきみこ『車のいろは空のいろ ゆめでもいい』(毎日読書メモ(477))

あまんきみこ『車のいろは空のいろ』シリーズについては、1年半くらい前にポプラ社がnote内で特設ページを設けていたのをきっかけに再読し、思い出したことなどをつらつらと書いた。
車のいろは空のいろ白いぼうし 車のいろは空のいろ星のタクシー 車のいろは空のいろ
最近の新聞記事で、『白いぼうし』『春のお客さん』『星のタクシー』に続く新刊として『新装版 車のいろは空のいろ ゆめでもいい』(ポプラ社)が刊行

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橋本治『巡礼』(毎日読書メモ(476))

橋本治『巡礼』(毎日読書メモ(476))

図書館の棚の間を歩いていて、橋本治『巡礼』(新潮社、その後新潮文庫、現在絶版?)に呼ばれた。印象的な平野甲賀の装丁。そして、橋本治も平野甲賀も亡くなってしまったと思うと寂寥感。
『巡礼』は2009年に「新潮」に掲載され、同年単行本化された小説。気になりつつ読みそびれていた。まるっとまとめてしまうとゴミ屋敷の住人の物語なのだが、何故巡礼なんだろう、と思っていた当時の疑問は、小説を読んで簡単に判明した

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