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木崎喜代子の場合 Ⅺ【心療内科の魅力を伝えるために、心療内科の医師・臨床心理士・関係者が、心療内科を舞台に小説を書いてみた。⑪】
#11 (9回目)
正太郎にメモを送るようになって、2ヶ月。梅雨も明け、季節は夏になろうしていた。相変わらずメモは喜代子からの一方通行だが、以前ほど焦る気持ちはない。物事は、そう簡単には動かない。この1年半で少し喜代子の腹も据わってきていた。
明後日は病院へ行く日だ。三野原に何を話そうか考えながら、洗濯物を畳む喜代子の指先に、何か固いものが触れた。驚いて確かめると、それは薬の空きシートだった
【終末期だけの医療では】 「緩和ケア」ってナニかしら? 【ありません】
「ナニかしら」シリーズ、第3弾。
もっと早くにこれを書くべきだったのかもしれないと思った、本日。今日より早い日はないので、一気呵成に書き上げる所存。
※ちなみにこれを書いているあもうの経歴は、
初期研修→心療内科後期研修→緩和ケア病棟にて緩和ケア科医師として研修→心療内科専門医(緩和ケアチーム所属、日本サイコオンコロジー(精神腫瘍学/がん患者さんのこころのケア)学会登録精神腫瘍医)になります
木崎喜代子の場合 Ⅹ【心療内科の魅力を伝えるために、心療内科の医師・臨床心理士・関係者が、心療内科を舞台に小説を書いてみた。⑩】
#10 (8回目)
『もし出られない理由が、息子さんにもわからないのだとしたら、木崎さんはどんな言葉をかけますか?』
まるで謎かけのような宿題を前に、喜代子は戸惑うしかなかった。
閉じこもる以上は、何か理由があると思っていた。今でも頭痛がするのか、めまいがするのか、それとも仕事に行くのがつらかったのか。そうでなければ、いつまでも部屋に留まったりするだろうか。「甘えている」と夫は断じたが、
「この痛みが治らないのなら、それは」(後編)
「検査は受けたくありません」
CTでの異常陰影を告げた私に、Aさんはきっぱり言い切った。
「もう今まで痛みに十分悩まされてきた」
「これが原因で死ねるなら本望。手術したり、治療をしようとは思えない」
1年近く外来で向かい合ってきた私として、この反応は予想の範囲内ではあった。
「その気持ちはわかります。どんな治療方針を選ぶかは、Aさんの権利です。積極的に治療しないにしても、この腫瘍が良い