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2021年12月の記事一覧

「自分と違っている者」たちの話(カモメに飛ぶことを教えた猫/ルイス・セプルベダ)

「自分と違っている者」たちの話(カモメに飛ぶことを教えた猫/ルイス・セプルベダ)

「最後に、ひなに飛ぶことを教えてやると、約束してください」
(中略)
「約束する。そのひなに、飛ぶことを教えてやる。さあ、もう休むんだ。ぼくは助けを呼んでくるから」

――p37-38より引用

もうすぐしぬことがわかっているカモメは、会ったばかりの猫に、これから生まれる子どもを託す。カモメじゃないどころか、羽も生えていない生きものに。

それは、他に託す人(?)がいなかっただけじゃなく。この人な

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夢の余薫(水銀飛行/中山俊一)

そこには、暗闇があって。上も下も前も後も。どころか、ぼく自身も、暗闇だ。けれど、辺りの暗闇と、暗闇のぼくは、別物であることを、知っている。そこには、地面もあって。歩く度に、足跡が残るから。その足跡は、柔らかく発光しているから。そんな夢のようだった。

落鉄の煌めくターフに青年期重ねる四月 晴れの重馬場(p100)

「夢のようだ」は、「桃源郷のようだ」のイコールのように、捉えられることが多いけど。

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知らない(パウル・クレーと愛の詩集)

クレーが好きだ。『思考のための死』とか『釣り人』とか、好きな絵はたくさんあるけど、有名なのは、『忘れっぽい天使』などの、天使の絵だろうか。白い紙に黒い線。の、簡素な絵。

晩年、強皮症を発症し、思い通りに動かない手で綴った線。が、とても優しく、とても悲しい絵になった。(と、感じているのは、ぼくだけど。)

クレーの天使達は、知らぬ存ぜぬ内に、ことばを呼び寄せる。谷川俊太郎は、彼らに心を動かされ、詩

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「想像してごらん」の実(グレープフルーツ・ジュース/オノ・ヨーコ)

「想像してごらん」の実(グレープフルーツ・ジュース/オノ・ヨーコ)

苦しさにも、種類がある。

メンタルとか、フィジカルとか、もしくは、どちらでもない、上手く例えられない苦しさ。

ふいに、息ができなくなる。のは、フィジカルだろうけど。原因は、(たぶん)メンタルにあって。どちらにも原因があるなら、どれからどれをすればいいのか、わからない。

八方塞がりのぼくは、どこへも行けない。横たわるだけで、精いっぱい。また、息ができるようになるまで、耐えている。どこへも行けな

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「君の願いはちゃんと叶うよ」(魔法の料理~君から君へ~/BUMP OF CHICKEN)

「君の願いはちゃんと叶うよ」(魔法の料理~君から君へ~/BUMP OF CHICKEN)

大きくなるんだ 伝えたいから
上手に話して 知って欲しいから
何て言えばいい 何もわからない

「頭おかしいんじゃないの?」

何て言えば、

「お前の心が弱いから、そうなるんだろ」

何て言えば、よかったんだ。

子どもは、友達を選べない。小学校に上がる前から、友達にはグループがあった。自分がどれにいるのか、時々変わったけど、ぼくはいつも一番下の人間だった。

他の子に嫌われていた自覚はある。た

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