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小説 『理性と忘却』
1 「花浜匙」 ———二〇年前
目が覚めると、女性が部屋に備え付けられた化粧台の前で鏡に向かっていた。彼女は僕が目を覚ましたのに気づくと、僕に「おはよう」と言った。彼女はまた鏡に向き直って、化粧の続きを始めた。僕よりもだいぶ先に起きていたようで、化粧は仕上げの段階に見える。
「あのさ、君って名前なんだっけ。」
「えー。ひどい。」
「ごめん、緊張してしまってあまり覚えていないんだ。」
「言い訳か
1 「花浜匙」 ———二〇年前
目が覚めると、女性が部屋に備え付けられた化粧台の前で鏡に向かっていた。彼女は僕が目を覚ましたのに気づくと、僕に「おはよう」と言った。彼女はまた鏡に向き直って、化粧の続きを始めた。僕よりもだいぶ先に起きていたようで、化粧は仕上げの段階に見える。
「あのさ、君って名前なんだっけ。」
「えー。ひどい。」
「ごめん、緊張してしまってあまり覚えていないんだ。」
「言い訳か