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父は今、地上4階くらいにいる
わたしの家は2階建てだ。
その上にあるのは空。ときどき鳥、飛行機。
夢に父が出てきた。
「父さん、これから色々忘れちゃうから、教えてくれよ」
といつもの口調で言う。
「いいよ。あのね、お父さんはね、昔わたしのこと、まりすけって呼んでたんだよ」
すると父はいつもの笑った顔で言った。
「そんなの知ってるよ」と。
夢から覚めて、
「ああ、お父さんだった」と思った。
その夢を見たのは、父が亡くなって、
真夜中のハーブティー
夜
なかなか寝付けず
キッチンで
いつものように
用意をする
陶芸教室で作った
マグカップに
ハーブティーを入れて
蓋をする
蓋も自分で作ったものだ
するとしばらくして
小さな声が聞こえてくる
あなたの
今日
よかったこと
三つ言いましょうね
昼に食べたうどん
あれ、最高でしたね
夕焼けがものすごく綺麗でしたね
ベランダに出て大正解でした
久しぶりに友達から
メッセージもらいましたね
キラキラさんとスムージー
学生時代
バイト先で知り合ったキラキラさんは
小さなライブハウスで歌っている人だった
バイト中に
思い浮かんだ歌詞をメモしたり
無意識に鼻歌を歌っているような人だった
彼女の独特な詩の世界
上手いだけじゃない歌声は
ファンをどんどん増やし
テレビで使われた歌が大ブレイク
誰もが知っている存在になった
彼女のことが広まるにつれ
「百カラットのダイヤモンド歌姫」
などとキャッチフレーズがつき
リンゴがやるべきこと
リンゴは今日まで
もうこれ以上
出来ないというほど
働いた
ひとり、ふたりと
辞めていく職場で
その人たちの分まで働いた
それなのに
理不尽な圧をかけられ続け
ぞんざいに扱われた
リンゴは
内側から痛んでいた
もう
腐るほかなかった
贈答用のリンゴに
なれなくてもいい
あたたかいアップルパイにも
もう
なれなくていい
ただ
誰のためにもならずに
腐っていく
腐って最後には
真っ黒の固まり
しっかりさんとゆったりさん
私は靴下を十四足持っている
春夏用と秋冬用
それぞれ七足ずつ
その七足の中の
三足はしっかりさん
四足はゆったりさんだ
私は週三日
派遣で働いている
その三日に履くのは
しっかりさん
他の日は
ライフワークである
刺繍をしている
作品も最近ではまあまあ売れる
その四日(休日も含む)に履くの
はゆったりさん
けれど今週
混乱が生じた
派遣の仕事を
週四日に増やせないか
と言われたのだ
少し