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醒めない遊び

 口に出すと、漏れ出していくものがある。騙すとか蝶とかそういう類のものではなくて、まっすぐな光の柱のような場面でしゃがみ込んでしまうようなそういう類の、ものがある。

 たしかな手がかりとして、ひとは朝を指すけれど、ほんとうがどこにあるのかはきっと、まだ誰も知らない。水の深さに、空の苦さに、まだ触れていない。からだの隅にいくらか積もった黒ずみの、うっかり撫でてしまえば指先にうつるやわらかな絶望達。街をさらうひかり。ひとまず暮れてゆく黒髪。茹ったまま冷めない遊び。いつから大人になるんだっけ。アイスクリームの溶けるまで。それからはひとりぼっちで鳥をみていた。鳥が横に跳ねるのを見ていた。やさしい色をしていた。

 口から出た音の並びで何がわかるというのだろう。伝えたいという意思が伝わって、それでスムーズに進む事柄だけで生きていくなんてそんなことが人生でしょうか。

 洗濯ばさみをいくつか無くした。毎日が頭から抜けていく。ずっとまどろんで逃げていく。からだからこころをまもる。転がってゆく。のたくっていく。シャボン玉が弾けてしまうまで。わたしがわたしの誕生日にわらうのは、誰かのためでしょうか。

 目を閉じて、音楽を聞けば、匂い立つ瑞々しい憂いと、くだってゆく心音。

 ゆるされることだけの湖を舟でゆきたい。
 



23.1018



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