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日記とか
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壊れてるんですよ〜|2024.10.22

8時台に起きた。こんなゆったりした平日の朝もまた当分お預けとおもうと惜しい。焼いてもらったチーズトーストをたべて、コーヒーを淹れる。のみながら、並行して読んでいる本や漫画のページを繰る。コーヒーは美味しく入った気がするけれど、舌の上で何度も味をたしかめているうちに「コーヒーの《うまい》って一体なんだっけ」と考えがゲシュタルト崩壊的様相を呈してきて目をまわす。お昼を買いに外に出ると、おもいのほか陽射しが熱い。肌寒いかな? と思いつつロンT一枚で出たらすこし汗ばむくらい。午後に出

来るなら言ってよ!|2024.10.12

本屋イトマイさんからの帰り道、たまたま同じトークイベントでいっしょになった友だちとふたり、電車に揺られた。 「帰り道っていいよね、大人になるとなかなかないよね」 彼女がぽつりとこぼしたそのことばが、いまも耳に残っている。飲み会とかでもなく、みんなでどこかへ出かけるのでもない、ふたり、ただの帰り道。昔はいっぱいあった気がするそんな時間は、言われてみれば今はもう、日常にはそうそうないシーンかもしれない。レールと車輪の音に揺られながら、横並びでかわすことば。彼女の傷が癒えつつあ

梅屋敷|2024.07.28

日曜日は梅屋敷にいた。 きょうも昼過ぎまでほとんどタテになれず、頭も掃除の足りていない排水溝みたいに鈍く重くぐるぐるしていた。なんとか立ち上がって着替える。やや身だしなみがヨレている気がするけれど、もうきょうはこれ以上はできない。品川で乗り換え、特急みたいなかたちをした見慣れない列車に乗り込む。車両に「北総鉄道」と印字されているのをみて、ずいぶん長い距離を走るんだなあとぼんやりおもう。 梅も屋敷もどこにあるのかわからないけれど、いい色をした商店街のある街だった。そこをちょ

水性の午後|2024.07.27

土曜日、中野「水性」にいた。 くすりのせいか頭はぼんやりしている。ほんとうは呑んじゃダメなんだけど、つい開けてしまった缶ビールが心地よくからだにまわっている。いまは名付けようのない自由な空間になっているこの場所の、以前の姿を伝える「クリーニング」の古びた看板が、かわいい編みものたちの展示の向こうにみえている。じいこさんの編みもの。彼女が声をかけてくれなければ、きっとわたしはなんとなく中をなめただけで逃げ帰っていただろうとおもう。おかげでわたしはこの、知る人の誰もいない場所で

オッケー、大丈夫!|2024.06.26

ちょっと早く産み落としすぎてしまった氷 さわるとすぐに融けはじめて ぬるぬる、こころもとない でもその子たちをたくさんコップに詰めてみたら いつものしっかり固まったおとなたちより ずっとうつくしい、色っぽいぎんいろになった * 外はきょうも、なつやすみのにおい。 プールとか、うみとか、空と緑と土のにおい。 電車で前方にみえている男の人はわたしそっくりだ。 顔もすこし似ているけれど、とにかく背格好としぐさが気持ち悪いくらい似ている。この前、大学時代の先輩が数年ぶりにL

日焼け|2024.05.18

あーちゃんが出かけてゆくのを、七割ぐらい眠ったままの頭で見送る。気がつくともう十時前で、ぼっさりと起き上がってひげをそり、暴れ散らした髪を櫛で殴りつけ、洗濯機を回し、ロンTにジーンズで駅へ向かう。手ぶらで歩くと気持ちがいいけれど、この時間でもすでにじりじりと陽射しが痛い。駅で友人のタケ氏と落ち合って、明日の文学フリマで必要な荷物一式を詰めたスーツケースをうけとってまた引き返す。慣れない重みを引きずってあるく初夏の道々、あっという間に汗がにじんでくる。 四十分ほど締め切ってい

役割|2024.04.16

日に日に、職場のビルをでたときの空の明るさが増している気がする。 きょうはお弁当を済ませたあと、隣駅くらいまで足をのばして、何するでもなくぶらぶらと散歩をした。週末に友だちといっしょに行こうと思っているお店を下見したり、百貨店を冷やかしついでにキレイなトイレで一息入れたりした。まあ、さぼりだ。既定の休憩時間はゆうにはみ出している。でも、このあと四月からの新入社員がわたしのはたらくチームに研修に来るという話をきいて、なるべく長く席を空けておきたかった。この会社の、しかも大学出

