小永りゅーじん

ひびをつづる |ご連絡・お問い合わせはcyanadress@gmail.comまで

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マガジン

  • 日記ふうエッセイ【ひび】

    日々くらすなかでこころ動いた瞬間の記録。生活のスケッチ。わたしにみえている世界についての、ちいさな表現。

  • 雑文

    その他書いたものいろいろ

最近の記事

ひび|2024.03.11

寝癖がなおらない。櫛をかけておさまったかとおもったら、すこし歩いて軽く風にあたっただけでふわっふわに広がってくる。きのう、眠れなくて遅くまでiPhoneをいじっていたせいかなと思い返して、あれ、でも下にしていたのは癖のついてる方と逆側だったはず。なんでこんな、どうにもならなくなっちゃってるのさ。一日ずっと、江戸川コナンみたいな髪で過ごす。 14時40分ごろ、ふと気がついた。46分になったところで、手を合わせる。いつも、あれこれしていたら通り過ぎている時間に、ことしはちゃんと

    • 二〇二四年二月

      ある夜、濁った鈍い頭で電車を待ちながら漫然とiPhoneをいじっていたら、いやにニコニコした男の人が声をかけてきた。なんて言っているのか、さいしょ全然聞きとれなくて返す言葉が見つからなかったのだけれど、三度目くらいでようやく「ギンザ・ライン」という単語が聞き取れた。銀座線のナニガシという駅にいきたいみたいだ。今いるのはJRのホームだから……構内の案内表示の、黄色いマルに「G」のマークを示して、とりあえずここではなく、階段降りてこのマークのところへ行くのだということを身振りで示

      • ひび|2024.02.26

        生活にすっかり疲れている。 晴れた嵐。窓の外で唸る風。暴れ狂う洗濯物。それでも、おそるおそる外に出てみて思ったより寒く感じないのは、二日ぶりの陽射しのおかげか、それともきのうの羽田の凍りつくような雨の厳しさを身体が憶えているからか。青空に梅が映える。 淡々とはたらく。いい仕事はしたとおもう。褒めてもらっても、心はもうあんまり動かない。契約を更新するために判をおす。またしきりに褒めている。何も感じない。この人たちは、何もわかっていないだけだ。8,000円昇給する。 暗くな

        • ひび|2024.02.11

          いつもの電車に乗って、いつものようにドア横にもたれて、いつものように文庫本をひらく。でもふいに車窓に目をやって、飛び込んできた景色はいつもよりまぶしかったし、あんな看板あったっけって、今更はじめてみたような気持ちがする。空がとにかく、蒼い。目の前に立っていたオバサンは駅に着くやいなや上り方面へ向かってピョコピョコせわしく首を動かして落ち着かない。降りるわけでもなくまた車内に戻って、しきりにまたピョコピョコやっている。白く着ぶくれたコオト姿が、巨大な白鳩のようで可笑しい。扉が閉

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        • 日記ふうエッセイ【ひび】
          46本
        • 雑文
          5本

        記事

          二〇二四年一月

          夢。 ブラームス〝ドイツ・レクイエム〟の、パート練習をしている。 わたしは経験者なのにさっぱり歌えなくて、みんなの後ろでまごまごしている。 そばにパート・リーダーが寄ってきたので、たまらずにスマン、とこぼした。かれは、苦笑いしていた。リーダーは、けんか別れしたかつての友人だった。 * 「3」が「4」にカウントアップしてほどなく、内臓をゆらゆらと遠心分離にかけるように、長くきもちわるく大地が揺れた。相変わらず世の中はお互いの顔も見ずに罵りあい煽りあい、平気でウソをつき、爆弾

          二〇二四年一月

          ひび|2024.01.05

          渋々起きあがった。冷凍ごはんをチンして、きのうの豚汁をあたためる。黄色いロウみたいになったラードたちが、すぐにきらきらなスウプに変わってゆく。みかんを皮ごと半分に割って、ふたつみっつくらいの房をまとめて口に放り込む。幼い頃はみかんのすじをなるべく綺麗にとらないと、のどにひっかかりそうで怖かったのをおもいだす。コーヒーを淹れて、シャツにアイロンをかける。 先日わたしの本を買ってくれたKさんから、うれしいことばがたくさん届いている。よろこびすぎないように注意して御礼をしたためな

          ひび|2023.12.31

          夢をみた。 美しい、大きな川のみえる家に住んでいる。あたりは一面、田んぼと、ポツポツみえる真っ黒な民家だけ。二階の窓から、電線の上におおきな、見慣れない鳥がとまっているのをあーちゃんが教えてくれる。家の中は古い面影を残していて、暗い和室のひっそりとした畳の目をおぼえている。 予報より天気が良くなったので、洗濯物を干す。人でごった返すスーパーで最低限の買いものをすませたら、トイレとお風呂を掃除して、仕上げにリビングもひと拭き。もう十分でしょう。よくがんばりました。 昨日ロ

          【日々】彷徨う|二〇二三年十一月

          二〇二三年十一月五日 中央線に乗り換える。そこでふと自分の前に電車に乗り込んだひとの背中に妙に見覚えを感じる。なんとなく流れでそのひとの向かいに座ってみて、ちょっと可笑しくなってしまった。知り合いでも何でもなく、でもたしかにこの男の人と同じ駅からいっしょに乗り込んで、しかも向かい合わせに座ったことが以前にもあったというだけ。どうして覚えているかって、その男の人の顔かたちとか、頭にちょこんとのったニット帽とか、ちょび髭とかがやけに特徴的だったから。ガタイよく強面なのに、なんと

