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オリジナル小説「アスタラビスタ」

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人を殺めようとした紅羽を止めたのは、憑依者と呼ばれる特殊体質の男だった。キャラが憑依し合うヴィジュアル小説!
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#オリジナル

アスタラビスタ 7話part2

アスタラビスタ 7話part2

 道場の中央に集まった雅臣と清水、亜理と晃は、互いに向かい合い、手合せをする上でのルールを確認しているようだった。

 私と圭は道場の隅で体育座りをして、彼らの様子を眺めていた。私がこの手合せを傍観するのは分かる。だが、圭も私と同じように端で見ているだけというのは、あまりにも寂しすぎる。

「あの……圭さんは」
 思い切って、聞いてみることにした。

「その、つまらなくないですか? 見てるだけだな

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アスタラビスタ 7話part1

アスタラビスタ 7話part1

「遅かったじゃん! おみおみ~!」

 道場の真ん中で大きく手を振る赤毛の彼女は、先日と変わらず元気な様子だった。隣にいる晃は、申し訳なさそうにこちらへ頭を下げた。

 彼らへと歩みを早める雅臣は、明らかに不機嫌そうだった。

「俺たちよりも先に予約を取ったのは、お前らだったのか」
 雅臣の口調は、もはや怒りに近かった。

「そうよ。私たちが貸し切りで予約を取ったの。本当は晃と憑依時の確認をしよう

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アスタラビスタ 6話part5 6話完結

アスタラビスタ 6話part5 6話完結

 私は、ただ頭の中でぐるぐると考えるしかなかった。

私の身に何が起こったのか。そして彼らの身に、今何が起きているのか。

 考えれば考えるほど、分からなくなっていく。私はどうすればいいのだろう。私はこれからも、雅臣と一緒にいていいのだろうか。

 雅臣はどう思っているのだろう。雅臣は、私に身体提供者になってほしいのだろうか。だから、私との手合せを引き受けてくれていたのか?

 もし身体提供者にな

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アスタラビスタ 6話 part2

アスタラビスタ 6話 part2

 どちらかが起きているようにしてる? 

いや、それはおかしい。私は雅臣と清水が昼間、一緒にいるのをよく見る。それに雅臣は昼間、私と稽古しているじゃないか。

「雅臣は紅羽ちゃんと稽古するようになって、昼間も起きているようになったんだ。もともとショートスリーパーだったんだけど、最近はまともに寝てなかったみたい。だから寝かせてあげて」

 清水の口から、自分の知らなかった事実を語られ、頭の中が罪悪感

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アスタラビスタ 6話 part1

アスタラビスタ 6話 part1

 目が覚めると、時計は午後一時を指していた。

 近頃、雅臣との手合せで筋肉痛がひどく、起き上がると身体が軋む。だが、そのおかげで少し体重が増え、体力もついた。

病弱そうに細かった身体は、いくらか健康体に近づき、心も以前に比べて元気になった。

 ただ、独りで部屋にいると、未だに寂しさに襲われる。

特に夜。

昼間、雅臣たちと楽しく過ごした反動から、途方もない孤独に心が潰れそうになる。

 そ

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アスタラビスタ 5話 part6

アスタラビスタ 5話 part6

 彼らはまるで嵐のようだった。こんなエネルギーを間近で感じたのは久しぶりだったため、どっと疲れが襲ってきた。あれが若さというものなのか。

 ふと冷静になった私は、「食糧は多くない」という、先ほどの雅臣の言葉を思い出した。

彼らは貧乏だと言っていた。どの程度なのかは分からないが、こんな広いマンションに住んでいるのだから、それほど苦しいわけでもないのだろう。

 いや、この部屋を借りるために、彼ら

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アスタラビスタ 5話 part2

アスタラビスタ 5話 part2

 稽古を終えると、私は雅臣の車の助手席に乗り込んだ。彼らのマンションから私のアパートまで、さほど距離はなかったが、練習の後はいつも彼に送ってもらっていた。
 今日もそのはずで、私のアパートへ向かうつもりだった。だが彼が車のエンジンをかけてすぐ、私のお腹が凄まじい音を立てて鳴った。まずい、と思った頃には既に遅く、何とも言えない沈黙が流れた。
 しかし、意外にも雅臣は嬉しそうに「お前、ちゃんと腹も減る

