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北海道のことば

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北海道弁や、日常のことばについて
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#方言

【エッセイ】ける

【エッセイ】ける

 近所のおじさんが運転する白いセダンで出かけた。助手席に私、後ろに姉と叔母さん。
 数日前に多めに降った雪が残っている。アスファルト以外の地面はほとんど分厚い雪の下だ。天気が良くて、道路の雪はきれいに溶けていた。気温は低い。
 廃屋が雪の重みに耐えかねてつぶけている。珍しくもない風景だけど、なんとも言えない気持ちになる。

 ちょっと感傷に浸りそうになり、あわてて思考を少し巻き戻す。
 あれ、つぶ

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【エッセイ】失言

【エッセイ】失言

 失言というか、やっちまったというか。

 とにかくすっかり忘れていた。
 5分前になって、人と会う約束を思い出した。
 わたしは勢いよく席から立ち上がり
「忘れてたでや!」
 となかなかに大きな声で言ってしまった。
 視線を感じてふと我に返る。
 職場のおじさんたちが苦笑いしながらこちらを見ていた。
 やっちまった。つい、出ちまった。
 念入りにかぶったネコ(あるいはウサギ)の着ぐるみがずるりと

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【エッセイ】いずい

【エッセイ】いずい

 職場の偉いひとたちが打ち合わせをしている。腕を組んで、まじめな話をしている。
「そうすると、こうなる。それじゃあいずいべよ」
「うーん。いずいですね」
「したら、こっちのほうが良いんでないか。予算も足ささるし」
 彼らはまじめな話をしているのに、はたで聞いている私は下を向いてニヤニヤしてしまう。マスクをしていて良かった。
 方言丸出しの打ち合わせは間もなく終わった。私は結論を聞き逃した。方言が気

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【エッセイ】へくさい

【エッセイ】へくさい

 この言葉の正体を私は知らない。
 職場のおじさんたちが使っていて自然に使い方を覚えたので、自分の使い方が正しいかどうかもわからない。

姉「リップ貸して」
私「へくさいのしかないけどいい?」
秋「え、なに? 嫌なんだけど」姉は不審そうに残り少なくなったリップのにおいを嗅ぐ。

 例えば、使い込んでちびた消しゴムとか、ちょっとショボい感じのものとかを「へくさい」と言うらしい。漢字にすると多分「屁く

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【エッセイ】どら、

【エッセイ】どら、

「どら、貸してみれ」
 なんて言うおじさん連中も、このごろは少なくなった。
 このままでも意味は通じると思うけど、標準語だと「どれ、貸してみな」ってところかな。

「けさ、ヤッと出かけるべと思ったっけ、ガラスしばれっちゃって車出せないもんだもん」
「あれだもの」

 夕暮れどき、近所のうちの洗濯物が外に干ささっていて心配になる。雪も降りだしそうだ。
 きっと忙しくて、取り込むのを忘れてるんだろう。

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【エッセイ】ぼっこの「こ」

【エッセイ】ぼっこの「こ」

 子どものころ、姉と外で遊ぶときにはたいてい「ぼっこ」を持ってあるいた。自分の背丈ほどのヨモギの茎を根元から折り、枝葉を取り除けば、長いぼっこの出来上がりである。
 ぼっこは時に剣となり、魔法の杖となり、水辺をつつく道具となった。

 学生になって方言の域を出て生活したとき、ぼっこが何か伝わらず、他にどう言い表して良いかわからずにしばらく考え、やっとわかった。
 ぼっこの標準語は棒で、ぼっこを漢字

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【エッセイ】北海道弁

【エッセイ】北海道弁

 ねこばちょしてたっけ、かっちゃかれたさ

 とか、

 あったら山の中だら、熊いたっておかしくないべ

 というのが北海道弁であるという自覚はある。ふだんから使っている言葉だ。
 しかし、北海道弁でしゃべってみて、などと言われると、とっさには出てこないものである。
 北海道弁といっても地方によって方言があったりするし、もしかしたら我が家だけで使っている言葉や言い回しもあるかもしれない。
 年配の

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