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読書熊録

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素敵な本に出会って得た学び、喜びを文章にまとめています
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2024年3月の記事一覧

早くゆっくりと支援ーミニ読書感想『知的障害と発達障害の子どもたち』(本田秀夫さん)

早くゆっくりと支援ーミニ読書感想『知的障害と発達障害の子どもたち』(本田秀夫さん)

児童発達支援に詳しい専門医・本田秀夫さんの『知的障害と発達障害の子どもたち』(SB新書、2024年3月15日初版発行)は、親の悩みに寄り添う素晴らしい本でした。発達障害のある子(疑いが指摘される子)の親にとって、ASDやADHDがあるかどうかと同時に気になるのが、知的障害の有無であることに異論は少ない気がします。本書は二つの障害の関連や、発達障害に比べて一般書が少ない知的障害のある子どもへの支援を

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「搾取に苦しむ人」に向けたSF小説ー『ここはすべての夜明けまえ』(間宮改衣さん)

「搾取に苦しむ人」に向けたSF小説ー『ここはすべての夜明けまえ』(間宮改衣さん)

間宮改衣さんのデビュー小説『ここはすべての夜明けまえ』(早川書房、2024年3月6初版発行)は、読んだ後に「すごい小説を読んだな」と唸ってしまう作品でした。なるべく事前情報(ネタバレ)なしで読まれてほしい。凄まじいインパクトを、ダイレクトに受け取って欲しい。

なので感想で書くべき情報は極力少なくしたいけれど、これだけは声高に訴えたい。これは多くの生きづらさを抱えた人、とりわけなんらかの搾取に苦し

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古い本の豊かな味わいーミニ読書感想『本の栞にぶら下がる』(斎藤真理子さん)

古い本の豊かな味わいーミニ読書感想『本の栞にぶら下がる』(斎藤真理子さん)

斎藤真理子さんの『本の栞にぶら下がる』(岩波書店、2023年9月14日初版発行)が滋味あふれる一冊でした。『フィフティー・ピープル』や『82年生まれ、キム・ジヨン』など、韓国文学(朝鮮文学)の名作を日本に届けてくれている翻訳者による読書エッセイ。紹介されている本の多くは古い本だけれど、そこに全く古びない豊かな味わいがあると教えてもらいました。

たとえば、思想家鶴見俊輔さんが著した新書エッセイにつ

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かなり違った人との会話ーミニ読書感想『100分de名著 偶然性・アイロニー・連帯』(朱喜哲さん)

かなり違った人との会話ーミニ読書感想『100分de名著 偶然性・アイロニー・連帯』(朱喜哲さん)

NHK番組『100分de名著』シリーズのテキスト『100分de名著 偶然性・アイロニー・連帯』(NHK出版、2024年2月1日発行)が学びになりました。ナビゲーターは哲学者の朱喜哲さん。番組は見れていませんが、書籍として単独で楽しめる。朱さんの単著『〈公正〉を乗りこなす』とリンクさせて考えることができました。

『公正』は「正義論」のロールズと、「会話を続けるための哲学」を提唱したローティが二本柱

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言葉の剣聖の刀さばきーミニ読書感想『宮部みゆきが「本よみうり堂」でおすすめした本2015-2019』(宮部みゆきさん)

言葉の剣聖の刀さばきーミニ読書感想『宮部みゆきが「本よみうり堂」でおすすめした本2015-2019』(宮部みゆきさん)

切れ味のある書評を書くにはどうすればよいのか?ーーそのお手本と言える一冊が作家・宮部みゆきさんの『宮部みゆきが「本よみうり堂」でおすすめした本2015-2019』(宮部みゆきさん、中公新書ラクレ、2023年11月10日初版発行)でした。読売新聞の書評面「本よみうり堂」をまとめた本書。長いもので見開き2ページ、短いものでは1ページちょっとの分量で、その本の魅力を伝える。簡にして要を得るとは、まさにこ

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分ける理解・つなぐ理解ーミニ読書感想『野生のしっそう』(猪瀬浩平さん)

分ける理解・つなぐ理解ーミニ読書感想『野生のしっそう』(猪瀬浩平さん)

猪瀬浩平さんの『野生のしっそう』(ミシマ社、2023年11月20日初版発行)が学びになりました。人類学者が、自閉症と知的障害がある兄と「ともに」思索する本。失踪でも、疾走でもなく、しっそうとタイトルにするような、独特の「あわい(間)」を大切にする本でした。

