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毎日読書メモ

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2022年7月の記事一覧

桐野夏生『とめどなく囁く』(毎日読書メモ(377))

桐野夏生『とめどなく囁く』(毎日読書メモ(377))

書店の店頭で、文庫化されている桐野夏生『とめどなく囁く』(上下・幻冬舎文庫)を見かけて、あ、まだこの小説読んでないな、と思ったので単行本(幻冬舎)を借りてきて読んでみた。文庫を分冊して刊行するだけあって、2段組でぎっちり書かれた444ページ。

桐野夏生の作品、ディストピア的だったり、社会の底辺にいる人を飾りっけなく酷写したりしていて、読む前から息苦しい気持ちになることが多いが、この小説はちょっと

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赤染晶子『乙女の密告』(毎日読書メモ(376))

赤染晶子『乙女の密告』(毎日読書メモ(376))

第143回(2010年上半期)芥川賞受賞作品、赤染晶子『乙女の密告』(現在は新潮文庫)。「文藝春秋」で選評と合わせて読んだ時の感想。

「文藝春秋」誌上で芥川賞選評とともに読む。小川洋子が褒めるほどすばらしくもなく、石原慎太郎がおとしめるほどひどくもない(まぁ中間にあるから受賞したのだろうが)。女子大と書かれていないのに女子しか出てこない授業(やや非現実的)、閉鎖性(わたしは巨大総合大学にいたので

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桐野夏生『優しいおとな』(毎日読書メモ(375))

桐野夏生『優しいおとな』(毎日読書メモ(375))

現在桐野夏生読書中なので、過去の読書メモも桐野作品から。
桐野夏生『優しいおとな』(中央公論新社、現在は中公文庫)

一種のディストピア小説。闇の世界の渋谷~新宿。やみくろが出てきてもおかしくないような、そんな感じ。家族とはなんだろう、ということもあらためて考えてみたくなる、ちょっと宗教がかったバックグラウンドもある物語であった。展開が読めなくて面白かった。新聞小説だったようだけど、これは毎日先が

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山本文緒『ばにらさま』(毎日読書メモ(374))

山本文緒『ばにらさま』(毎日読書メモ(374))

遂に、山本文緒最後の作品集となる『ばにらさま』(文藝春秋)を読んでしまった。書店の店頭で見かける、強烈な少女像(タカノ綾)の表紙の印象が強かったが、本を開いて見ると、中表紙は、この図柄、『プラナリア』の装丁と一緒だ...と懐かしくなる(装丁・大久保明子)。

もてない青年にすり寄るようにすがってきた、真っ白な少女の本音と打算を描く「ばにらさま」、倹約生活を送る専業主婦の何故?、を最後にがらっと明か

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樹原アンミツ『東京藝大 仏さま研究室』(毎日読書メモ(373))

樹原アンミツ『東京藝大 仏さま研究室』(毎日読書メモ(373))

最近の読書は、大体、新聞や雑誌の書評や、出版社の広告を見て、気になったものを中心に選んでいるが、この『東京藝大 仏さま研究室』(樹原アンミツ、集英社文庫)は、珍しく、本屋の店頭で平積みしているのを見て、著者の名前も初めて聞いた知らない人だったのに、なんだか気になる、と思って買ってきた本である。そして、読後感の気持ちいい、良書であった。

東京藝術大学大学院 美術研究科 文化財保存学専攻 保存修復彫

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『世界の美しいボタン』(毎日読書メモ(372))

『世界の美しいボタン』(毎日読書メモ(372))

図書館に本を借りに行ったら、カウンター脇の特集棚のところに『世界の美しいボタン』(エリック・エベール著、パイ・インターナショナル刊)という本が平置きされていたのに心惹かれ、この本も一緒に借りてきた。表紙に紹介されているボタンだけでもすごく素敵だが、当然、本の中にはこれでもかこれでもか、と、18~20世紀のアンティーク・ヴィンテージのボタン(主にヨーロッパの物、一部日本の物も)が美しいカラー写真で紹

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西村賢太『苦役列車』(毎日読書メモ(371))

西村賢太『苦役列車』(毎日読書メモ(371))

西村賢太『苦役列車』(新潮社、のち新潮文庫)の読書メモ。今更ながら、冥福を祈ります。もっともっと書くべきものを持っていただろうと思われるのに。

駆け足で、自分の半生を振り返る私小説。これは西村賢太入門小説なのか? 自分が向き合っているものをなんらてらうことなく描いているような(あくまでも「ような」)小説の中で、労働の現場で出会った自分と同じなのか違うのかわからない(でも違った)若者との絡みをメイ

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祝・窪美澄さん直木賞受賞!(毎日読書メモ(370)

祝・窪美澄さん直木賞受賞!(毎日読書メモ(370)