32|2024.03.30

目が覚める きょうは、ちゃんと朝のうちに起きようとおもっていた でも毛布の柔らかさがここちよくて すこしだけこのまま、まどろんでいることにした いつもはまた目が覚めてしまったことにうんざりして 新しい一日が始まるのがイヤで 閉じこもるような気持ちで丸まっていることが多いのだけれど きょうはすこしだけ特別だから いつもよりもずっと、しあわせなまどろみ * 街をあるく びっくりするくらい春めいている いろんなにおいがする 人がたくさん、あるいている ブルゾンを羽織ってき

ひび|2023.03.08

 近所の庭の花ざかり。そばを通るたびに次は写真に撮ろうと思い続けて、きょうようやく構えたiPhoneの画面にうつるすがたはもうだいぶ散りかけている。こんなことばっかりだな。  国立駅で降りて、谷保のダイヤ街に。小鳥書房で落合さんと久しぶりで長話をする。お互いの近況。屈託のない人になりたくて、でもなれないこと。ゲッターズ飯田的にはわたしは昨年から大殺界の真っ只中にいるらしいこと。性格タイプが「海と夕焼け」の柳沼さんと一緒なこと。占いは色々、心当たりがあることだらけで可笑しくな

ひび|2023.02.20

 夜明けに小走り。学生のころの、合宿の朝を思い出すにおい。国分寺で中学以来の旧友Eと落ち合って、カーシェアで確保していたクルマに乗りこむ。新小平の高倉町珈琲に入ったら、いつものようにモーニングをとる。  最近引っ越してふたりぐらしを始めたかれは、「自分で作った方が早い」とほとんどの家具をDIYしているらしい。その軽やかさをあらためて見直して、まぶしいやらおのれが情けないやら。圧倒的敗北感。自分も思想だけは似たようなことをかんがえるようになったけれど、結局何にもしていない。た

ひび|2023.02.05~10

2023.02.05  国立・museumshopTが入っているビルは階段から上をうかがっても本当にここ? と足がとまるような佇まいだった。意外な感じでちゃんとあった。「小鳥書房と日記」展をゆっくりみて、落合さんの『浮きて流るる』を買う。予算はない。でもここで買わないと、ほしいのにそのまま手に取れずに終わりそうだったから。会計を済ませて出る直前に落合さんがとびこんでくる。バタバタとあいさつだけ。前にお会いした時もこんな感じだったな。会えないとおもわせてギリギリでちょっと会え

ひび|2023.01.24~31

2023.01.24  会社を出ると凄まじい暴風に冗談抜きでよろめきそうになった。しかも凶悪なまでに冷たい。風が凍りついている。悲鳴をあげたい気分でそれでもアメ横へあるいてゆく。  冷風にふきさらされてひどい顔でタバコを吸っている東村と落ちあい、安居酒屋に飛び込む。物書きごっこ二人の、定例打ち合わせという趣向である。互いにおのれの道行きに懊悩しながら、素直にしんどいと吐き出し、ふだん爛れたところにあてている包帯も解き放って、束の間酒を呑み、未来のささやかな楽しみに舌鼓を打

ひび|2023.01.11

 駅前の井戸はまだ水が出ないようだ。年明けから、ポンプの故障とかでずっと水が汲めないでいる。それを尻目にちょっと急ぎ足で、新小金井駅へ。この駅はなんでもない街中を歩いていると突然現れるのが良い。住宅街に埋もれている。ひっそりと、ある。西武多摩川線を使うのはこれで二度目だけれど、なんだかたまらなく好きな路線だ。なんでもない営みの中をちいさく走る単線。人がいなくてガラガラ。古い車両の座席はふかふか。いい。  終着・是政までのわずか数駅を乗り通したら、多摩川にかかる橋をわたって、

ひび|2023.01.08

 合唱団瑠衣の演奏会を聴きにふたりで入谷へ。しっかりした混声合唱を生で聴くなんて、一体いつ以来だろう。鶯谷駅を南口から出て凌雲橋をわたるときのながめがよかった。また東京キネマ倶楽部でライヴとか聴きたい。  ア・カペラのうたを聴いていると、その周りにシンと湛えられている静謐が、強い存在感を持って迫ってくることに気がつく。背筋が伸びるような緊張感がある。神々しさすら感じられてくる。人間という楽器のほかに、なにものも音をつくっていない、無との厳しい対峙。そのくせ、音は闇に滲んで溶