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なぜ「映画史上1位」を『ジャンヌ・ディエルマン』は獲れたのか?

なぜ「映画史上1位」を『ジャンヌ・ディエルマン』は獲れたのか?

ランキングというのは、そのジャンルの実態を表す非常に興味深いサンプルです。内容の是非はさておき、現在だけでなく、そのジャンルの未来まで見えてくることがあります。

今回は、とある映画ランキングを取り上げて、なぜこのような順位になったのかを考察します。それによって、映画というジャンルのこれからについても書きます。

後で目次を出しますが、この稿はかなり前から書き足し続けていたもので、いつもの倍以上

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「未来人」が遺した油彩の曼陀羅 -ボスの絵画『快楽の園』を巡る随想

「未来人」が遺した油彩の曼陀羅 -ボスの絵画『快楽の園』を巡る随想

なぜこのような絵が現れてしまったのか、さっぱり分からないという絵が、絵画史の中にはいくつか存在します。

ヒエロニムス=ボスの『快楽の園』は、そうした絵の中でも、不可解さと驚異において、最高レベルの作品でしょう。あまりにもよく分からない絵なので、500年以上経った今でも、異彩を放ち続けています。


ヒエロニムス=ボスは、1450年頃生まれの、15世紀の画家。一応フランドル派と言われる、写実的な

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明るく澄んだ舞踊曲 -ブラームス交響曲第2番の美しさ

明るく澄んだ舞踊曲 -ブラームス交響曲第2番の美しさ

音楽は目に見えないものだけど、強烈な雰囲気と力をもっていて、まるで色がついているかのように情景を描き、感情を揺さぶるものでもあります。

そうした音楽の中で、「透明な音楽」とは何かと聞かれたら、私はその中の一つに、ブラームスの交響曲第2番を挙げると思います。それは同時に、幸福な音楽でもあります。透明で明るくて、同時に踊れるくらい軽やかな音楽であり、何度聞いても幸福感を与えてくれます。


ヨハ

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アイロニーは世界を広げる -名盤『セイル・アウェイ』の面白さ【エッセイ#55】

アイロニーは世界を広げる -名盤『セイル・アウェイ』の面白さ【エッセイ#55】

アイロニー、皮肉というものは、非常に使い方が難しいものです。ちくちくと悪意を込めつつ、裏の意図も、相手に読み取らせないといけない。そして、世の中冗談が分かる人ばかりではないので、誤解ならまだしも、怒りを招く場合だってある。現在なら尚更、扱いを間違うと大変なことになります。

しかし、それは決してなくなっていいものでもない。私たちに知性と、幅広い見方を与えてくれます。


シンガー・ソングライタ

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自分が童話になった男 -太宰治の不思議さ【エッセイ#53】

自分が童話になった男 -太宰治の不思議さ【エッセイ#53】

太宰治は、現在、日本の文学史上最も人気のある作家の一人ですが、改めて読むと、意外と複雑というか、捉えどころのない作家だと思っています。

太宰の作品の特徴は、一言で言うと、「どんな題材でも童話になってしまう」ことです。

ここで言う童話とは、子供向けの教訓話という意味ではありません(流石に子供に読ませるのを躊躇う内容でしょう)。リアルからほんのちょっと浮いた、自分を投影できる世界のフォーマット

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追憶と忘却の織物 -映画『瞳をとじて』、ビクトル=エリセの若さ【レビュー・批評#8】

追憶と忘却の織物 -映画『瞳をとじて』、ビクトル=エリセの若さ【レビュー・批評#8】

現在公開中の、スペインの映画監督、ビクトル=エリセの新作映画『瞳をとじて』を観てきました。Xの方にも少し書きましたが、素晴らしい傑作であり、驚きの作品でした。

ある映画の主演俳優が失踪したまま、映画が中止になります。それから年月が経ち、映画監督は、それ以降作品が撮れず、ほぼ小説家になっています。

そんなある日、失踪した俳優を探すテレビ番組に出るために、かつての映画監督はマドリードに行くことに。

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