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【終末期だけの医療では】 「緩和ケア」ってナニかしら? 【ありません】

 「ナニかしら」シリーズ、第3弾。
 もっと早くにこれを書くべきだったのかもしれないと思った、本日。今日より早い日はないので、一気呵成に書き上げる所存。
※ちなみにこれを書いているあもうの経歴は、
 初期研修→心療内科後期研修→緩和ケア病棟にて緩和ケア科医師として研修→心療内科専門医(緩和ケアチーム所属、日本サイコオンコロジー(精神腫瘍学/がん患者さんのこころのケア)学会登録精神腫瘍医)になります。

 本日まず知っていただきたいのは、
「緩和ケア/医療は、『がんと診断されたその日から、患者さんの身体的、心理的、社会的、スピリチュアルな苦痛を軽減させるための医療』を指します」
「決して、終末期にのみ行われるケア/医療ではありません

 正直、これだけ理解していただければ、あとは読み飛ばして、最後のとてもお得な告知だけ見てもらえたら嬉しいかな、と思っております。

 まず、緩和ケアと聞いて患者さんやご家族(そして、アップデートされていない医療職)にまず勘違いされるのが、

「もう打つ手がなくなったから、緩和ケアなんでしょう?」

 という点ですが、これはまったくの誤解です。
 患者さんやご家族に、「『緩和ケア』について、知っていることを教えてください」とお尋ねすると、概ね下記の回答をいただきます。

 上2項目は、正解です。
 緩和ケアは、痛みをとることを目的のひとつとします。そのうえで、安全に使用できる医療用麻薬(以下、オピオイドと呼びます)を用いることもあります。
 しかし、下の2項目は事実とは異なります。
 
緩和医療は、一般の病院で外来診療の中でも受けられますし、先ほど申し上げたように「がんと診断された、その日」から緩和ケアは開始可能です。
 では、何故そのような誤解が生まれたのでしょう?
 
 私が医者になる以前、「緩和ケア」の位置づけは下の図のように考えられていました。

 その昔、がんは診断されても告知されないこともありました。なので、何となく「大きな腫瘍」とぼかしながら治療を進め、いよいよがんに対する治療が難しいとなると、「痛みをとりましょう」と緩和医療が始まりました。
 しかし、この医療モデルでは患者さんの「苦痛」になかなかアプローチがされず、結果的に患者さんがつらい時間が増えてしまいます。
 それに加え、「緩和医療」に対しても、「遂に死ぬ間際の医療が始まった!」「医者に見捨てられたから、緩和医療が始まったんだ!!」と、受け入れ難いイメージがついてしまいました。

 そこで2002年、世界保健機構(WHO)は以下のように緩和ケアを定義しました。

http://www.who.int/cancer/palliative/definition/en/

 
 ここでご注目いただきたいのは、2点。
 「患者さんだけでなく、その家族」もケアの対象になるということ。
 もう1点は「早期」から介入するということです。
 これを踏まえて、「包括的がん医療モデル」というものが導入されました。

 これが、先程から繰り返しお話している、『診断されたその日から緩和ケアが始まる』という図です。
 がんの治療がどの段階であっても、緩和ケアは患者さんのつらさを軽減するためにおこなわれます。
 では、もう少し具体的に緩和ケアを掘り下げます。

 緩和ケアは、具体的にどんなつらさを和らげるのでしょうか?
 下記に、がん患者さんが感じる『全人的苦痛(total pain)』を表した図をお示しします。

 がん患者さんは、痛みや呼吸苦といった身体面のつらさだけではなく、「がんと診断された不安」「これからどうなってしまうのか」という精神的なつらさも抱えます。
 また、「治療費をどうしよう」「家族はどうすればいい?」といった社会的な悩み、「何故自分ががんになったのか」「生きている意味はあるのか」というスピリチュアルな苦痛もともないます。
 患者さんの抱えるこうしたつらさを、医師だけではなく、看護師、薬剤師、心理師、リハビリ(理学療法士など)、ソーシャルワーカー、臨床宗教師などがチームになってケアするのが『緩和医療/ケア』です。

 もちろん、「患者さんのつらさはが和らぐ」というのは良いことですが、実際に緩和ケアを受けることで患者さんや、そのご家族の生活の質(quality of life:以下QOLと略)は向上するのでしょうか?
 実際の研究結果をみていただきましょう。

 2010年に発表された、有名な論文のひとつです。転移性非小細胞肺癌の患者さんで、「標準治療のみ」を行った方と「標準的治療+早期緩和ケア」を行った方のQOLと気分を評価しました。

【結果 その1】早期に緩和ケアをした方の方が、QOLが良く、気持ちの落ち込みも少なかった

 「そりゃ、つらさを和らげてもらった方が、調子が良くなるだろうな」とイメージ出来やすいと思います。
 驚くべきは、結果その2です。

【結果 その2】早期に緩和ケアをした方の方が、
生存期間の中央値が長かった

 これは、早期に緩和ケアを受ける=つらさを早く和らげる方が、生存期間が長かったということを意味します。
 つまり、患者さんや家族の主観的なつらさの軽減だけではなく、生存期間がのびるという客観的なメリットもあることが示されました。

 また、このコラムではがん患者さんを中心に書きましたが、緩和医療はがん患者さんだけに向けられたものではありません。
 慢性心不全、慢性腎不全、慢性呼吸不全、神経難病といった、長期的な加療を受ける患者さんも対象になります。(※詳しくはまた別noteを作成予定です)

 長くなりましたが、こうした緩和ケア/医療を普及すべく、医療職は大規模な学会を開き、最先端の研究や知見を共有して深めています。
 2024年は6月14日(金)、15日(土)に神戸で開催されます。

 今回は、日本緩和医療学会は、日本サイコオンコロジー学会と合同開催です。
 ※サイコオンコロジーとは、がん患者さんのこころのケアを指します。詳しくは下記noteをご参照ください。(こちらは2023年の記事です。ご注意ください)

 医療職の皆様は、是非ご参集ください。
 参加の二次登録は5月7日(火)10:00~6月5日(水)17:00です。

「がん患者や、その家族なんだけど、学会で勉強できないの?」

 今回の学会では、患者さんやそのご家族の方も参加が可能です。いくつか条件がありますので、下記HPをご参照の上、ご参加ください。

 また、6月15日には市民公開講座もあります。【参加無料です】


 今回の学会、実は時間の方が足りないくらい、盛り沢山のプログラムになっております。
 是非、6月の神戸でお会いしましょう。

 そして何より、1人でも多くの患者さんやご家族のつらさが和らぎますように。
 私たち医療職もつとめて参ります。

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