マガジンのカバー画像

日記

40
運営しているクリエイター

#現代詩

吹き込まれる、幻

吹き込まれる、幻

 裾野からふんわりピンク色に溶け出していく空の、茜の極まるところの、その先から生まれる風を吸い込んだ。足の先はとっくに靴の形にまるくかためられていて、タイツと靴のさわりが悪い。人が通り過ぎる。色硝子を透かして見たような音色がイヤホンから流れ込む。それはゆったりとした静寂で、そのなかに限りなく薄い破裂が混ざっている。

 共犯が、愛より上だと思っていたころ、小さなソーサーカップをいくつも集めるような

もっとみる
牛のしっぽには星がある

牛のしっぽには星がある

 年が明けました。
 一年を、暮れるとか明けるとかで表現するたびに、ひとひもひとよも変わらないのかもなと思ったりします。

 時間の感覚ってほんとうにさまざまで、自分のなかでもさまざまで、それなのに一番はっきりしているものみたく扱われていて、その落差にたまにうっとりしてしまう。それは生きているに近いから。

 まばたきの回数で空とべたならわたし今星空にいる、とか

みたいな短歌を詠んだことがあるけ

もっとみる
魚の瞼を感じる日には

魚の瞼を感じる日には

こんな苦しい日はどうしてたんだっけ、時間もお金ももうわからなくなってて、夜が冷たく刺してきて、それに急かされるみたいにかえる、かえる道でスタバが煌々と在って吸い込まれて最後尾につく、喉に落ち着いたチャイの温もりと、赤くなる頬、それから中也の詩集をひらけば慌てて飛び出る涙の厚みのある感じ、踏んでいた絨毯が大きな犬の毛足のようで思わず蹲りたくなる、冬の夜のことがまっすぐ愛されていてその文字を追ったあと

もっとみる
醒めない遊び

醒めない遊び

 口に出すと、漏れ出していくものがある。騙すとか蝶とかそういう類のものではなくて、まっすぐな光の柱のような場面でしゃがみ込んでしまうようなそういう類の、ものがある。

 たしかな手がかりとして、ひとは朝を指すけれど、ほんとうがどこにあるのかはきっと、まだ誰も知らない。水の深さに、空の苦さに、まだ触れていない。からだの隅にいくらか積もった黒ずみの、うっかり撫でてしまえば指先にうつるやわらかな絶望達。

もっとみる
匂い、匂う

匂い、匂う

八月のことはよく覚えていない。

素足でプールの水をずっとかき混ぜているように、何にも届かない場所にいた。

ギターを指で弾いて渡る際の、きゅいん、が耳の奥で溶けていく。遅くなった帰り道で自動販売機の売り切れが赤く四つひかる。マンションの階段はいつも静かだ。玄関の扉をあけると、シンクから泥の匂いがする。

いい匂いする、って言われたこと思い出す。下腹部が痛む。お互い隣に座ったまま、彼はこちら側へ抱

もっとみる