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今日もコピーが書けません

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コピーライターの日々。 ※もちろんフィクションです
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記事一覧

「今日もコピーが書けません」第13話:夢は買い切り

「今日もコピーが書けません」第13話:夢は買い切り

中堅広告代理店に勤めるコピーライターPは、真っ白な部屋にいた。4メートル四方の小さな部屋だ。机も椅子も真っ白である。まるで、精神病患者が閉じ込められる実験施設のようだとPは感じている。真っ白な扉が開いて、仕立てのいいスーツを着た男が入ってきた。

「Pさん、本日はお越しいただきありがとうございます。メディア・イノベーション局のAです」

「メディア局?うちの会社にイノベーションがつく部署なんてあり

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「今日もコピーが書けません」第12話:民度の差

「今日もコピーが書けません」第12話:民度の差

「新郎のお取引先様より電報をいただいております」

若手営業Hの結婚式には大勢の参加者が出席しており、コピーライターのPは、慣れない礼服に首元が苦しく落ち着かない。洋風の料理は美味かったが、早く式を終えて、二次会をパスして同期のMと居酒屋に行きたかった。

「え〜Fテレビのスポット担当一同様より、ついに年貢の納め時ですね。瞳を閉じれば、H君が開催してくれた数々の合コンが目に浮かびます。もう、あの勇

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「今日もコピーが書けません」第11話:プレゼンの9割はハッタリ

「今日もコピーが書けません」第11話:プレゼンの9割はハッタリ

中堅広告代理店でコピーライターをしているPの元に若手営業Hが興奮した様子で走ってきた。

「Pさん、とれました!とれましたよ!」

「何が?ほくろ??」

「ちがいますよ!C社の競合コンペ、うちが勝ったんですよ!」

広告代理店は年がら年中、コンペに参加している。クライアントは億を超える予算の広告施策を任せるに足る代理店を決めるために、複数の会社を集めてプレゼンをさせ、優れた施策を提案した会社に任

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「今日もコピーが書けません」第10話:コピーライターVSアートディレクター

「今日もコピーが書けません」第10話:コピーライターVSアートディレクター

とある広告代理店の会議室。コピーライターPとアートディレクターDは、制作中のポスターデザイン出力を見つめていた。

「こっちの表情は、明るい中に少し憂いがあるんだけど、それがいい。こっちは、ど真ん中の笑顔、朝ドラ、って感じ。で、こっちは、微笑なんだけど品があっていい。う〜ん悩むな〜」

「どれも同じに見えますけど」

「ぜんぜん違うじゃない」

「それより、このコピー、また誤字がありますよ。赤字入

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「今日もコピーが書けません」第9話:WEB代理店にジョインですです

「今日もコピーが書けません」第9話:WEB代理店にジョインですです

コピーライターのPは迷っていた。10年勤めた中堅広告代理店を辞めて、外資系の代理店へ行くか、WEB系の代理店へ行くか、それとも独立するか。まるでLIFE CARDのあのCMのように、3枚のカードを見比べながら。どうする?どうする?

「このチームにジョインできて、とても嬉しいです!」同じ中途入社のメディアプロデューサーの女性はギャルのような見た目とは裏腹に、しっかりとした口調でそう言った。WEB代

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「今日もコピーが書けません」第8話:夢の海外ロケ

「今日もコピーが書けません」第8話:夢の海外ロケ

灼熱の太陽が照りつけるタイのビーチ。日除けのテントの下で、監督とカメラマンはじりじりしながら待っていた。「モデルはまだ出て来ないんですか?」代理店のコピーライターであるPは、俺に言われても、と内心思いながら、「ちょっと見てきます」と現場を離れた。

撮影用のトレーラーのそばには、半分腐ったような野犬がうろうろしている。Pは現地のコーディネーターに言った。「あの犬を追い払ってくれませんか」コーディネ

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「今日もコピーが書けません」第7話:悪夢の社内競合

「今日もコピーが書けません」第7話:悪夢の社内競合

2015年のことだ。その年は、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」が公開され、欧州に難民危機が訪れ、エルニーニョ現象などによって世界の平均気温が過去最高を更新した。そんな年だった。

