#短編小説
掌編小説『水色スイマー』
ゴーグルを通してみる水底は肉眼で見るのと妙に遠近感が違う。
俺はクロールで五十メートルプールの中程まで息継ぎなしで泳ぐ。手足の先からピリピリと酸素が抜けていく。限界に達した時、水面から最小限の動作で息継ぎをする。一気に肺が膨らむ感覚がした。
五十メートルプールの端までたどり着くと、俺は勢いよくプールから上がった。吹きすさぶ風が、もう六月になるというのにどんどん体温を奪っていく。もちろん下半身
けさのこと #原稿用紙二枚分の感覚
大きな音で目を覚ますと、窓のカーテンが落ちていた。
舞子が窓際に立っている。聞くと、いつもよりちょっと強く開けただけなの、と。
どこかの部品が古くなっていたらしい。変色したプラスチックの破片がぱらぱらと床や布団に散乱している。金属の太い針金のようなものが二本、枕元に落ちていた。舞子はそれを拾い上げた。どこの部品?と聞くと、彼女は答えずにそれをテーブルの上に投げた。
時計は六時を少し回
Rainy night
雨が強くなってきた。
とっくの昔に潰れた店の軒先、小さな電球の頼りない光で照らされている安全地帯が雨に侵食され始める。薄汚れたコンクリートを反射する雨粒が、スニーカー──あいつが好きなマニキュアと同じ鈍い赤色──の先端を濡らす。足を引くと、地面に靴の形が残った。
大通りを挟んだ先にある、長い夜をどうにかして越そうとする者のために開かれているカフェの入り口では、チープなネオンサインが濡れるのも気
アスファルトの上の陽炎(ショートショート)
歩いても歩いても景色は変わらなかった。
右手に広がる青々とした田んぼ。前方に佇む山は霞んで見えた。
目の前のアスファルトは山に吸い込まれるように一直線に伸びていた。
ジ、ジジジーィ!
油蝉の鳴き声が尻すぼみに止んだ。
アスファルトには木の影が黒々と刻印されていた。
汗が左頬を伝わる。
左の眼下に白い砂のグラウンドが現れた。大学野球の練習場だ。
僕はカバンを置くと、捕手の人形のキーホルダーが躍った。
ルンナは夜明けまでに
ルンナは、昨夜トイレに入って内側の鍵を下ろした。
手探りで下腹部に起きた変化を確かめる。両脚の間に突如出現したドームのようなものが、圧力の高まりによって、徐々に大きくなる。押し出されるようにして飛び出したそのドームのようなものを、自らつかんで引きずり出す。ずるずると抜けたとき、手の力も抜ける。
水洗トイレのわずかな水溜まりから、今取り落としたものを慌てて拾い上げる。手のひらで丁寧に拭きな