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淡園 織葉
2024年10月1日 00:14
最近変わったことがあった。 五月の声が、耳から離れなくなったのだ。 僕の耳が僕のために動くのは寝ている間だけで、それ以外の時間はいつだって五月の声をリピート再生し続けるようになってしまった。 愛してる、愛してる、あいしてる、アイシテル……。 正直、気が狂いそうだった。もともと休みがちだった大学はとうとう休学を余儀なくされ、僕は日がな一日この拷問みたいな時間に耐えなければならなくなった。
2024年7月30日 05:25
どこか、遠くて近くて仄暗い場所に僕はいた。どうやらここでは、文字通りすべてが、文字になる前のすべてが、規則正しく生活していた。「例えば、あそこを見てみな」 ここに来て最初に出会った男。ふらふらと寄る辺なく立つ、湯気みたいな男が口を開く。彼が指差した方向に目を凝らすと、そこにはゆらぎがあった。本当に、ゆらぎという他ない、輪郭のぼやけた何かが中空を飛翔していた。泳ぐように、跳ねるように、全てから