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淡いピンクの引力

ふわぁり、はらりはらり、と優しい桜吹雪。

通勤途中、落ちゆく花びらの間を、自転車通学の女子高生が颯爽と通り過ぎた。

淡いピンクの桜吹雪と女子高生の背中が映画の1シーンみたいだ。

桜を愛でることは、毎年欠かせない行事の1つ。

お花見のシーンには、桜そのものと同じくらい、私の心を動かすものがある。

桜を見ている人たちの表情だ。

みんながみんな、とてもイイ顔をして桜を見上げている。

こうして文章にしている時でさえ、それらの表情を思い出し、心がほっこりする。

 
車椅子から桜を眺めているお年寄り。ゆるりとほころんだ顔には、たくさんの皺が刻まれている。その口元の皺に、胸がじんわりとする。

桜並木の下、ほどよい距離で寄り添い、ゆっくりと歩を進めている年配のご夫婦。桜を見上げている表情は、とても柔らかだ。

広い公園の桜の樹の下。レジャーシートに座って、小さな子供たちと一緒におむすびをほおばる若いご夫婦。キラキラしたまなざしの先には、淡いピンクの桜の花。

普段は街中で集うであろう大学生たちが、夜になると桜の樹の下に集まってくる。BBQをしながらワイワイしている姿に、自然と笑みがこぼれる。

 
桜のもとに集まってくる人たちは、桜を見た途端に和やかでゆったりとした表情になる。どの人も、日常生活では色んな悩みや思いを抱えているに違いない。それが、桜を見るだけで、表情のトーンが和らぐ。

 
淡いピンク色が、心の中のどんよりした灰色を別の場所に追いやってくれるのかもしれない。

普段はうつむき加減の人も、桜を見るために顔を上にあげる。顔を上向きにすることで、心が上向きになるのかもしれない。

淡いピンク色が醸し出す、ほんわりした空気が幸せの匂いを纏っていることを知っていて、その空気感に身を置きたくて集まるのかもしれない。

淡いピンクの引力が、たくさんのあったかい表情を引き出す。たくさんの穏やかな表情を目にした私は、尖った心がまあるくなって、ほっこりする。

 
今朝は、通勤途中のサラリーマンが、急ぐ足を止めて桜の樹に近づいた。顔をほころばせながら、色んな角度からピンクの桜を撮っていた。

 


こんな風景を朝から見ることができただけで、穏やかな1日が約束されたような気持ちになる。

 

淡いピンクの引力は、この春、あなたにどんな物語を運んできましたか。

大切な時間を使って最後まで読んでくれてありがとうございます。あなたの心に、ほんの少しでもなにかを残せたのであればいいな。 スキ、コメント、サポート、どれもとても励みになります。