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ひび|2024.03.11




寝癖がなおらない。櫛をかけておさまったかとおもったら、すこし歩いて軽く風にあたっただけでふわっふわに広がってくる。きのう、眠れなくて遅くまでiPhoneをいじっていたせいかなと思い返して、あれ、でも下にしていたのは癖のついてる方と逆側だったはず。なんでこんな、どうにもならなくなっちゃってるのさ。一日ずっと、江戸川コナンみたいな髪で過ごす。


14時40分ごろ、ふと気がついた。46分になったところで、手を合わせる。いつも、あれこれしていたら通り過ぎている時間に、ことしはちゃんと立ち止まれた。ちょっと、格好つけなんじゃないかって気もする。でも、こういう気持ちをふつうに持って生きていたいとおもっていることは、ほんとうだ。たくさんの、わたしよりずっと、ずっと、世界に必要とされていたはずの人たち。いてもいなくても何にも変わらないのに、なぜか、まだ生きているわたし。いつも、その虚しさを考える。


連休をつくったから、実家に羽根を伸ばしにいこうとおもったのだけれど、母は九州の実家へ様子見に、父は仕事の行事でばたばたしているそうで、よしておくことにした。この前も雪で見送ったばかりで、そのときからさらに輪をかけて、母は残念そうだった。早いうちに顔を見せに来てね、というその口ぶりがこれまでとすこし違っていて、ちょっと不安になる。


黙々と、ほとんど口も利かずにはたらく。はたらきながら、時折読んだり、考えたりしている。なんとなく毒が回ってきた感じがあるから、なるべくSNSは見ないで過ごすことにした。「一日遅れの日記」をよむ。莉子、莉子さん、なぜかわたしは莉子、という名前がさいきん、すき。理子、もいいけど、「莉」の字が、なんかいいな。知り合いにそんな名前のひとは一人もいないんだけど。



日付をまたいで、リビングの明かりは消して、デスクにおいたお気に入りのランプの明かりだけですごす。安い紅茶。ムーミン谷のミイのマグカップ。真綾さんと芳雄さんの『星と星のあいだ』。木下牧子の合唱曲集。フィッシュマンズの『ナイトクルージング』。青葉市子。いちばんしずかで、いちばん凪いだこの時間がすきだ。いまのわたしがわたしでいられるのは、実はこの時間だけなんじゃないかって、そうおもう。


わたしはもうがんばらないし、競争に勝ちたいともおもわない。急にふっと、ちょっと憤然としたような熱で、そんなことをおもう。だれとも戦う気はない。そう、そういうのじゃない。でも、手に入れたいものはある。立派になんてなれないけれど、一人前にはなりたい。やさしくなりたい、でもわたしはこれっぽっちもやさしくなんかないってこともわかっていて、だからこそやさしくあろうとし続けたい。お金も責任もニガテなのに生きているといつもそいつらが付きまとってきてもうつかれちゃったから、はやくおしまいになりたい。いらないでしょうそもそも、わたし、この世界に。なのに、それなのにまだ続いてしまうのなら、わたしはわたしの暮らしをちょっとでも心地よく、豊かにしたい。触れてくれた人には、なにか、ちいさくてもいいから、なにかを返したい。あなたの人生の、すくなくともマイナスにはなりたくない。ちょっとだけでも、あなたの人生に、登場してよかったと、おもってもらえたら。世のなかの大多数とは全然違うやりかたで、豊かに生きていたい。わたしに社会を変える力なんてないけれど、その枠の、外側には出られなくても、すみっこの際の際くらいで、出来うる限りしあわせでいることならきっとできるはずだから。虫の抵抗でもいい。そうやって、大嫌いなお前らのことを、ね、すこしでも見返してやりたいと思ってるんだ。





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