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カタマリコの主張

午後三時
カタマリコが出てきた
 
ねー、見て!
今日髪のアレンジ上手くいったの
 
カタマリコは
私の肩や首や腰から出てくる
バービー人形のような
小さな小さな女の子だ
そしていつもアピールする
 
今忙しいから、あとで
そっけなく返すが
 
いいじゃん、ちょっとだけ
ほら、すごくない?
 
私はちらっと見て
うん、すごいね
かわいいー
と返す
 
ねー、もうお茶ないんじゃない?
あったかいの入れに行こうよう
 
もうちょっとしたらね
 
ふうん
せっかくリラックス系のお茶買ったのに
なかなか飲めないね
 
だって午後一はコーヒーの方がいいし
 
コーヒー飲み過ぎじゃない?
 
そんなことないよ
ちょっと静かにしててくれる?
 
そんなやり取りをすると
しばらくあたりをぶらぶらしてから
カタマリコは元のところへ戻っていく
ガチガチの肩とか
痛みの取れない腰とかに
 
そうして私は
お腹が空いたのを通り越した頃
やっと家に帰る
 
ある日職場の先輩に
ね、最近ちょっとがんばりすぎじゃない?
と声をかけられた
 
いえ、そんなこと、ないです
 
だってカタマリコ
しょっちゅう話かけてるよ
 
すみません、うるさいですよね
今度注意しますね
 
そうじゃなくって
あの子が出てくるのって
なんでか分かってる?
 
え、構って欲しいからですよね
 
知らせてるんだよね
 
え?
 
そろそろ限界だよ〜ってね
それ、放っておくと
結構大変なことになるから
私みたいに
 
先輩は何年か前に
体調を崩して長いことお休みしていた
確かにその前
彼女のそばにはずっとカタマリコがいた
 
復帰してからの彼女は
随分変わった
出来ないことは
出来ないと言うようになったし
お弁当作って来きて
定時に帰るようになった
 
そうですね
気をつけます
ありがとうございます
 
私はデスクの引き出しに入れてあった
お茶を入れに給湯室へ向かった
 
お湯を注いで
肩をさすった
ガチガチの肩を
ぐるっとまわしてみる
 
給湯室の小さな窓から
冷たい風が控えめに
ぴゅ〜と入ってきた
窓から外を覗き込むと
ビルの隙間にくもり空が見えた
 
このビルに
一日の半分くらいいるのに
この窓から空を見るのは
初めてだった



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