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「サイコオンコロジー」ってナニかしら?

 「ナニかしら」シリーズ、第2弾。
 どうも、「夏休みが終わっても、宿題をしていた派」心療内科医あもうです。
 課題の存在を登校日に知ったりしてたよね……そんな有り様でも頑張ったら医者になれたりするので、世の小学生は参考にしてください。

 今回は「サイコオンコロジー」について、お話ししようと思います。
(読者は、一般の方を想定しています。医療者の方は、またコメント欄で質問を受け付けます)

 遡ること約10年前。大学の同窓会が日本サイコオンコロジー学会の総会だったか研修会だったかと重なり、欠席の連絡をしたところ、
「あ、そのドマイナーな学会、○○ちゃんも出るって!」
 と、至極明るく返してきてくれた幹事のXくん、元気かな。○○ちゃんとはまた近々会う予定です。

 さて、これからご紹介するサイコオンコロジー、日本語では「精神腫瘍学」と訳します。

 サイコオンコロジー(Psycho-Oncology)は、「心」の研究をおこなう精神医学・心理学(Psychology)と、「がん」の研究をする腫瘍学(Oncology)を組み合わせた造語で、「精神腫瘍学」と訳され、1980年代に確立した新しい学問です。

日本サイコオンコロジー学会HP

 「がん患者さんにおける精神的・心理社会的課題に取り組み、がん患者さんとそのご家族のより良いQOLに貢献することを目的とした医療」を指します。平たく言えば、「がん患者さんと、そのご家族のこころのケア全般を手伝う医療」と考えていただければ良いです。
 私がサイコオンコロジーを知ったのは、医学生の頃。医療倫理の講義の一環としてその存在を教わりました。それから心療内科・心身医学を学び、緩和ケア医として研修を行いました。

 まず誤解が生じやすい点なのでしっかりお伝えしたいのは、
「緩和医療は、がんの治療が終了した時点からはじまる医療ではありません」、「がんと診断された、その日からはじまるのが、緩和医療です」
ということです。
 詳しくは、Dr.Tosh(四宮敏章)先生のYouTubeのリンクをご参照ください。

 サイコオンコロジーは、緩和ケアの一環として行われます。心療内科医として緩和医療に踏み込めば、自ずとその臨床・実践をおこなうサイコオンコロジストへの道が開かれていました。 

 サイコオンコロジストの役割は、以下の通りです。

1:疾病や治療に関する適切な情報を提供すること
2:決して孤立しないように情緒的に支えること
3:治療を続ける上で患者さんを悩ます不眠や不安、気分の落ち込みに対して、精神医学的な治療を含めたサポートを用意し、最善の治療を受けられるように医学的なサポートを提供すること

日本サイコオンコロジー学会HP

 現在の日本では、2人に1人ががんと診断される時代です。診断されたその日から、患者さんやそのご家族の精神的サポートに努め、孤立しないように援助したうえで、最善の治療を受けられるようにお手伝いするのが、サイコオンコロジストの役目になります。
 多くの場合、患者さんのがんを治療する主治医は別に存在します。がん治療の主治医と連携をとりながら、心療内科医/精神科医、看護師、心理士/師、ソーシャルワーカーなどがそれぞれの専門性を活かして患者さんとご家族を援助します。

 いくつか、例を挙げてみましょう。(すべて、架空ケースです)

① 78歳・女性 大腸がん
 下血をきっかけに、大腸がんと診断。今まで病院にかかったことがなく、手術や抗がん剤治療の説明を聞いて不安になり、不眠が出現。消化器外科主治医から連絡あり。
→ 心理士が介入し、面談。以後、医療中も定期的に面談を行うこととなった。外科より少量の睡眠薬が処方開始になり、安定された。

② 85歳・男性 肺癌
 肺癌に対して治療中、特に意識状態に異常はなかった。尿路感染症になり、発熱のため入院。入院後より、「ここは刑務所」「誰かが毒を盛る」と興奮状態になった。
→ 精神科医の診察により、せん妄と診断。環境調整、薬物調整を行い、尿路感染の治癒にともない、せん妄も改善を認めた。

