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短編小説

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#小説

筆が走る。【短編小説#24】

筆が走る。【短編小説#24】

年末年始を十分に休んだ筆が、そろそろ走りたくなってきたと言った。いつ走り出すのだろうかと、丁度気になり始めた頃だったので、丁度よいタイミングだと思い、筆に紐をつけて走らせることにした。

大学ノートを広げて、その上を走らせようとしたのだが、筆が

「こんな狭いところじゃ嫌だ。もっと、自由に、もっと遠くまで走らせてくれ。」

と言うので、好きなところを自由に走らせることにした。

そしたら、何の遠慮

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2人の異教徒【短編小説#20】

2人の異教徒【短編小説#20】

罰論を唱える二人の異教徒がいた。
自身の信仰こそ、最高の教えであると各自が豪語しており、
それに反すると罰が当たるぞと、互いに脅し合っていた。

そんな異教徒二人が、一人の頑固おやじを取り合った。
互いに自身の信仰する教えに帰依させようと、強情に教えを説いていたが、頑として、おやじは承諾しなかった。

「馬鹿馬鹿しい。俺は自分自身を強く信じている。そんな教えは必要ない。」

しかし、しつこく二人の

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シン・鶴の恩返し【短編小説#19】

シン・鶴の恩返し【短編小説#19】

昔、昔あるところに貧しかったけど、徐々に裕福になりつつあるおじいさんとおばあさんが住んでいました。
ある寒い雪の日、おじいさんは罠にかかっている一羽の鶴を見つけました。

「おやまぁ、可愛そうに。さぁさぁ、はなしてあげる。これから気をつけるんだよ。」
手馴れた手つきで鶴を罠から逃がしてやると、鶴は山のほうに飛んでいきました。

家に帰ると、おじいさんはおばあさんに
「罠にかかった鶴を助けたよ。今日

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世界共通の国歌【短編小説#18】

世界共通の国歌【短編小説#18】

世界共通の国歌を決めるプロジェクトが始動した。
が、議論は想定通り荒れに荒れた。

中国は自分たちが1番人口が多いのだから中国語の曲にせよと訴えた。一方で、インドはいずれ人口トップになるのだから、当初からインド音楽にすべきだと訴えた。

また、世界で1番歌われている「Happy birthday to you」の曲にしようとアメリカが提案したが、信憑性がないとロシアが即座に却下した。

著作権やお

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流れ星の正論【短編小説#17】

流れ星の正論【短編小説#17】

全く勘弁して欲しいね。
願いを託されてる身にもなってほしいよ。

だいたいね。みんな勘違いしている。
俺ら流れ星に願い事しても意味ないんだよ。

俺も詳しく知らないんだけどさ、なんでもルーツがあるらしくて、旧約聖書に書いてるらしいのよ。

神様が天国のドームを開けて地上の世界を見守る時に流れ星が流れるって。

だから、俺らじゃなく、天国にいるとかいう神様に願い事をしなくちゃいけねーのよ。

それを

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組織の犬【短編小説#9】

「これ、先方に話す前に内部で議論したほうが良いと思いますよ。以前話した時は1時間もかかる作業とは双方認識してなかったので、先方も二時間だったら話が変わってくるという風になると思いますし。」

「でも、じゃあ誰がやるのかとなると、うちがやるなら追加料金もらわなくちゃいけないし、そのお金を出せるかというと、おそらく向こうは出せないし。だから、結局向こうがやることになると思うよ。」

「でも他にやり方な

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花ことばの発表日【短編小説#7】

花ことばの発表日【短編小説#7】

 その日は、朝から騒がしかった。と言うのも、花言葉が今朝初めて発表されたからである。自分だけの花言葉が記載された手紙が、蜜蜂によって、直接花たちに届けられていた。誰がどんな花言葉なのか、みんな興味深々だった。

 太陽の光が当たる席にキンモクセイが腰掛けていると、アマリリスが声をかけてきた。アマリリスは花言葉について話したくて仕方ないような雰囲気だったので、隣の席を差し出した。アマリリスは席に着く

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夢を売買する人【短編小説#6】

夢を売買する人【短編小説#6】

 人が見た夢を売買している人がいるという情報を仕入れた。情報を教えてくれた人によれば、その人は駅のホームで商売をしているらしいのだが、出没する駅はコロコロと変わるらしい。安い夢だと100円前後で購入できるとのことなので、場所が移動する前に興味本位で行ってみた。

 ある駅のホーム、1番奥の椅子にその人は座っていた。声をかけるまで確証はなかったが、なんとなく夢を売買してそうな雰囲気を醸し出していた。

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寝心地が良い場所【短編小説#5】

寝心地が良い場所【短編小説#5】

 やばい、これは寝過ぎた。と、目を覚ました瞬間にOversleepを直感し、体をぶわっと起こした。しかし、周りを見ると自分の部屋ではない。自分は一体どこで寝ているのか。そうだ。俺は美容室でシャンプーをしてもらっている内に寝てしまったんだと思い出した。しかし、周りを見渡しても、美容室には誰もいない。部屋は真っ暗。時計を見ると、深夜2時だった。
 
 おいおいおい、放置して帰るとかあるかよと思いつつも

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秘密ラジオの秘密【短編小説#4】

秘密ラジオの秘密【短編小説#4】

田所:「多くの方に愛していただいた、この「秘密ラジオ」もいよいよ本日でお別れとなります。2010年に番組自体が始まり、本当に多くのリスナーに愛されて、20年も続けさせていただきました。パーソナリティーとして、初回から本日の最後まで、この番組と共にあった、鈴木アナウンサー。ぜひ今の心境はどうですか!?」

鈴木:「もう感無量です。一言では到底言い表せません。長年にわたり、リスナーから秘密を募集してき

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僕らのリーダー【短編小説#3】

僕らのリーダー【短編小説#3】

???:「議論はかなり難航しそうだよ。やはり、我々の代表者としては、君しかいない。」

???:「気持ちは有り難いが、もう少し皆の意見も聞きたいんだ。君はどう思う?芝いぬ氏」

芝いぬ:「動物パークの経営継続か、閉園かを議論する重要な会議だ。閉園する場合、動物園で飼われている我々動物達はどうなるのか、非常に難しい交渉になると思う。残念ながら私はパークに対して忠実すぎてしまい、自らの意見を押し通せる

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