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口裂け女さんに、心療内科医は何を伝えればよかったか。

 どうも、「何がバズるのかまったく読めない心療内科医」あもうです。
 何げない夢が、多少衆目を集めたようなので、少し掘り下げてみます。

 この夢では、バーカウンターに口裂け女さんと私が一緒にいて、その際「私、綺麗?」と尋ねられました。特に診察室でもありませんし、「心療内科医」というよりも「あもう自身」として上記のごとく返答した次第です。

 けれど、ポストの後半に示す通り、心療内科医としてこの応答は今ひとつです。(ほぼ間違いなく上級医から、「そりゃ、○○○〇だろ」と突っ込みが入る)

 では、「心療内科医」であったなら、どうアプローチしたでしょうか。

 まず、考えるべきは「何故、口裂け女さんは『私、綺麗?』と私(心療内科医)に尋ねたのだろうか」ということです。
 その解のひとつとして、ポストにあげたように「他者評価を気にした」可能性もあります。
 しかし、これ以外にも、

・マスクを外した際の容姿を中傷された過去があり、実際に医学的な意見が聞きたかった

・マスクを外した際の容姿に自信があり、綺麗だろうとドヤるためにあえて尋ねた

・マスクを外した際の容姿の恐ろしさに自信があり、恐ろしいだろうとドヤるためにあえてギャップをもたせた「綺麗?」という点について尋ねた

 などなど、多彩な理由が考えられます。
(都市伝説の口裂け女さんは、三番目の方が多いようです)
 なので、相手の質問の意図を踏まえて返答することが求められます。
 その点、夢の中の私はあまり多くを聞かず、

「あ、なんか傷ついたからこんな質問してるんだろうな」

 と決め込んだので、これについては私(あもう)の先入観が入りすぎた回答です。友だちであれば有効ですが、治療的には今ひとつになります。

 ここから少し怖い話をします。
 私たちは何気なく、質問に対して答えを返しています。これらには、大なり小なり、こちらの価値判断が混ざっています。つまり、質問に答えるというのは、自分の固定観念や先入観を露呈する行為であるということです。
 心療内科医の修行というか苦行 研修のひとつとして、患者さんの許可を得て面接を記録して、後で上級医とフィードバックをするというものがあります。
 この研修では、自分の中の価値観、先入観、偏見、差別意識、そういう「あんまり他人には知られたくねぇなぁ」と思ってることがべろーんと露呈します。

 例えばこの口裂け女さんとのやりとりであれば、
「『私、綺麗?』という質問に対して、『この人は容姿に対する他者評価に対して傷ついた』んだろうと、君はどうして判断したの?」
「女性の多数はそう考えるから? それともあもうの個人的な体験? それとも口裂け女さんの容姿であれば、『他人に傷つけられるだろうな』と思ったから? そう感じるのは客観的に公平な判断? それともあもうの口裂け女さんの容姿に対する偏見?」
 最低でもこれくらいのことを考える必要があります。
 この考察を面接の場面で質問・回答の都度繰り返し、自分の中の価値基準を洗い出します。患者さんを治療をするうえで、これは大切な軸になります。

 では、今回のタイトル、「口裂け女さんに、心療内科医は何を伝えればよかったか」の回答例をひとつ。

「それをお尋ねになることが、口裂け女さんにとってどういう意味を持つのか、もう少し教えてください」

 きっと彼女はマスクを外すんだろうけど、私、「あ、口や口唇の形状が標準から逸脱してるんだな」と思うだけで、真顔で彼女からの続きの言葉を待つだろうな。
 口裂け女さんを気まずくさせそうだから、やっぱり診察室じゃなくてバーで会おうか。


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