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アスタラビスタ 5話 part1

アスタラビスタ 5話 part1

   あれから動悸や吐き気、眩暈に襲われることはなくなった。不安になる要素もなくなり、抗不安薬を飲むのもやめた。

  本来あるべき健康な生活を、私は取り戻しつつある。しかしそれでも、心にぽっかりと穴が空いている状態は変わらず、未だ喪失感は消えない。

  雅臣と薙刀で手合せをした後、私は彼ら三人に問い詰められた。薙刀での私の動きが、ただならぬものであると感じたらしい。

  私は初めて、別れた彼

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スピンオフ作品「未熟な赤い果実」

スピンオフ作品「未熟な赤い果実」

 僕が密かに想いを寄せていた女の子は、とても不思議な子だった。 

 僕の高校は、一般クラスと第一特進クラス。そして第二特進クラスが存在した。第一特進クラスは成績優秀者が在籍し、第二特進クラスは少し離れた校舎の南棟に教室があった。南棟は家庭科室や音楽室などがあり、実践科目を履修する時以外、一般クラスや第一特進クラスの生徒は立ち入らなかった。

 第二特進クラスは謎に満ちていた。どこの中学校の出身か

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アスタラビスタ 4話 part1

アスタラビスタ 4話 part1

「よし、紅羽。準備はいいか?」

 面をつけて立ち上がり、薙刀を持つと、私は十二メートル四方のコートに足を踏み入れた。まだ動悸がしている。苦しい。面をつけた視界は狭くなり、顔を守っている面金はまるで牢屋の鉄格子のように見えた。

 コートには先に雅臣が準備をして待っていた。防具を付けた長身の彼は、やはり迫力がある。薙刀を本格的にやっていた現役時代の頃、私は何度か男子と手合せや試合をしたことがあった

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アスタラビスタ 3話 part8 3話完結

アスタラビスタ 3話 part8 3話完結

 準備体操を終え、道場の隅で防具を付け始めた私は、既に顔から血の気が引いていた。少し身体を動かしただけで、動悸と冷や汗が止まらない。道場の床に座っているというのに、地面が揺れ動いているように感じた。こんな状態で、本当にできるのか。不安が大きく私の心を支配していく。

「そうだ! 雅臣が言ってた『剣道の防具じゃ足りない』って、一体何が足りないんだよ!」

 道場の真ん中にいた圭は、私にではなく向かい

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アスタラビスタ 3話 part7

アスタラビスタ 3話 part7

 稽古着に着替えて戻ってくると、圭が道場の中を裸足で意味もなく走り回って遊んでいた。その様子は、到底同い年とは思えないものだった。

「お! 紅羽が戻って来た!」

 圭が走り回っているスピードのまま、私のところへ駆け寄って来た。

「それが薙刀の道着かぁ! 袖、剣道の道着に比べて短いんだな!」

 指摘され、私は自分の腕に目をやる。半袖の道着にはゴムが入っており、二の腕で自由に調節できる。

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アスタラビスタ 3話 part6

アスタラビスタ 3話 part6

「ここは区営体育館だ。武道場は地下一階。第一武道場は畳だから、俺たちは板張りの第二武道場を一般公開で使う」

 雅臣と私が訪れたのは、彼らのマンションからほど近いところにある区営体育館だった。とても新しいとは言えず、外壁は所々剥がれていたが、温水プールもあり、設備は充分整えられているようだった。

「い、一般公開ってなんですか?」

「要するに団体貸し切りじゃないってことだ。この券売機で券を買えば

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アスタラビスタ 3話 part5

アスタラビスタ 3話 part5

 手に持っていた書類を机に置き、立ち上がった雅臣は清水を見下ろして言った。

「清水。疲れてるところ悪いが、圭と一緒に組織まで行って、薙刀と防具を持って来てくれないか?」

 頼まれた清水は口を開けたまま「う、うん」と頷いた。しかし、返事はしたものの首を傾げ、雅臣が何を考えているのか理解しきれていないようだった。

 私も何が起きているのか分からなかった。突然で脈絡もなく、察することもできない。す

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