ちょっと本屋みに、旅にでます|二〇二三年七月・伊東篇
あつい。夏だ。
とくればやることはひとつ。
そう、海
の、みえる街の本屋で涼もう!
静岡県は伊東市。
東京から、日帰り弾丸。
ちょっともったいない気もするけれど、とにかく一度行っておかないと死ねない、そんなお店がここにあるもので。
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本と音楽の店 つぐみ
つぐみさんは夏の色の似合うお店だと思う。貝殻のかけらがたくさんひかる砂浜。高い太陽の光をうつして、世界は真っ白。そこに透き通る蒼が、水平線をはさんで上下に滲んでいる。そんな感じ。あわくて、あかるい。
扉をあけたら、「こんにちは」の声。「こんにちは」で迎えてくれるお店が、わたしはすき。やっぱりおもったとおりの場所だなって、もうこの時点で安心。
平日ど真ん中だったから、貸し切りのひとりじめ。さいきん浮ちゃんが好き、って話をしたら雰囲気のちかいレコードやCDを選んでくれる。まわるレコード。オーディオの横に並ぶ店主私物のCDたち。棚を見る手を止めて、ジンジャーエールをいただく。しょうがが派手に舌の上で踊る。ぱちぱちする。夏だ。座ってのんびり、ひろい窓の向こうの灼熱をながめる。グッド・ミュージックといっしょに。
ちいさなお店だからこそ
本はエッセイ、音楽、詩といった、やさしい人文系の顔ぶれ。
音楽はレコード、CDにカセットもある。邦楽も洋楽も、ここで初めてみた、というアーティストがいっぱい。わたしのように、通でないけれど音楽が好き、みたいな人間にはうってつけ。きっと良い出会いに恵まれるとおもう。
本も音楽も、棚に並ぶ作品たちは決して多くはないかもしれない。でも、ひとつひとつが意図と意思と愛をもってセレクトされていて、大きな流通にのらないちいさな子たちも、ここでは堂々と主役のひとりとして棚を飾っている。ていねいに綴られた手書きのPOPを、誇らしげに身に着けて。
今回手にとったふたつも、東京で出会えるところはあるだろう。でも、物理的に「豊か」すぎる街のにぎやかな棚に並ぶ姿をみつけるのと、素朴な街の選び抜かれたラインナップのなかで目が合うのとでは、重みがちがう。都心の店で同じように背表紙に手をかけたとしても、買おうと思わないかもしれない。ちいさく、大切にいとなむお店だからこそつながる作品との縁を、今回ことさらに感じた。
CDのシュリンクフィルムに貼ってあったPOPは、きりとってブックレットのなかに挟んで仕舞ってある。想いもいっしょに受けとったなあとおもう。
いそがない、ひとときを
お店は意外と駅近。
といっても伊東駅からさらにひと駅、伊豆急行線にはいった南伊東駅。
あれっ駅どこ? ときょろきょろしていたら、目の前の公民館かなにかだとおもっていた建物がそうだった。そんなのどかな駅。本数も多くない。
でもできれば、電車の時間なんか調べないでほしい。時計なんかみないでほしい。たぶんだらっと間延びした時間を持て余したりもするだろうけれど。いいじゃない、たまには。
わたしは頭がおかしいので、行きはこの炎天下の中元気に伊東駅からお店まで歩いた。三十分くらい。よかったよ。怪しすぎる漢方薬屋にひとりで爆笑したり、道間違って山側へ数百メートル無駄にずんずん進んじゃったり、一息つきに入ったマックスバリュが全然涼しくなくてびっくりしたり。気候が良ければ、おさんぽがてら。
お店、ぱっと見ありそうにない場所におっ、というかんじであるから、よーく気をつけて訪ねてみてほしい。やってんだかやってないんだかわからない極真カラテ会館の、道路挟んだ向かい側をよーくみて。おっ、てかんじでみつかるとおもう。
東京から優等列車と普通列車を乗り継いで、二時間くらい。
音楽も本もすきで、静岡に行く機会があるのなら、どうか一度はのぞいてみてほしい。
たまたまお眼鏡にかなうものがなかったとしても、こんな場所があるということそのものが、ちょっとうれしくなるとおもう。
わたしは、とっても嬉しかった。
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