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目目、耳耳

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#短歌

美しき、百“希”夜行(夜天/女王蜂)

今、『先が見える人』と『先が見えない人』は、どちらの方が多いんだろう。

終わりが見えないなんちゃらウイルスに、もしかしたら明日起こるかもしれない震災に。

行きたい場所へ、行けない。

誰かに会いたいのに、会えない。

ピリピリした現実。

あっちを向いても、こっちを向いても、一寸先は闇。

自分のこともそうだけど、自分が好きな人達も。

たとえば、好きなミュージシャンのこと。

僕の大好きなバ

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滑る指先、滑ることば(湖とファルセット/田村穂隆)

滑る指先、滑ることば(湖とファルセット/田村穂隆)

水草が川面を覆う 忘れなさいあの日あふれた言葉のことは(p108)

たまりの水は腐る。流れる水は腐らない。と、いつかどこかで読んだ。たしかに、海なり湖なり腐るのは見たことがない。(赤潮とか、あれは腐っているわけじゃないか。)

海も湖も、あと池も、とどまっているようで、どこへでも行く。理由は他にもあるだろうけど、理由らしい理由はそれだろうか。ぼくが、水場を好きな理由。蛇口から水が流れる様を見るの

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夢の余薫(水銀飛行/中山俊一)

そこには、暗闇があって。上も下も前も後も。どころか、ぼく自身も、暗闇だ。けれど、辺りの暗闇と、暗闇のぼくは、別物であることを、知っている。そこには、地面もあって。歩く度に、足跡が残るから。その足跡は、柔らかく発光しているから。そんな夢のようだった。

落鉄の煌めくターフに青年期重ねる四月 晴れの重馬場(p100)

「夢のようだ」は、「桃源郷のようだ」のイコールのように、捉えられることが多いけど。

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「エモい」がわからない? これを読め(エモーショナルきりん大全/上篠翔)

エモい #とは

「エモい」とは、なんとも言い表せない素敵な気持ちになったときに使う、主に若者の間で浸透している俗語(スラング)です。

――ふじのーと(山梨県の観光、自然)HPより引用

「エモい とは」と、Google先生に訊いてみたところ、検索上位になっていたのが上記である。内容はさておき、なんで「山梨県の観光、自然」のサイトに「エモい」の意味が載っているんだとか、URLにも含まれている山

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この幸せが、あなたの(コンビニに生まれかわってしまっても/西村 曜)

「死にたい」で検索すれば出る相談窓口「死ぬ」では出てこなくなる(p102)

「熱」

ブタメンに湯を注いでいる最中に、カップを倒した。湯が半減したので、さらに追加。味が薄くなると思っていたけど、まったくそんなことはなく。さすが、カップ麵コーナーじゃなく、駄菓子コーナーに陳列されているだけある。つまるところ、これはおやつなので昼食ではないと、ぼくの良心が訴える。けれど、泣き腫らしたぼくは、腹に収ま

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都市、年、駆け行く(サウンドスケープに飛び乗って/久石 ソナ)

役割を担いたいよね灯台は午後五時前にひかりを宿す(p126)

すれ違うたびに傾く傘があるまれに掠めて分け合う温度(p51)

田舎生まれ田舎育ちのぼくには、都市の匂いはわからない。東京とか大阪とか、行ったことがないわけじゃない。でも、旅行者が感じる匂いと、そこで生活する人達が感じる匂いは、きっと違う。だから、ぼくが本当の都市の匂いを感じることは、これから先もない。と、思っていたんだけど。

『サ

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この水面、上から見るか?下から見るか?(水の聖歌隊/笹川 諒)

雨上がり、水たまりに曇り空が映り込んでいるのを見下ろすことがある。そのままじっとしていると、まるで空へ墜ちていく感覚に陥ることがある。「どぼん」とわかりやすく音を立てて。

椅子に深く、この世に浅く腰かける 何かこぼれる感じがあって(p6)

『水の聖歌隊』の先頭にあったこの短歌を読んだときに覚えた感覚が、まさしくそれだった。

「水面下へ、ようこそ」

と、誰かが言った気がした。

コインチョコ

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「刹那い」(花は泡、そこにいたって会いたいよ/初谷 むい)

『花は泡、そこにいたって会いたいよ』は、ぼくが初めて買った歌集だった。

一目惚れだった。表紙のイラストを、ぼくが元々ファンである大島 智子さんが担当していることも、一つの理由だったけど。

『花は泡、そこにいたって会いたいよ』

5・7・5のこのタイトルだけで、充分だった。初谷 むいという歌人に惹かれるには。

どこが好き?何か有っても無くっても撫でれば同じように鳴くから(p20)

「閉店後バ

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「お勉強しといてよ」(天才による凡人のための短歌教室/木下 龍也)

引き返すならいまである。

短歌でいいのか。

ほんとうに短歌でいいのか?

――本文より引用

と、3回引き止められたところで本編が始まる。

木下 龍也さんの『天才による凡人のための短歌教室』

僕は、1月1日から短歌を始めた。

1日3首、新潮文庫の『マイブック』に書き付けている。

きっかけは、何だったっけ。

あるとき、Amazonから歌集をいくつもおすすめされるようになった。

どうし

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「男もすなる日記といふもの」とは、いふものの(マイブック 2021年の記録/新潮文庫)(1347字)

1月1日新年1日目。

そして、『マイブック』の1頁目。

これから何を書き記そうかしらん……。

堀江敏幸さんの『彼女のいる背表紙』を読んでいると、内容とは一切関係なく、なぜか短歌を詠みたくなった。

・木漏れ日の明るい君の待つところ 僕は不遜にいびきをかいて

・「秘密だよ」たぶん、気のせい いつだって、君は片方靴を脱ぐから

・「嫌、嫌」と首振る君の微笑とは 好きも嫌いも僕はいらない

記念

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宙の裏側で、君を見ている。(100年後 あなたもわたしもいない日に/土門蘭、寺田マユミ)

時々、てのひらに違和感が出る。てのひらの皮膚の表面を、軽く電気が流れるような感覚がする。しびれというにはかすかすぎる感覚(後略)

――『拓けども拓けどもまだ』より引用

この歌集を読んでいたとき、自分の「てのひらに違和感が出」た。痙攣というほどではないけど、かたかた震えている。よく見ると、特に右の方が震えている。なぜか、人さし指だけ前の方に出ていて、そして最も震えている。

「何を主張しているの

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