アスタラビスタ 7話part1
「遅かったじゃん! おみおみ~!」
道場の真ん中で大きく手を振る赤毛の彼女は、先日と変わらず元気な様子だった。隣にいる晃は、申し訳なさそうにこちらへ頭を下げた。
彼らへと歩みを早める雅臣は、明らかに不機嫌そうだった。
「俺たちよりも先に予約を取ったのは、お前らだったのか」
雅臣の口調は、もはや怒りに近かった。
「そうよ。私たちが貸し切りで予約を取ったの。本当は晃と憑依時の確認をしようかと思ってたんだけど、やっぱり相手がいる方がいいと思って、おみおみたちを呼んであげたの」
上から目線で物を言ってくる亜理を、晃が弁解した。
「亜理はこう言ってますけど、俺たちの実力を確かめたくて、清水さんに電話したんです。こういうこと頼めるの、協力関係のある雅臣さんたちしかいないですし……」
晃の丁寧な言葉にも、雅臣の怒りは収まらないようだった。
「お前たちのせいで、俺と紅羽は……」
そう雅臣が言いかけたところで、亜理は「え!? 紅羽ちゃん!?」と言って、道場の入口で中の様子を窺っている私に向かって走って来た。
「紅羽ちゃん、お久しぶり。元気だった? おみおみを呼んだから、もしかして来てくれるかなとは思ってたんだけど、本当に来てくれたんだね!」
いや、本当は来たくなかった。自分の手合せもできないのに、道場に来る意味なんてない。だが、私はやっぱり気になったのだ。彼らの手合せを。
私の両手を握り、上下に揺らしながら、亜理は満面の笑みを浮かべていた。
「晃、道具は持ってるでしょ? 準備して」
清水が私と亜理から視線を外して晃に言うと、晃は「了解です」と答えた。だが、晃は「準備」の前に、不機嫌そうな顔をしている雅臣に近づき、小声で尋ねた。
「雅臣さん、もしかして何か怒ってます?」
「は? 別に怒ってねえよ」
怒っていないとは到底思えない、眉間に皺を寄せた表情で雅臣が答えると、晃は「よかった。怒ってる」と安堵したように言った。
彼の言葉とは裏腹の態度に、私は驚いて、ちらちらと圭や清水の顔色を窺った。
「だって雅臣さん、怒っていた方が、本気出してくれそうじゃないですか」
その言葉を聞いて、すぐさま反応したのは清水だった。
「何? 煽ってるの?」
こういう清水の姿を見ていると、恐ろしく思う。普段は大らかで優しい彼が、戦うこととなると、やはり人が変わる。それが戦う興奮というものだと思うし、そこまでしてでも、惹きつけられるものなのだと思う。
「煽ってないですよ。ただ事実を言っているだけで」
晃は茶化すように笑って見せた。そんな彼を見て、雅臣はニヤリと笑った。
「言っておくが、俺たちを本気にさせたいのなら、煽るべきは俺じゃなくて清水だぞ」
「いいんです。雅臣さんを煽れば、ほら」
雅臣の隣へと来た清水を顎で指し示し、晃が言った。
「清水さんが本気出してくれるじゃないですか」
三人の間にピリピリとした空気が流れる中、それを見ていた圭が、能天気に「いいぞー! もっとやれー!」と喜んでいた。
「ほんと、男って……」
あれほどはしゃぎ、晃を困らせていた亜理が、彼ら三人のやりとりを見て、呆れかえっていた。
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