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教養・ノンフィクション

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#書評

『規則より思いやりが大事な場所で』 カルロ・ロヴェッリ

『規則より思いやりが大事な場所で』 カルロ・ロヴェッリ

本書は、『時間は存在しない』や『世界は「関係」でできている』などの著者である物理学者のカルロ・ロヴェッリが、2010年から2020年にかけてイタリア、イギリス、スイスのメディアに発表したエッセイを一冊にまとめたものである。
著者による「はじめに」と題される一文に、本書の内容及び本書が伝えんとする事が分かりやすく述べられているので、ほぼ丸写しとなるがここに引用したい。

科学、文学、宗教、詩といった

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『家を失う人々』 マシュー・デスモンド

『家を失う人々』 マシュー・デスモンド

本書は、社会学教授マシュー・デスモンドが、米ウィスコンシン州最大の都市ミルウォーキーの、貧困層の住むトレーラーパークと黒人住人の多く住むスラムに、合わせて一年余り住んで行ったフィールドワークを記録したものである。
登場するのは全て実際に著者が現場に住みながら知り合った人々であり、書かれている出来事や会話は、実際に著者が目の前で見て、聞いたことだという。
膨大な取材をまとめ上げた本書が見せる現代アメ

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『サンダカン八番娼館』 山崎朋子

『サンダカン八番娼館』 山崎朋子

1972年初版の本書は、70代80代の老女となった元からゆきさん達の生の声を取材したドキュメンタリー作品である。

貧困ゆえに苦しく耐えがたい人生を送った女性達の声なき声を聞くことが、女性史研究者としての仕事であるという著者の強い想いが、プロローグで語られる。
貧困地から南洋に送られて行った彼女達に、階級と性という二重の虐げが集中して表されている、つまり、日本における女性の苦しみの原点がある、と著

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『ロシア語だけの青春』 黒田龍之助

『ロシア語だけの青春』 黒田龍之助

代々木駅東口。駅を出て道を渡った先には、雑居ビルが立ち並ぶ。その店舗と店舗の間に、狭くて古い階段が。

道案内で始まるプロローグを読みながら、自然とその歩幅に呼吸が合っていく。
狭い階段を上って行き着くのは、小さな語学専門学校。著者が高校時代から通い、後に講師も務めていたミール・ロシア語研究所だ。
本書はこのロシア語学校の物語、そして著者の「ロシア語のことしか考えていなかった青春の日々」が、瑞々し

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『統合失調症の一族』 ロバート・コルカー

『統合失調症の一族』 ロバート・コルカー

この本をはじめて見たのはどこかの洋書サイトでだったか。目が引き寄せられたのはその表紙、豪華な螺旋階段にずらりと並ぶ正装した大家族の写真である。
題名は"HIDDEN VALLEY ROAD Inside the Mind of an American Family”。
なにやらアメリカの個性的な家族の話らしいこの本には、素通りできないものを感じた。
ただ値が張るのでちょっと検討、とアマゾンのカート

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『牧師、閉鎖病棟に入る。』 沼田和也

『牧師、閉鎖病棟に入る。』 沼田和也

本書は、牧師の沼田和也氏が、3ヶ月の精神病棟への入院を通して見知ったこと、学んだことを綴ったエッセイ/ノンフィクションである。

幼稚園の理事長兼園長としての仕事に忙殺されストレスが爆発してしまった氏は、妻のすすめに従って精神科の病院に入院する。

自分自身が入院患者となったことで、今までの自分が牧師としての役割とはいえ、その溝を自覚せずに「わたしたちは一つになって祈っている」と思い込んでいたこと

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『時間の終わりまで』 ブライアン・グリーン

『時間の終わりまで』 ブライアン・グリーン

「我思う、故に我在り」とは言うが、そんな我とは何ぞや?
太陽の周りを周る地球の上に存在する人間という生命体、分子の集合体である有機物が、思う、その思いとは何から作れどこに存在するのか。
そんな、考えてみたら不思議なことについて、改めてじっくり考えるための、こっくりと濃密な手引き書がここにある。

壮大なテーマを扱う本書は、次のような筋立てで書かれている。

・エントロピーの法則
・宇宙の誕生と生命

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『生命知能と人工知能 AI時代の脳の使い方・育て方』 高橋宏知

『生命知能と人工知能 AI時代の脳の使い方・育て方』 高橋宏知

デジタル・ネイティブ世代が苦手とする三つのことがあるという。
その三つとは、

・考えること、質問すること
・想定外
・電話

考えることが苦手というのは少し失礼な言い方に感じるが、質問、想定外、電話あたりは、なんとなくそうかもしれないなと想像できる。
面白いのはその続きで、著者は、これら三つが苦手というのは、人工知能(AI)の特徴と同じだと言う。確かに。
スマホやインターネット検索と共に育ったデ

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『宇宙の終わりに何が起こるのか』 ケイティ・マック

『宇宙の終わりに何が起こるのか』 ケイティ・マック

物理学、宇宙学が好きな一般人のための、素晴らしい娯楽書だ。

宇宙は将来いかにして終焉するか。
現在研究者たちによって可能性として提唱されている、宇宙の消滅のいくつかのパターンを解説する。
例えば、宇宙が膨張から収縮に転じて、ビッグバン前の超高密度となって消滅するというビッグクランチ、またその逆で、宇宙が永遠に膨張を続け、やがて完全なる無の世界になる、宇宙の熱的死と呼ばれるもの、など。

わざわざ

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『暇と退屈の倫理学』 國分功一郎

『暇と退屈の倫理学』 國分功一郎

現代人の社会は豊かである。豊かな社会では人々は好きなことをする余裕=暇がある。
しかし、いざすべき「好きなこと」がわからず、人は文化産業によって用意、提供された楽しみを買って享受する。
つまり、「労働者の暇が搾取されている」。
なぜ搾取されるのかというと、人は暇の中で退屈し、そして、退屈することを恐れるからである。

なぜ人は暇の中で退屈するのか。
そもそも退屈とは一体何なのか。
暇の中でどう生き

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銀河の片隅で科学夜話

銀河の片隅で科学夜話

『銀河片隅で科学夜話』 全卓樹

各回10ページ弱ほどで、短時間で読み切るのにちょうど良いサイズ。

数学、物理学、天文、生物学など、科学の様々な分野の興味深い事柄を、筆者ならではの温かみとユーモアをもって日常的な景色に溶け込ませた、詩的な科学エッセイ集である。

セピアカラーの挿絵も美しく、筆者もおすすめしているように、夜寝る前のひとときや通勤電車の中で、一話ずつ読むのに最適の一冊だ。

この本

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アーミッシュの赦し

アーミッシュの赦し

『アーミッシュの赦し』

スティーブン・M. ノルト、デヴィッド・L. ウィーバー‐ザーカー、ドナルド・B. クレイビル

男がアーミッシュの学校を襲撃し、女子生徒数名の命を奪った銃乱射事件。
その事件の痛ましさと同時に世界を驚愕させたのが、犠牲者の家族を含むアーミッシュの人々が、即座に加害者を「赦し」たことだった。

アーミッシュの教えにおける赦しについて、そして赦しと和解とはどのような意味を持

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