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2019年1月の記事一覧

蒼井ブルー(2016)『君を読む』河出書房新社



例えば誰かを想って切なくなる気持ちとか、誰かと一緒にいて幸せだなと思う気持ちとか、そういう心の働きっていったい何のためにあるのだろうかって考えてみようとはならなくてもいいと思う。

もしかするととても無機質な答えに辿り着いてしまうかもしれないから、時には考えるのをやめて、ただ、心のままに行動してみるのもいいのかもしれない。白いまばゆいその気持ちを掌で包み込むようにして。

町田そのこ(2017)『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』新潮社



これもそう。生まれてふいにもたらされた、どうしようもないほどの困難に、綺麗な夜空を見たり美味しいおかずを食べたりして、向き合い乗り越えていく物語。そして、振り返ると忘れられない記憶に。

今を生きる僕たちが一つ気をつけておくことは、生きている今がいつかの未来の日に振り返る記憶になっているのだということ。今は決してやり過ごせたりはしなくて、むしろ繰り返し繰り返しよみがえる。明日の記憶として。

西加奈子(2011)『うつくしい人』幻冬舎文庫



再生の物語。関与というよりは不関与によって人がひとり元気になるお話。どこかに希望を求めている社会の空気を取り込んで吐き出したような内容で、要求を受け入れてくれる母性を感じさせる作品。

小説って登場人物の絵がないからこそ読まれつづけるところがあるよなと思ったのと、関与が下手なのに好きな自分にはとても胸に刺さる、頭のいたい物語。ああ、離島のホテルにでも行きたいな。

岸見一郎・古賀史健(2013)『嫌われる勇気:自己啓発の源流「アドラー」の教え』ダイヤモンド社



うーん、各人の具体的状況に沿えるわけではないので、記述がどうしても中途半端になってしまうのだろうか。内容をまとめると、「意志の力で支配する」ということ。

ある思想があったとして、それを抱くことは実は珍しいことではなくて、でも、いつなのか、だれなのか、さらには文章の形で記し出せたかによって、その社会的価値が大きく変わるというのがもどかしい。

一木けい(2018)『1ミリの後悔もない、はずがない』新潮社



いくら大人になっても、現実と折り合いをつけられるようになっても、いつまでもきっと、若き日に自らの白いキャンバスに刻み込まれたようなペンの筆跡は消えることがない。あの頃の経験は、いつまでも私を虜にする。

貧しい家庭、過酷な環境、出会った男、恩人、むき出しの敵意、右も左もわからないでただ目の前にあるそれらを見ていた。そうやって私、育ってきたんだ。過去のすべてが、今の私を規定している。

竹宮ゆゆこ(2018)『あなたはここで、息ができるの?』新潮社



表紙がいい、タイトルがいい。まずそれ。圧倒的な光をその向こうに感じる。そして内容は、ちっぽけな人間のよくある悩みについて、まるで世界が壊れゆくかのようなタッチで描く。

今この時に誰かの世界のすべてのような人生を揺るがす出来事が起きたとして、きっと隣にいる僕らには穏やかに時がまた紡がれていくだけ。日常は絶対多数の支持を得て、永遠に続く。頑張れってこと。