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わたしが「日記」に惹かれる理由

わたしが「日記」に惹かれる理由

小鳥書房で店主落合さんとおしゃべりしていて、ふと投げられた質問に言葉が詰まった。

「どうして日記が好きなの?」

例によってよくわからないというようなことをよくわからないことばで濁して返した。落合さんはちゃんと訊いてくれる。でもたいてい、そのちゃんと訊いてくれたこと、自分で結論の出ていないことがらばかりだから、ろくな会話にならない。

そもそも、なんとなく生きすぎなわたしが悪いのだけれど。
最近

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【掌編】熱(習作)

【掌編】熱(習作)

 武蔵小金井で降りた。これ以上は無理だとおもった。ホームに出てすぐ、ベンチに倒れこんでしばらくじっとしていた。いってはいけないと絶叫する理性が、もう楽になりたいという身体を必死の形相で押しとどめている。目を見開き、無心で味気ない床のタイルを睨む。電車が数本、着いては発つのを感じながら。そうして十数分ののち、俄かに立ち上がって階段を降りきったところで、そのまま操られるかの如くトイレへ吸いこまれ洗面台

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ちょっと本屋みに、旅にでます|二〇二三年七月・伊東篇

ちょっと本屋みに、旅にでます|二〇二三年七月・伊東篇

あつい。夏だ。
とくればやることはひとつ。

そう、海

の、みえる街の本屋で涼もう!

静岡県は伊東市。
東京から、日帰り弾丸。
ちょっともったいない気もするけれど、とにかく一度行っておかないと死ねない、そんなお店がここにあるもので。



本と音楽の店 つぐみ

つぐみさんは夏の色の似合うお店だと思う。貝殻のかけらがたくさんひかる砂浜。高い太陽の光をうつして、世界は真っ白。そこに透き通る蒼が

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ちょっと本屋みに、旅にでます|二〇二三年五月・尾道篇

ちょっと本屋みに、旅にでます|二〇二三年五月・尾道篇

一年ぶりの尾道の空、にびいろ。

ひとまずからだをやすめたかった。荷物をドミトリーに投げうって、駅前でバスを待つ。

縁もゆかりもないまちの、しらない路線バス。
雨でしめった、青々しい制服たち。

丘の上でおりて、温泉施設で汗を流す。ありふれた、どこにでもありそうな感じのつくりだけれど、初めてでも色んなことがだいたい予測つくから、安心。湯あがりに取り急ぎビールを一杯。これもよくありがちな、ちょっと

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【掌篇】『極夜』(習作)

【掌篇】『極夜』(習作)

 黒のロング・コートを羽織って家を出る。まっくらな部屋の食卓の上には、くるみのパンとチーズ、そしてりんご。あの人の、きょうのモーニングに。
 少し重たいパインの扉をおしあけて、ブルー・グレーにしずんだ世界にあゆみだす。彼の机の抽斗にしまってあったクルマのキー。家の前でしずかに座っている、少しくたびれてくすんだブルーのからだに差し込んで回す。彼がそうしていたように、左側のシートに身をしずめる。再び、

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