中堅広告代理店でコピーライターとして働くPは、大手自動車会社Uの仕事に忙殺されていた。自動車の広告は、会社の中では花形であり、すべての仕事が大きな予算と規模で、やること、考えることは無限にあった。TVCMはもちろん

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「今日もコピーが書けません」第6話:大航海時代

「今日もコピーが書けません」第6話:大航海時代

2019年、それは、
・新元号「令和」元年
・消費税10%に増税
・イチロー引退
・米津玄師「Lemon」発売
・「アベンジャーズ・エンドゲーム」公開
の年である。東京オリンピックを1年後に控え、何かいいこと、新しいことが始まる予感に溢れた年であった。年末までは。

「はい、かんぱ〜い!」ワイングラスを顔の高さまであげ、3人の女性が飲み始める。ポルトガルのワインが名物のバルで、1人の男と3人の女性

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「今日もコピーが書けません」第5話:ガンジス川のデルタ株

「今日もコピーが書けません」第5話:ガンジス川のデルタ株

2022年、それは、
・世界的にコロナのパンデミックが収束しつつある年
・ロシアのウクライナ侵攻
・Ado「新時代」発売
・「トップガン・マーヴェリック」公開
の年であり、世界に襲いかかった災厄がよくも悪くも日常になってしまうほど、悲劇的な出来事が多かった年だった。

「薬は飲まない方がいい。ココナッツで熱は下がるよ」流暢に日本語を駆使するインド人のガイドDはそう言って、ガンジス川沿いのストリート

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「今日もコピーが書けません」第4話:空飛ぶ三角関係

「今日もコピーが書けません」第4話:空飛ぶ三角関係

2002年、それは
・ユーロ通貨の開始
・日韓W杯共同開催
・エミネム「Lose Yourself」発売
・Dragon Ash「Life goes on」発売
の時代であり、ライブドアがホリエモンに事業譲渡され、ITという言葉が世の中に出始める。何か世の中が変わりそうな雰囲気が溢れている。そんな時代であった。

プロペラは順調に回り続けている。骨組みだけのコックピットの揺れをスタッフが抑えている

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「今日もコピーが書けません」第3話:クリエイティブ・ディレクターはつらいよ

「今日もコピーが書けません」第3話:クリエイティブ・ディレクターはつらいよ

2016年。それは、
・トランプが大統領に初当選
・ボブ・ディランがノーベル文学賞受賞
・AKBと乃木坂と嵐のみでチャートの TOP10を占める
・「君の名は」大ヒット
の年である。徐々に働き方改革が進み始めており、
これまで語られてこなかった「効率化」が、
広告代理店にも浸透してきている時代でもあった。

「揃ったか、おい、P、早く座れ」クリエイティブ局長のSが、クリエイティブ・ディレクターを集

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「今日もコピーが書けません」第2話:シルク・ド・ソレイユ

「今日もコピーが書けません」第2話:シルク・ド・ソレイユ

2010年、それは
・尖閣沖で中国漁船と衝突
・80円に近い円高で市場介入
・西野カナ「会いたくて」大ヒット
・マル・マル・モリ・モリ
の年である。これは、まだ「コンプライアンス」という言葉なんて誰も知らなかった時代の物語だ。

「もし、クリエイティブ配属じゃなかったらどうする?営業に配属されたとしたら?」最終面接。ダブルのスーツに髭をたくわえ、貫禄のある体型の、いかにも役員、といった風貌のおじさ

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「今日もコピーが書けません」第1話:皆殺し

「今日もコピーが書けません」第1話:皆殺し

あらすじ
コピーライターとして働くPの仕事奮闘記を、①若手時代②営業時代③CD時代④学生時代⑤独立時代の5話に分けて構成。はやくコピーが書きたいのに、なぜか遠回りばかりしてしまう。でも、その遠回りがないと、コピーというものは書けないのかもしれません。

第2話 https://note.com/door13/n/n908a7160f7ad
第3話 https://note.com/door13/n

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