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オッケー、大丈夫!|2024.06.26




ちょっと早く産み落としすぎてしまった氷

さわるとすぐに融けはじめて
ぬるぬる、こころもとない

でもその子たちをたくさんコップに詰めてみたら
いつものしっかり固まったおとなたちより
ずっとうつくしい、色っぽいぎんいろになった



外はきょうも、なつやすみのにおい。
プールとか、うみとか、空と緑と土のにおい。


電車で前方にみえている男の人はわたしそっくりだ。
顔もすこし似ているけれど、とにかく背格好としぐさが気持ち悪いくらい似ている。この前、大学時代の先輩が数年ぶりにLINEしてきたとおもったら「いま丸の内線乗ってるよね?!」って。全然家にいたんだよね、そのとき。信じられないくらい似てたんだって。それを思い出した。

ほどなくして電車がとまってしまって、振替輸送で乗り換えたのは奇しくもその丸の内線だった。新宿で降りる。相変わらず無限に人が湧いては歩いてゆく。会社に電話をいれようとおもって、邪魔にならない場所でiPhoneを取りだしたところで、海外から来られたらしいおねえさんから「伊勢丹はどっち?」って英語で尋ねられた。「あっちを……」でもう言葉が出てこなくなった。眼を回しているわたしを見ておねえさんは「オーケー、そっちでもなくこっちでもなく、あっちなのね? それがわかれば大丈夫!」っとまあシャッキリ快活に笑って去っていった。無力。


1時間遅れて会社に着いた。隣の部署のおばさまからさくらんぼをひと粒もらう。食べたあとでお礼を言おう……そうおもって結局言えなかった。ここにいると何もうまくできない。さっきの山手線ではちゃんと松葉杖のひとに、座りますか? って言えたのにな。まあノーセンキューだったみたいだけど。座るほうが大変そうだったもんな。


行きも帰りも、混みあう電車のなかで赤ちゃんが泣いていた。

それを聞きながらぎゅっとシートに縮こまって、目をつむっていた。

生きた気のしない一日がまた終わってゆく。





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