中心的なテーマになっているのは、著者のお兄さんが突然、家を飛び出してどこかにいってしまうこと。それは客観的に言えば、障害者の失踪である。でも

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失われる狩りの景色の活写ーミニ読書感想『完全版 日本人は、どんな肉を喰ってきまのか?』(田中康弘さん)

失われる狩りの景色の活写ーミニ読書感想『完全版 日本人は、どんな肉を喰ってきまのか?』(田中康弘さん)

カメラマン田中康弘さんの『完全版 日本人は、どんな肉を喰ってきまのか?』(ヤマケイ文庫、2023年6月5日)が面白かったです。『おすすめ文庫王国2024』にランクインしていた本書。タイトル通り、日本のあちこちで昔から続けられてきた狩り(獣肉の調達)に目を向ける。だんだんと失われつつある狩りの様子、そこで得られる肉の味を活写してくれています。

写真がふんだんに使われていて、めくっているだけでも楽し

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夏目漱石『門』をいまさら読む

夏目漱石『門』をいまさら読む

夏目漱石『門』(角川文庫、1951年2月15日初版発行)を読みました。いまさら、ではあるけれども、三宅香帆さんの『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』(角川文庫)で紹介されていて、どうしても読みたくなりました。「旧刊も、出会った時がその人にとっての新刊」とはまさにそう。ほんとに、読めて良かったなと思いました。

(『読んふり』の魅力はこちらで紹介)

『読ん

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土地の香りとひとつまみの不思議ーミニ読書感想『八月の御所グラウンド』(万城目学さん)

土地の香りとひとつまみの不思議ーミニ読書感想『八月の御所グラウンド』(万城目学さん)

万城目学さんの直木賞受賞作『八月の御所グラウンド』(文藝春秋、2023年8月10日初版発行)が面白かったです。万城目作品はこれまで読んだことがなく、直木賞をきっかけに初めて読みました。京都という土地の香りが優しく漂うと共に、ちょっぴりいい塩梅の不思議さがとても心地よかったです。

読むにあたって、ちょうど公開されたNHKニュースのこちらの記事に目を通していました。リアルが9、空想が1。読んでみると

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歩くとは読むことーミニ読書感想『散歩哲学』(島田雅彦さん)

歩くとは読むことーミニ読書感想『散歩哲学』(島田雅彦さん)

小説家島田雅彦さんのエッセイ『散歩哲学』(ハヤカワ新書、2024年2月25日初版発行)が面白かったです。まさに散歩道のように、寄り道だらけ。それが良い。島田さんは呑兵衛らしく後半はほとんど飲み歩きの話。それも良い。そんなこんなしてるうちに、散歩哲学の何たるかが体に染み渡る。

散歩とは何か?それは「読むこと」である。歩くことは読むこと。それが散歩哲学と見受けました。

たとえばエピローグでこんなふ

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なんのための診断ーミニ読書感想『自閉症スペクトラムとは何か』(千住淳さん)

なんのための診断ーミニ読書感想『自閉症スペクトラムとは何か』(千住淳さん)

医学の基礎研究に取り組む千住淳さんの『自閉症スペクトラムとは何か』(ちくま新書、2014年1月10日初版発行)が学びになりました。ASDの基本的な特徴や、遺伝子との関係の基礎知識を学べる。初版はもう10年も前になりますが、現代にも十分通じる内容かと思います。自分は特に「診断とはなんのためにあるのか?」という部分で学びを深めました。

ASDは目には見えません。また、障害名のとおりそれはスペクトラム

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鬼舞辻無惨に対抗する「学びの呼吸」ーミニ読書感想『話が通じない相手と話をする方法』(ピーター・ボゴジアンさん&ジェームズ・リンゼイさん)

鬼舞辻無惨に対抗する「学びの呼吸」ーミニ読書感想『話が通じない相手と話をする方法』(ピーター・ボゴジアンさん&ジェームズ・リンゼイさん)

ピーター・ボゴジアンさんとジェームズ・リンゼイさんによる『話が通じない相手と話をする方法』(藤井翔太さん監訳、遠藤進平さん訳、晶文社、2024年2月5日初版発行)がためになりました。X(旧Twitter)などで大変話題になっていて、そのタイトルに思わず目を惹かれました。まさしく、話が通じない相手と、それでも会話を続けていくためのマインドセット・スキル・テクニックがふんだんに語られています。

入門

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