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魚の瞼を感じる日には

こんな苦しい日はどうしてたんだっけ、時間もお金ももうわからなくなってて、夜が冷たく刺してきて、それに急かされるみたいにかえる、かえる道でスタバが煌々と在って吸い込まれて最後尾につく、喉に落ち着いたチャイの温もりと、赤くなる頬、それから中也の詩集をひらけば慌てて飛び出る涙の厚みのある感じ、踏んでいた絨毯が大きな犬の毛足のようで思わず蹲りたくなる、冬の夜のことがまっすぐ愛されていてその文字を追ったあと船でゆられるようになってかくんと沈む、それは静かと対比になるような感情玉を内包している、からだの力がてんでばらばらに入っている、それからはっとして周りを見ればなんと鮮明な人々、人々の近くにいるのにすこぶる遠い感じ、記憶の中にいるみたいで自分一人だけ鮮明になる、ようで人が鮮明になる、からわたしは立ちあがって鞄をもってスタバを出て、帰り道にかえる、ゴミを運ぶファミリーマートの店員が寒そうにしていて、寒いが散らかっているのを感じる、嘘みたいに苦しい、魚の瞼を感じる、そしてまだ家につかない、ほんとうは家なんてないのかもしれない、信号は青になったり赤になったり繰り返すだけで、蜂蜜色のきれいなひかりを示してはくれない、だからせめてただいまをする、轢かれ続ける夜の、はずみで。

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