          【日々】彷徨う|二〇二三年十一月

          【日々】フェイクファーの夜|二〇二三年十月

          二〇二三年十月十三日 なんとなく書けない日がつづく。 心動いても書き残す気持ちにならない。 そもそもほとんど動かないし。 日々、最低限のことしかできない。 ギター弾けたらいいだろうなあとふと、おもった。きのうInstagramでみた浮さんみたいに、風に吹かれながら、どこでも自由にすきなものが歌えたらどんなに良いだろう。武蔵境から乗ってきたギターケースをかかえた女の子の、口元に浮かぶやわらかい微笑が、うつくしかった。 金曜日の夜、浮かれた宴会帰りに紛れて歩くのがほんとうに

          【日々】フェイクファーの夜|二〇二三年十月

          【日々】仲間がほしかった|二〇二三年十月

          二〇二三年十月二日  朝方、何度かうっすら目が覚めた気がする。昨晩、扇風機の風量をすこし強くしすぎて、風が冷たい。でも起きあがってそれを調整する気力はなくて、うすい毛布にくるまってしのぐ。となりのあーちゃんが時折お手洗いに立つのを感じながらうつらうつらする。  ゴミ出しに玄関をあけるとひんやりした風。秋というよりちょっと冬のにおいすら感じる。ヨーグルトをたべる。このところ、眠れずに苦しむ夜が減ってきているような気がする。  きょうは早当番だから、朝のうちに出かける。気持

          【日々】仲間がほしかった|二〇二三年十月

          【日々】秋の風、お月見|二〇二三年九月

          二〇二三年九月二十四日  朝、ふと振り向いたひょうしに首から肩にかけての痛みが久方ぶりに再発した。買いもののために駅前へ出てゆく。陽射しはあるけれど風は爽やか。Tシャツを通りぬけてゆく風に乗って洗剤の芳香がたち、髪がゆれてシャンプーのにおいが鼻先をかすめる。首の不調が気になって買いものはあまりできず、おまけに引き取るつもりでいたクリーニングものはそっくり忘れて帰ってきた。  朝はホットコーヒーをいれた。午後は、アイスコーヒーになった。くちびるがかわいて、ちょっとひび割れか

          【日々】秋の風、お月見|二〇二三年九月

          【日々】みんな天才だよ|二〇二三年九月

          二〇二三年九月十九日  ちゃんと朝と呼べる時間にベッドを降りる。残りもののカレーとバナナ、ミルク。コーヒーをいれて、本の編集作業。慣れないInDesignを見様見真似。こういう時つい完成を焦ってしまって、丁寧に学びながら進むことができなくて後で苦労するのだけど、今回もそうなりそう。部屋の中はクーラーがきいていて気持ちがいい涼やかさ。  灼熱の中を泳いで一週間ぶりにオフィスへ赴く。最寄駅を出てから到着するまで、胸のあたりが暗い不快感でどんどん重たくなっていって挫けそうになる

          【日々】みんな天才だよ|二〇二三年九月

          【日々】大地から宇宙へ、旅から日常へ|二〇二三年九月

          二〇二三年九月九日  うしろ姿のキュートな女の子が歩いている。眺めつつ歩いていると、うしろから勇猛そうな、でも声変わりのしていない芯の細い声が飛んできて、ユニホーム姿の野球少年たちが自転車で次々わたしを追い越してゆく。精悍に焼けた肌と線の細いからだ。そのかれらのほとんどが、前をゆく女の子の顔を追い越しざまに振り向いて確認していったのをみて笑ってしまった。わかるよ。つい見ちゃうよね。駅へ急ぐわたしの脚もすぐに女の子との距離を縮めてゆく。右手から大きく弧を描くように追い抜いてゆ

          【日々】大地から宇宙へ、旅から日常へ|二〇二三年九月

          【日々】空気が変わった|二〇二三年九月

          二〇二三年九月一日  陽射しは変わらず熱い。噴き出す汗。なのに、びゅうっと吹き抜けてゆく風がひんやりしている。からりと気持ちがいい。  電話をするというただそのことだけに苛々して、終わってみれば別になんということもなくて。わたしはわたしをトゲトゲさせたり疲れさせたり大事にしてくれなかったりする人が嫌いで、でもその怒りのせいでさらに世界を狭めている可能性が怖かったりして。不貞腐れてわざと引っ込めていた力がやむを得ない忙しさによってあっさり引っ張り出されてきちゃって。わたしは

          【日々】空気が変わった|二〇二三年九月

          【日々】ハイウェイ・チャンス|二〇二三年八月

          二〇二三年八月二十二日  最寄駅を出て、近くのスーパーで金麦を買ってすぐに歩きながら飲み干す。こんなことをしたのはたぶん生まれて初めてだと思う。別に何にもラクにはならないし、おもしろくもなかった。わたしはどこにいても、うまくやっていくことができないんだなとおもう。こんなに、人と関わること、一緒にいることが苦しい場所にいたことは、すくなくとも社会に出てからは一度もなかった。きょうなにがあったとかそういうことではなくて、実はもうずっと、無理になっていたんだと思う。気づいたのが今

          【日々】ハイウェイ・チャンス|二〇二三年八月