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キラキラさんとスムージー

学生時代
バイト先で知り合ったキラキラさんは
小さなライブハウスで歌っている人だった
バイト中に
思い浮かんだ歌詞をメモしたり
無意識に鼻歌を歌っているような人だった
 
彼女の独特な詩の世界
上手いだけじゃない歌声は
ファンをどんどん増やし
テレビで使われた歌が大ブレイク
誰もが知っている存在になった
 
彼女のことが広まるにつれ
「百カラットのダイヤモンド歌姫」
などとキャッチフレーズがつき
それと同時に
「見た目がダイヤモンドには程遠い」
「絶対にせもの!」
という批判的なものも広まった
それでも彼女は順調に活躍の場を広げて
今でも歌い続けている
 
私は美大を卒業してこの十年
好きだった絵を描くことは出来なくなっていた
小さな個展はやっていたものの
絵の仕事はほとんどなく
私の絵は世の中に必要とされていないと思った
絵を描くのがつらくなって
でもあきらめることも
まだ出来ていない気がする
 
ある日
昔バイトをしていた街にある
個性的な本屋さんで
ばったりキラキラさんと再会した
 
彼女は
昔かぶっていたものと同じ帽子をかぶっていて
抑揚のない言い方で
マキちゃんだ、すごい久しぶり
と言った
 
お茶でもする?と言われて
近くにあったスムージーのお店に入る
そのお店はスムージーだけでも
百を超えるメニューがあって
そこまで選択肢があると
なかなか決められないものだった
 
キラキラさんは
だめだ、全然わかんない
マキちゃんと同じのにするよ
と言った
私は店員さんにお勧めを聞き
それを二つ頼んだ
 
キラキラさん、ご活躍だね
順風満帆っていうのかな
すごいよね
と言うと
 
うん〜、そうなのかな
なんか自分では
そんな風に全く思えないっていうか
 
そうなの?
 
なんだろうな
苦しいことのほうが多いと思うよ
孤独なのはしょうがないけど
好きなことやってるし
そんな幸せなことないでしょって
周りには思われているかもしれないけど
好き!楽しい!
ばっかりじゃ全然ないしね
苦しくても
偽物だって言われても
じゃあ止めるのか?って言われたら
そうじゃないんだけどね
 
そうか、そうなんだね
 
スムージーが運ばれてきて
一口飲むと
なんだかとても微妙な味で
二人で同時に笑ってしまった
 
マキちゃん、絵描いてる?
 
あ、絵は、今は描いてないんだよね
 
そうなんだ、そっか
マキちゃんの絵、私好きだったんだよね
バイト中に描いてたマキちゃんの絵
まだ部屋に貼ってあるよ
 
外のテラスには行き交う人のお喋りと
心地よい風が通り過ぎていた
 
道がさ
 
え?
 
選ぶ道がひとつだけっていうのも
良いようで
歩いて行くとなかなかきついこともあってさ
たくさん道がありすぎると
どこに進んでいいのか
分かんなくて悩むもんなんだね
さっきのスムージーみたいにさ
 
ああ、これね
でも、これキラキラさん選んでないじゃん
 
まあね
とキラキラさんは笑って
微妙な味のスムージーをごくりと飲んだ
 
昔、よくバイトを代わってくれたからと言って
キラキラさんはスムージーをおごってくれた
 
じゃ、またどこかで
 
うん、またどこかでね
 
と言い合って
夕暮れの人混みに
それぞれ、歩き出した



⚫︎おしゃべり石鹸

⚫︎カタマリコの主張

⚫︎しっかりさんとゆったりさん

⚫︎リンゴがやるべきこと

⚫︎カモさんのちから

⚫︎キラキラさんとスムージー

⚫︎光るごまと読書

⚫︎真夜中のハーブティー



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