窪美澄さん、直木賞受賞おめでとうございます。
デビュー作「ミクマリ」を含む『ふがいない僕は空を見た』(新潮社、現在は新潮文庫)が出たのが2010年で、この作品で2011年に第24回 山本周五郎賞を受賞していることを思うと、2022年の直木賞は遅すぎだろ、と思う。一方で、じゃあ窪さんの代表作って何? まさか『ふがいない僕は空を見た』なの???、と思うと複雑な気持ち。この作品は第8回本屋大賞の第2位に

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原田ひ香『人生オークション』(毎日読書メモ(369))

原田ひ香『人生オークション』(毎日読書メモ(369))

たまたま目についた原田ひ香を続けて読んでいる。今日は『人生オークション』(講談社、現在は講談社文庫)。「人生オークション」「あめよび」の2つの中編小説が収録されている。

「人生オークション」は、人生強制リセットとなった叔母りり子の身辺整理の手伝いをしに行くことになった瑞希(大学を出たが就活に失敗してバイト暮らし)が、叔母との関係性を再構築しながら、共に、叔母が不要となった荷物を次々とネットオーク

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原田ひ香『おっぱいマンション改修争議』(毎日読書メモ(368))

原田ひ香『おっぱいマンション改修争議』(毎日読書メモ(368))

原田ひ香『おっぱいマンション改修争議』(新潮社)を読んだ。
この表紙の一部(タダユキヒロ装画)を見ただけで、黒川紀章の中銀カプセルタワービルが示唆されていることはすぐわかるだろう。
最上階に錘状のユニットが2つ並んでいるために(中銀カプセルタワービルにはない、念のため)、おっぱいマンション、と呼ばれるようになった、小宮山悟朗設計の「赤坂ニューテラスメタボマンション」の老朽化と、解体か保存かをめぐっ

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『ふしぎ駄菓子屋銭天堂10』(廣嶋玲子・jyajya)(毎日読書メモ(367))

『ふしぎ駄菓子屋銭天堂10』(廣嶋玲子・jyajya)(毎日読書メモ(367))

3日連続『ふしぎ駄菓子屋銭天堂』。現在刊行されているのは17巻までなのでそんなに慌てて読んでは勿体ないような。多くの子どもたちの支持を受け、テレビアニメにもなり、遊園地にアトラクションも出来ている銭天堂、巻を追うほどに仕掛けの巧みさが際立ってきた。

旅行(9巻参照)から戻った紅子と墨丸を、銭天堂で待っていたのは、健太という素性の知れない少年。

【ネタバレ】その日の「幸運のお宝」である硬貨は、毎

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『ふしぎ駄菓子屋銭天堂9』(廣嶋玲子・jyajya)(毎日読書メモ(366))

『ふしぎ駄菓子屋銭天堂9』(廣嶋玲子・jyajya)(毎日読書メモ(366))

廣嶋玲子・jyajya『ふしぎ駄菓子屋銭天堂9』(偕成社)、8巻と続けて読む。続けて読むと、前のストーリーを忘れちゃう前にすっと続くのだが、こういう読み方はちょっと邪道な気も。子どもの読書は、もっともっと待ち焦がれて、前の巻を繰り返し反芻して、待望の新刊を舐めるように味わって読むのが本当は正しい読み方だと思う。駆け足が勿体ないのが子どもの本。

勝手に対決してきた、たたりめ堂のよどみを辛くも粉砕し

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『ふしぎ駄菓子屋銭天堂8』(廣嶋玲子・jyajya)(毎日読書メモ(365))

『ふしぎ駄菓子屋銭天堂8』(廣嶋玲子・jyajya)(毎日読書メモ(365))

あんまり間をあけずに『ふしぎ駄菓子屋銭天堂』シリーズ。過去2巻、鳥かごに閉じ込められていて、間接的にしか銭天堂にちょっかいを出してきていなかった、たたりめ堂のよどみさん、鳥かごから釈放され、早速銭天堂に宣戦布告に来る。来たついでに自分の手下を銭天堂に潜入させていく。

案の定、よどみさんのちょっかいで効能にブラックな要素が追加されたアイテムを買った幸運のお客さまは、紅子の思いもかけぬ不幸な効果に苦

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山本文緒『自転しながら公転する』(毎日読書メモ(364))

山本文緒『自転しながら公転する』(毎日読書メモ(364))

昨年10月18日、山本文緒さんの訃報に触れ、唖然としてから9ヶ月もたってしまった(当日の気持ち)。ようやく、『自転しながら公転する』(新潮社)を読んだ。ずっしり充実の478ページ。

「小説新潮」に連載し、単行本化するときに改稿し、かつプロローグ、エピローグを追加したらしい。この未来、というか現在?、を書いたプロローグとエピローグの追加により、物語の本筋に変更はないが、読者を愉楽の世界にいざなう引

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