③ 43歳・男性 胃がん
 会社健診にて異常を指摘され、胃がんと診断。まだ子どもが小学生であり、自分が仕事出来なくなると、家族の生活はどうなるのかと経済的な不安が大きい。
→ ソーシャルワーカーが介入。妻とともに面談し、治療の上で使える制度について説明。また、がん治療を行いながらの働き方についてもがん治療主治医、心療内科医とともに話し合った。

④ 50歳・女性 子宮がんの手術後
 市の健診にて初期の子宮がんを指摘され、婦人科にて手術。術後経過は順調で5年が経過するが、「また気づかないうちにがんになるのではないか」という再発への不安が持続。
→ 心療内科外来にて継続してフォロー。必要時は検査を行い、心身共に不安をサポートする方針とした。

 上記4ケースは患者さんに介入した例です。
 「がんだと診断されたこと、治療に対する不安」や、「がんの治療経過で出現したせん妄」などはイメージがつきやすいかと思いますが、「家族が経済的に困窮しないかの不安」「再発に対する不安」なども対象になります。

 続いて、ご家族に介入したケースです。

⑤ 40歳・女性 がん患者の家族
 夫ががんにて加療中。小学生の子がおり、今は「お父さんは病気の治療中」であるとは話しているが、詳しい話はしていない。これ以上の抗がん剤治療は難しく、今後緩和ケアを主体とした医療に移行する。夫に残された時間と、子どものことを思うとどうするのが最善かわからず、夫や子供の前では気丈にふるまっているが、ひとりになると涙が止まらない。
→ 看護師、心理士が介入。妻の不安を傾聴するとともに、子どもにとって夫の病気をどう説明するのがよいか、多職種チームで検討。子どもに病状を説明し、「パパと出来るだけ一緒にいたい」との希望あり。患者、妻もそれを支えたいと願い、在宅緩和ケアへ移行した。

⑥ 54歳・男性 がん患者の遺族
 半年前、2年間の加療の後、母ががんで死去。死去直後は忙しく、悲しむ暇もなかったが、徐々に「どうして健康に注意するように言わなかったのか」「もっと母のために出来たことがあったんじゃないのか」ということが繰り返し思い返されるようになり、食事がとれなくなった。母の病院で「遺族外来」の案内を受けていたため、グリーフケア(死別の悲嘆ケア)を目的に受診。
→ 遺族外来担当医が、定期的にサポートする方針となった。

 このように、がん治療中の患者家族、患者さんが亡くなられた後のご遺族に対してもケアを行っています。
 こうしたケアを通し、私たちは日々皆様の援助を続けています。

「サイコオンコロジストの診察を受けるには、どうすればいいの?」
と思われた方、こちら↓から日本サイコオンコロジー学会の登録医の名簿に飛びます。

https://jpos-society.org/psycho-oncologist/doctor/

 とはいえ、2023年8月28日現在、まだ日本で約150名という皆様のお役に立つには充分な人数がおりません。各病院の緩和ケア科でも同様のサポートを受けることも可能ですので、お問い合わせください。
 緩和医療は知られていても、ニーズはあるけれど広くは知られていないサイコオンコロジー(あもうがやってること、そんなのばっかり)ですが、一般の皆様も、一緒に学ぶ機会があります。

 2023年10月6日(金)、7日(土)に日本サイコオンコロジー学会が奈良県にて開催されます。普通の学会は、医療職ではない患者さんやご家族は参加できませんが、サイコオンコロジーの普及啓発を目的に、一般の方も聴講が可能です。(申し込みは2023年9月5日(火)まで、参加費は3000円と破格です。留意事項をご一読の上、ご応募ください)

 今回の大会長は、上でご紹介しましたDr.Tosh(四宮敏章)先生です。盛りだくさんのプログラムで、皆様をお待ちしています。
(あもうも、どこかしら、何かしらの形でいると思います)
 もちろん、医療者の皆様の参加も熱烈にお待ちしております。

 そして、本日8月28日(月)21時より、内科医たけお先生の心身健康TVにて、大会の見どころと、サイコオンコロジーのお話がライブで企画されています。こちらも是非。

 「今回のnoteは宣伝か?」
 うん、あもうには一銭も入らないけど、皆様にサイコオンコロジーを知ってもらう、普及啓発のために子どもの宿題みながら記事を書きました。

 10月、奈良でお待ちしております。
 
トップの写真は奈良金魚ミュージアムで撮影。会場すぐ側です。
(※医療職の方は、またご質問があればコメントをお待ちしております)

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