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社会人3年目です。 移ろう景色は灰色でした。 今はどうですか? エッセイや小説を 書い…

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社会人3年目です。 移ろう景色は灰色でした。 今はどうですか? エッセイや小説を 書いていきたいと思っています。

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短編小説『エンドロールの後は』

金曜日。 週の退屈な業務を終わらせ、多くの人は夜の煌びやかな繁華街に駆り出し、疲れをアルコールでかき消していく。俗にいう華金というやつだ。一方で、自宅に家族が待つ人は足早に帰宅している。人々はその二分化された選択肢しか知らないようだ。仕事仲間か、家族か。それが世の常識である。 「二瀬、お前も飲みに行くか?」 中本が二瀬に声をかけた。二瀬は面倒だという顔を出さずに、取り繕った顔で丁重に断った。 「誘ってくれてうれしいけど、あいにく予定が入ってるわ。ごめん。」 「おっけー。また誘

    • ヲタクのためのヲタクによる解説 『忘れっぽい理性と完全な忘却』

      ※小説『理性と忘却』のネタバレを含みます。 小説をお読みになってから解説をご覧ください。 小説『理性と忘却』をご覧いただけましたでしょうか。ご覧いただいた方には感謝いたします…! 稚拙な文章で大変恐縮ですが、予想してなかった展開を楽しんでいただけたかなと思います。ただ、僕はヲタクの方々にも楽しんでいただきたいのでかなりメタでマニアックな伏線を張っています。 しかし、メタすぎてわからない点が多いから解説を出してほしい!と、あるヲタクの人から要望がありました。よって今回、作者

      • 小説 『理性と忘却』

        1 「花浜匙」 ———二〇年前 目が覚めると、女性が部屋に備え付けられた化粧台の前で鏡に向かっていた。彼女は僕が目を覚ましたのに気づくと、僕に「おはよう」と言った。彼女はまた鏡に向き直って、化粧の続きを始めた。僕よりもだいぶ先に起きていたようで、化粧は仕上げの段階に見える。 「あのさ、君って名前なんだっけ。」 「えー。ひどい。」 「ごめん、緊張してしまってあまり覚えていないんだ。」 「言い訳かな?」 「いや、その、情けない。」 「情けないね。」 淡々と化粧をする横顔はそれ

        • 小説 『海の奏』 (創作大賞2022第一次審査通過)

          1 再会 [荥浦 水月(えいうら みつき)の証言] 私はそれほど間違ったことをしたと思っていません。貴方方からみれば間違いかも知れませんが、私は最善の行動をしたまでです。それが善か悪かと二項対立はできずに、あらゆる抗えぬ選択肢から妥協したのです。だから私は、最初に、父を殺しました。 あの人と暮らし始めた当初、違和感はありませんでした。当時、まだ私は六歳ほどの年齢で世の常識は自分の家の中だけでした。居候ということの概念も意味も理解できませんでした。私がその違和感を意識し始

        短編小説『エンドロールの後は』

        • ヲタクのためのヲタクによる解説 『忘れっぽい理性と完全な忘却』

        • 小説 『理性と忘却』

        • 小説 『海の奏』 (創作大賞2022第一次審査通過)

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          小説:重軽石

          家の呼び鈴が鳴った。重い腰を上げて玄関へと向かう。宅配のお爺さんが玄関先にいた。 「これ、かなり重いですよ。気をつけてください。」 お爺さんは苦虫を噛み潰したような顔をして、荷物を重そうに抱えている。だらんと下げた腕に、雫になった汗が流れる。一歩一歩足を動かすたびに小さな呻き声をあげて玄関の中に荷物を運ぶ。腰に痛みが生じるのか、荷物を地面に置いた途端、庇うように手を腰に当てる。僕は荷物を両手で受け取った。しかし、それほど重くなくて拍子抜けした。おじいさんと僕の反応が全く違うの

          小説:重軽石

          小説 『必要・悪夢』

          1 夢の中にいる僕。自覚できる夢を何というか。そこまで、頭は冴えていないようだ。場所は遠い、ような気がする。先ほど寝た場所(いや時間軸はわからないが最後に意識があった寝床)から幾分離れた場所に来ているような気がする。しかし、おかしい。先ほどの寝床と全く同じ見た目をした場所なのだ。そこで体を横にしているのだ。言葉にすると大変妙なことだが全く同じなのに違うと思わずにはいられない。この空間は、異質と親しみの両方が相反しながら僕の感覚を狂わせる。声が出そうにも出ることはない。不完

          小説 『必要・悪夢』

          小説:BGM

          もう彼とは別れている。私から振った。ちゃんと嫌いだ。今でも。なんであんな奴と付き合っていたのだろう。もう2度と、あんな恋はしない。これは私の戒文書である。あんな男には惹かれないためのおまじない。今日は、My hair is badの『元彼女として』。 ペット。私は彼のペットだった。 大多数の人間に、「妹みたい」と言われる。確かに、私は背が低くて適度な顔立ちで、甘めの声、持ち前の物覚えの悪さもあり、妹ポジションを長年やってきた。それ以外のポジションをやろうとすると、ボロが出る

          小説:BGM

          小説:熟れたトマトに毒

          大学生になって一人旅というのに憧れを強く抱いていた。でも昔から臆病な性格のせいで、知らない土地は怖かったから、何度か訪れたことのある京都に行くことにした。 日中は記憶にある観光名所を訪れたが、正直、新たな感動というものはなかった。京都の夕暮れはなんだかすごい素っ気なく、一気に夜の帳が下りてきた。僕はそれから逃げるように鴨川沿いの階段をおりた。片手に缶ビールを持ちながら、昼と夜の狭間をすり抜けて、川の流れとは逆方向に進んでやった。せっかく京都にきたのに新たな感動もない、やるせ

          小説:熟れたトマトに毒